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自社に合ったAIエージェントはどれ? ユーザー企業が選択で直面する2つの問題AIエージェントツール市場は再編期に突入?

AIエージェントツール市場が拡大する中、選択肢の多さがユーザー企業の意思決定を停滞させる「選択のパラドックス」が顕在化している。選択における具体的な課題とは。

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経営 | 人工知能 | 業務改善


 人工知能(AI)エージェントを構築、活用するためのツール(以下、AIエージェントツール)の過剰供給により、ユーザー企業は「選択のパラドックス」に苦しんでいる――。AIエージェントツール市場の実態をこのように見る専門家がいる。何が起こっているのか。

ユーザー企業の具体的な悩みは?

 AIエージェントツールが続々と登場している中、ユーザー企業はどのツールを選ぶべきか判断を重ねながら、結果として意思決定を停滞させてしまう。一方AIエージェントツール市場は飽和状態に近づいており、近い将来、再編を迎えると指摘する専門家がいる。

 選択肢が多過ぎると、かえって購買意欲が減退する――この考え方は、心理学者バリー・シュワルツ氏が2024年に出版した著書『The Paradox of Choice:Why More is Less』の中で説明されている。

 Adobeのタイラー・ジェイコブセン氏(クラウド事業およびエンジニアリング担当ディレクター)は、「Adobeの社内であるAIツールや機能を標準化して展開しようとすると、その2週間後には社内の従業員が別の新しいツールや機能について話しているような状況だ」と話す。2025年9月にソフトウェアベンダーHashiCorpが開催したイベントの基調講演で明かした。

AIエージェントツールの購買で生じるジレンマ

 AIエージェントの活用はIT業界での主流となりつつあるが、IT企業の大半にとっては今なお長期的な最優先課題の1つとなっている。一方、Gartnerが2025年10月に公開した調査レポート「Gartner Says Agentic AI Supply Exceeds Demand, Market Correction Looms」によると、AIエージェントツール市場では製品やサービスが供給過剰の状態だという。

 同レポートは、「AIエージェントツール市場に存在するサービスや製品の供給量は、需要をはるかに上回っている。AIエージェントツールへの投資は指数関数的に増加しているが、短期的には逆風に直面している」と説明する。

 課題の1つとしてGartnerが挙げているのは、AIエージェントツールベンダーが提示する価格体系とユーザー企業が求める価格のギャップだ。同社によると、AIエージェントベンダーの価格設定は「不透明で予測不能、かつコストを回収するには不十分」と指摘する。一方、ユーザー企業が求めるのは「シンプルで予測可能、ビジネス価値に結びついた価格設定」だという。

 AIエージェントツールの供給過剰の規模について、ベンダーとユーザー企業の比率自体は明示されていない。レポートの執筆者の1人、Gartnerのウィル・ソマー氏(シニアディレクターアナリスト)は、AIエージェントツールにおける「価格設定、収益、コスト」のギャップは、深刻な問題だと説明する。

 「重要なのは、ベンダーの数に対するユーザー企業の数ではない。ベンダーがユーザー企業から得られる収益と、それにかかるコストの比率だ」。ソマー氏は米Informa TechTargetに宛てたメールでこう述べる。「例えば、クラウドサービスの販売が始まった頃、ハイパースケーラー各社は自社データセンターの余剰リソースを比較的安価な料金でユーザー企業に販売することができた。一方AIエージェントは、新たな知的財産への多額の投資と、過去に例を見ない規模のインフラやコンピューティングへの投資が必要だ」と強調する。

 ジェイコブセン氏が指摘した市場の変化は、AIエージェントベンダーにとっても問題だとソマー氏は述べている。

 「Gartnerがスタートアップの創業者やCEOに実施したインタビューによると、技術革新に基づく競争優位の“有効期間”は急速に短くなっており、数カ月単位にまで縮小していることがうかがえる」とソマー氏は述べる。「AIエージェントツールの新機能を収益化するのは非常に困難になる。なぜなら新機能がすぐに業界標準となってしまうからだ」とその課題を浮き彫りにする。

 とはいえ、競争優位を得るためにAIエージェントツールの活用を模索する企業にとって、このような不確実性の中で手をこまねいている余裕はないとGartnerは警鐘を鳴らす。

 「AI技術の世代交代に市場が適応している間も、AIエージェントツールへの投資は控えずに継続することを薦める。AIエージェントツールへの投資や活用の優先度を下げれば、同業他社に後れを取ることになる」(ソマー氏)

AIエージェントツールを使いこなすには

 AIエージェントツールの価格設定に加えて、AIエージェントツールのベンダーとユーザー企業の間には、スキルの格差という課題もある。AIエージェントツールベンダーの中には、AIエージェントツールを「人材不足を補う手段」として売り込む企業もある。しかし、実際にAIエージェントツールを使うには、その活用に当たりユーザー企業側に新たなスキルの習得が求められる場合がある。それが、導入のハードルとなっている。

 一方で、AIエージェントツールと人間の協働やシステム設計に関するオープンソースツールやトレーニングを提供するコミュニティーも登場している。その一例が、アジャイル開発の原則をAI駆動のシステム開発に適用したフレームワーク「Breakthrough Method of Agile AI-Driven Development」(BMAD)だ。BMADには、システム開発を支援するオープンソースのAIエージェントツールが含まれている。BMADの創設者ブライアン・マディソン氏によるトレーニング動画が「YouTube」に公開されている。人事採用システムベンダーHireologyのスコット・ゲイナス氏(エンジニアリング部門バイスプレジデント)は、自社のソフトウェア開発でAIエージェントツールを活用するに当たってBMADを参考にしているという。

 ゲイナス氏によると、BMADはAIチャットbot「Claude」のデスクトップアプリケーション「Claude for Desktop」や「ChatGPT」といったツールと組み合わせて使うことができる。AI支援機能を搭載したコードエディタ「Cursor」やCLI(コマンドラインインタフェース)で動作するエージェント型コーディング支援ツール「Claude Code」でも利用可能だ。

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