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対話型で送金 マレーシア銀行の“前例のない”AIアシスタントとはセキュリティも重視

マレーシアのRyt Bankは対話型で送金などができるAIアシスタントを導入し、ユーザーの利便性向上につなげている。このAIアシスタントはどのような仕組みなのか。

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人工知能 | 金融 | 事例


 マレーシアのデジタル銀行Ryt Bankは独自のAIアシスタント「Ryt AI」を導入している。Ryt AIを使えば、「○○の口座に50リンギットを送金して」といった対話形式でさまざまな銀行の取引ができる。世界各国で金融機関がAI利用を進めている中、Ryt AIの取り組みはなぜユニークなのか。

Ryt AIの特徴と、気になる安全対策

 Ryt Bankは、「AI銀行」をコンセプトとして、広範囲にわたってAIを利用するデジタル銀行だ。マレーシア中央銀行によって管理されている。

 他の銀行もAIアシスタントの採用を始めているが、その大半は質問への回答や口座情報の提供などを主な用途としている。それに対し、Ryt AIはユーザーの指示に基づいて資金を移す権限を持っているのが特徴だ。マレーシアでAIアシスタントがコアバンキング取引の主要なインタフェースとして規制当局に承認されたのは、Ryt AIが初めてだという。

 Ryt Bankの最高製品責任者(CPO)フォン・チー・ムン氏は、「生成AIの時代においてどのような銀行が求められるかを考えたとき、自然言語でコアバンキングシステムと対話して取引を実行できる仕組みに需要があると判断した」とRyt AI開発の経緯を語る。

 Ryt AIは、YTL AI Labsが開発した大規模言語モデル(LLM)「ILMU」を採用している。ILMUは英語、マレー語、中国語が混在する指示を理解し、マレーシアの多言語環境に対応した処理能力を持っているという。フォン氏によると、AIベンダーによる既製品では多言語処理が困難だとみたため、ILMUを使った独自開発を決めた。独自開発によって、規制当局のさまざまな要求にも応じやすかったと同氏は説明する。

 Ryt BankはRyt AIの精度を高めるために、AIモデルの調整を手掛けるシンガポールの会社Cheminと協力した。Cheminは、Ryt AIが送金の指示だけではなく、複雑な会話も理解できるかどうかを確認するための「テスト質問」を用意。Ryt Bankはその質問によるテストを実施し、弱点を特定しながら、Ryt AIのパフォーマンスを向上させたとフォン氏は述べる。

 Ryt AIは悪用や、AIモデルが誤った情報を真実であるかのように生成する「幻覚」(ハルシネーション)を防ぐために、複数のAIエージェントを搭載してチェック体制を整えている。あるエージェントで、ユーザーの指示が不正なものや不適切なものではないかどうかを確認した後、別にエージェントを使って指示の意図やその文脈を理解し、それを踏まえて取引を実行する。

 Ryt Bankによると、全ての取引はユーザーの最終確認を必要とし、ユーザーがRyt AIの動作をコントロールできるようにしている。本稿執筆時点でRyt AIは5万人以上の利用者がおり、月に約8万件の取引を処理しているという。フォン氏によると、Ryt AIは継続利用(リテンション)の向上に寄与している。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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