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「技術的負債」の放置が経営レベルの損失に 膨れ上がる“利息”の恐怖とは企業の成長を止めかねない技術的負債【前編】

企業は短期的な成果を優先し、時代遅れの技術となっている「技術的負債」の問題を先送りしがちだ。こうした状態は金融負債のように「利息」を生み、やがて企業の成長を止める。どのような問題につながるのか。

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 企業にとって、「負債」は金銭的な借金だけを指すものではない。ITの導入が加速するにつれて、企業やITリーダーを悩ませる新たな負債が生まれた。それが「技術的負債」だ。これは、業務維持のために技術的な近道(次善策)を選んだり、古い技術を使い続けたりすることによって生じる将来的なコストを指す。技術的負債は、放置する期間が長引くほど解決にかかる費用が増大し、金融負債のように「利息」が膨らんでいく傾向にある。

 企業は技術的負債に直面しながらも、短期的なコスト削減を優先しがちだ。その結果問題を先送りしてしまい、最終的により大掛かりな対処が必要になる。以下では技術的負債の概要と、それによって具体的に生じ得る問題を解説する。

どれだけ古ければ「技術的負債」なのか

 CIO(最高情報責任者)をはじめとするITリーダーは、技術的負債が企業の業績、拡張性、顧客満足度に与える影響を経営陣に示し、企業全体でこの問題に取り組む必要がある。同時に、技術的負債が経営層の懸念事項であるだけではなく、日々の業務、システムの安定性、新しいプロジェクトの推進スピードに影響を与えていることを、現場のIT担当者にも理解してもらうことが重要だ。

 企業向けソフトウェアのサポートベンダーRimini Streetでエグゼクティブバイスプレジデント兼グローバルCIOを務めるジョー・ロカンドロ氏は、「技術的負債は、ビジネスに必要な機能やイノベーションの妨げになり得る」と語る。同氏は、システムが3世代以上前のバージョンになると技術的負債が発生すると指摘する。

 技術的負債には、インフラ、ネットワーク、ハードウェア、OS、アプリケーション、データベースなど、さまざまな階層が存在する。ロカンドロ氏によれば、経営陣は技術的負債の比率について頻繁に尋ねる。この比率は、新しい技術への投資に割く時間と、古い技術の修正に費やす時間の比率で示される。古い技術の修正に割く時間の割合が低いほど、時間と労働力を未来の価値創出に投資できることを意味し、技術的負債をより効果的に管理できている指標になる。

 ITリーダーが技術的負債を削減するには、まず企業全体の合意形成が必要だ。その上で現状を評価し、システム継続的なガバナンス体制を確立して、テクノロジーのライフサイクルを効果的に管理することが求められる。

技術的負債がビジネスに与える影響

 技術的負債は企業に深刻な問題を引き起こし、経済的損失や成長の鈍化を生みかねない。適切な管理をせずに技術的負債を放置すれば、経営に関わる新たな問題が発生し、経営陣は取締役会でその対処や釈明に追われることになる。

 企業向けAI(人工知能)ツールを手掛けるUnframeの共同創設者兼CEOシェイ・レビ氏は、技術的負債を「絡み合った配線の網」に例える。同氏は、「配線が数本ならまだ動けるが、1000本にもなれば身動きが取れず、完全に窒息してしまう」と語る。技術的負債によって身動きが取れなくなった企業は、新しい技術開発や事業拡大どころか、負債を解消することも困難になるという。

 「企業の能力は、その企業が保有する最も古いテクノロジーによって決まってしまう。システムの一部を更新すると、仕様の違いで古いシステムと連携できなくなり、結果として大規模な刷新と費用の増大を招く」とロカンドロ氏は言う。

 技術的負債は、以下の問題を引き起こす可能性がある。

問題1.費用の増大

 技術的負債が積み重なると、問題解決により多くの費用が必要になりがちだ。システムのダウンタイム(停止時間)に伴う機会喪失、障害対応に必要な人員の再配分、複雑化するシステムの維持管理といった形で、費用と負担がかさんでいく。

問題2.リスクとコンプライアンス違反

 システムが古くなると、セキュリティが重大な懸念事項になる。セキュリティパッチ(修正プログラム)を適用できていない古いシステムには脆弱(ぜいじゃく)性が存在する上、そもそも最新のセキュリティ機能が欠けている。こうした状態は、サイバー攻撃者の格好の標的になる。これによってデータが漏えいし、コンプライアンス違反に問われる危険性がある。データ分析ツールベンダーDataChatの共同創設者兼CTO(最高技術責任者)であるロジャース・ジェフリー・レオ・ジョン氏は、サイバー攻撃者が古いシステムを狙っている現状を指摘する。「攻撃者がシステムの脆弱な箇所を特定すれば、企業の全機密データが漏えいする可能性がある」と警告する。

問題3.イノベーションの停滞

 技術的負債があると、開発者やIT担当者が問題の修正に追われ、新しい技術開発に割く時間が失われるこれは企業のイノベーションを制限する。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA:University of California, Los Angeles)の経営大学院(Anderson School of Management)のCIOであるハワード・ミラー氏は、「全ての従業員が古いシステムに精通しているわけではなく、もし担当者が退職した場合、そのシステムを扱える人材を確保すること企業の足かせになる」と指摘する。

問題4.成長の鈍化

 技術的負債によって、企業は古いシステムの運用や問題修正に人手を割かざるを得なくなる。こうした状態は、事業規模の拡大を妨げる要因になる。事業拡大に伴って、膨らんだ技術的負債がシステムの更新を妨げ、ツールの保守を難しくする。

問題5.サービス品質の低下

 ソフトウェアの不具合を引き起こす根本的な問題が放置されたままの状態は、システムが機能不全を起こし、サービスの品質を低下させる恐れがある。レガシーシステムの更新が不可能な場合、エラーやバグの発生リスクが高まりやすい。こうしたシステム障害は顧客サービスに悪影響を与え、事業の成長を妨げ、顧客満足度を低下させる原因になる。


 次回は、技術的負債を解決するための具体的な手順を紹介する。

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