HAMR移行で「HDD＝安い」神話が揺らぐ？ ニアラインSSDはどこまで攻め込むか：AI需要が招くストレージ再編

AI活用の進展に伴って、企業はストレージ設計の見直しを迫られている。AI関連の処理では、小さなファイルへのランダムアクセスやモデルへの高速アクセスが必要で、従来のHDDでは処理性能の限界が指摘されているからだ。

[TechTargetジャパン]

　AI（人工知能）技術を活用したサービスが次々に登場する中で、AIモデルの推論処理を支えるストレージには「リアルタイム性」と「大規模データの高速処理」が強く求められている。小さなファイルを頻繁にランダム読み取りし、AIモデルのパラメーターに素早くアクセスするAI推論ワークロードでは、IOPS（1秒当たりの入出力回数）やレイテンシ（遅延）がボトルネックになりやすい。

　こうした背景から、大規模データセンターでは「どこまでHDDで粘るか」「どこからSSDに切り替えるか」という議論が避けられなくなっている。単純な容量単価だけではなく、電力や冷却、ラックスペース、障害対応といった運用コストまでを含めて、総保有コスト（TCO）で比較し直す必要が出てきているからだ。

HAMR移行で揺らぐ「HDD＝安い」の前提

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　調査会社TrendForceは、2025年10月14日（台湾時間）に発表した調査結果で、HDD業界が次世代の熱アシスト磁気記録方式（HAMR）への移行において難しい局面にあると指摘した。新たな生産ラインへの多額の初期投資が必要になった一方で、現時点では容量拡大の効果が限定的であり、そのコストが顧客に転嫁されているのだ。同社によれば、HDDの1GB当たり単価は0.012〜0.013ドルから0.015〜0.016ドルへと上昇しており、従来の「HDD＝とにかく安い」というイメージに変化が生じつつある。

　一方でTrendForceは、NAND型フラッシュメモリについて、チップを積層して3次元（3D）構造を形成する技術の進化によって、HDDを上回るペースで容量拡大が進んでいると分析している。積層数は200層を超える水準に達し、1セル当たり4bitのデータを格納するQLC（クアッドレベルセル）方式の2Tbitチップが2026年までに量産段階に入る見通しだ。こうしたチップの普及が、ニアラインSSD（アクセス頻度の低いデータを保存するSSD）のコスト低減を後押しするというのが同社の見立てだ。

　AI推論向けワークロードの観点では、SSDは明確に優位に立つ。SSDはHDDに比べてIOPSが桁違いに多く、レイテンシもHDDがミリ秒単位なのに対してSSDはマイクロ秒単位に抑えやすい。ディスクを回転させるモーターを搭載しない構造のため、電力効率に優れるという特徴もある。大規模データセンターでは、電力や冷却、ラックスペースの削減効果が積み重なることで、SSDの初期コストの高さを相殺する可能性がある。

　TrendForceは、HAMRを採用したHDDの生産規模が拡大すればHDDコストが低下する余地はあるとの見方を示しつつも、「NAND型フラッシュメモリはコスト低下のペースと製造面での適応性の双方において構造的な優位性を持つ」と予測している。

編集者の一言解説

　SSDは“高性能だが高いストレージ”というイメージが強かったが、AIモデルを稼働させるデータセンターにとっては、電力やスペースを含めたトータルコストで見ると“HDDより安くなる可能性がある選択肢”になりつつある。容量単価だけではなく、10年スパンの運用コストでHDDとSSDを見直すタイミングに来ていると言えそうだ。