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AI活用を失敗させる「サイロ」の正体 今すぐ断ち切るべき“悪循環”とはAIの「サイロ化」を解消するには【前編】

企業のAIツール活用が進む一方で、無秩序な導入がAIツールやデータの「サイロ化」を招いている。無駄な投資やコンプライアンス違反を引き起こしかねないサイロ化に対し、企業が立てるべき戦略とは何か。

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人工知能 | CIO | データ統合 | 運用管理


 企業規模を問わずAI(人工知能)技術、とりわけ生成AIは、企業のビジネスに欠かせない要素になりつつある。だが新技術の黎明(れいめい)期によく見られるように、生成AIの展開は断片的に進んでいるのが実情だ。社内のさまざまな部門やチームが、多岐にわたる用途のために、それぞれ異なる生成AIツールを個別に導入しているからだ。

 個々の部門やチーム単位で見ればメリットを享受できていても、企業全体で見ると、統一性がない断片的な導入は、「AIツールのサイロ(分断)化」という問題を引き起こす。CIO(最高情報責任者)にとって、このようなサイロ化は、複数の事業部門で類似プロジェクトが乱立する「重複投資」を引き起こす。管理されていないAIツールの利用が企業のセキュリティ要件を満たさず、コンプライアンス(法令順守)上のリスクを招く可能性があることも懸念点だ。

 AIツールのサイロ化は、データの品質を低下させ、本来得られるはずの価値創出の機会を損なうことにつながる。以下ではこの問題を防ぐための戦略を取り上げる。

なぜ「AIツールの統合」がCIOの最優先事項なのか

 CIOには、ITポリシーの策定や全社的な技術戦略とその運用モデルの定義など、多岐にわたる責任がある。その中で、なぜAIツールに関するデータ、戦略、ガバナンスを全社レベルで統一し、相互に連携させる「AIツールの統合」が優先事項なのか。主な理由は以下の3つに集約される。

  • 取締役会からの指示
    • 大半の企業の取締役会が、AIツールの活用を経営課題として義務付け始めている。
  • 規制順守の厳格化
    • プライバシーやセキュリティに関する規制要件が、AIツールの利用に与える影響力が増大している。
  • 全社的な戦略
    • 相互運用性と投資効率を向上させるためには、全社規模でのAI戦略とデータ戦略の策定が不可欠だ。

 食品流通会社National Food GroupのCIOであるトッド・ロワゼル氏は、AIツールについて「収益の拡大、経費削減、従業員の業務効率化を支援する、企業にとっての『強力な道具』だ」と表現する。

 「誰もが日々の業務の中で、反復的で付加価値の低いタスクに時間を費やしている。AIツールによってそれらを迅速に処理できれば、従業員はよりインパクトの大きい、創造的な仕事に集中できるようになる」とロワゼル氏は語る。

 デブライ大学(DeVry University)のCIO、クリス・キャンベル氏にとっても、AIツールの統合は最優先事項だ。個々のツールが孤立した状態で実証実験を進めても、持続的な価値を提供できないからだという。

 「統合は極めて重要だ。サイロ化された実験的なツール導入を通じて局所的な洞察は得られても、永続的な価値を生むことはほとんどない。企業にとっての成功とは、単一の機能による成果創出ではなく、企業全体で成果を生むためにAIツールを活用することだ」(キャンベル氏)

CIOのためのAIツール統合ガイド

 アプローチは企業の要件によって異なるが、成功する「AIツール統合戦略」には、共通して以下の6つの柱が存在する。

1.全社的なAI戦略

 AIツールの導入を単なる実験で終わらせず、ビジネスの目標に整合させることが重要だ。リーダーは以下を実行する必要がある。

  • 技術起点ではなく、ビジネス戦略起点で計画を立てる。
  • CEOの理解や協力を得て、必要な予算を確保する。
  • まずは少数でインパクトの大きい機会に人材や予算を集中させ、成功体験を積み重ねて拡大する。

2.データの統合

 データはAIツール活用の要だ。明確なガバナンスを備えた「データファブリック」(異なる場所に点在するデータを一元的に扱うアーキテクチャ)を構築するために、以下を実施する。

  • 全社でデータを一元的に扱える共通のシステムを構築する。
  • AIツールに特化したガバナンスを策定する。
  • AIツール用に整備したデータの特徴量(性質を数値に変換した情報)をチーム間で使い回せるよう、特徴量を一元管理する仕組み(フィーチャーストア)を整備する。

3.共通サービス化

 AIツールの統合を効果的なものにするには、企業全体でAIツールと、AIサービスや社内システムにアクセスするためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)を標準化し、誰もが利用できる「共通サービス」として提供することが有効だ。具体的には以下を実行するとよい。

  • 開発チームが利用する共通のツールやワークフローを「プラットフォーム」として整備、提供する「プラットフォームエンジニアリング」を実施する。
  • APIを利用するリクエストを制御するためのサーバ「APIゲートウェイ」を展開する。
  • 場当たり的なツールの導入を避け、全社で使い回せるサービス、ガバナンス、データパイプラインといった共通の仕組みを作成する。

4.企業横断的なコラボレーション

 事業部門間の連携がなければサイロ化は解消されない。IT部門、データサイエンス部門、事業部門の壁を取り払うには、以下が有効だ。

  • 複数分野の専門家から成る混成チームを結成する。
  • 従業員が日常的に使用する業務ツールにAI機能を組み込む。これによって専門知識の有無にかかわらず、他部門が手掛けたAI機能や成果物を、全社で利用できる状態を整える。

5.チェンジマネジメント

 AIツールの統合は、単なるツールの入れ替えではない。従業員が慣れ親しんだ個別のやり方から脱却し、全社標準の新しい働き方に移行するプロセスでもある。チームのスキルアップ(リスキリング)、抵抗感の排除、価値の伝達において、改革の管理(チェンジマネジメント)は不可欠だ。

  • 役割別の従業員トレーニングを実施する。
  • 多様なステークホルダーに対してAIツール統合の価値を伝える。

6.ガバナンスとコンプライアンス

 リスク管理、透明性、倫理に関する規定を、日常の業務フローに組み込む。

  • AIツールの透明性を運用可能な状態にする。
  • 米国国立標準技術研究所(NIST)の「AIリスクマネジメントフレームワーク」(AI RMF)などのAI技術に関するフレームワーク(ガイドライン)を導入する。
  • 規制要件に準拠する。
  • 自動化されたコンプライアンスツールやリスク評価ツールなど、監視システムを確立する。

 次回は、AIツールのサイロ化の解消に挑んだCIOの事例と、実践のためのチェックリストを紹介する。

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