「まだ必要とされている」 COBOLエンジニアの現実とこれから:継続か刷新か
COBOLは現代においても基幹系を支える重要な存在だが、刷新の波と人材不足の狭間でエンジニアは進路を問われている。その現実と選択肢を整理する。
基幹系システムの中核で動き続けるプログラミング言語「COBOL」は、企業が継続して利用してきた存在である。その一方で、レガシーアプリケーション刷新の必要性が強く意識されるようになった今、COBOLに携わるエンジニアの立場は揺れている。現場では「まだ必要とされている」と感じるエンジニアが多いだろう。しかし、将来を考えたとき、COBOLに関わる人材がどのように進路を描くべきかは簡単ではない。本稿では、TechTargetジャパンやComputer Weeklyの記事から、現場が抱える事情とエンジニアが選べる道筋を整理する。
安定しているが将来は?
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COBOLは半世紀以上にわたり利用されてきた。特に金融や流通、公共分野では、COBOLプログラムは日々の取引処理を支える中核であり、これを動かし続ける責任は大きい。「古いが重要」という状況が続く中、エンジニアは安定と不安の両方を抱えている。現場ではCOBOLの必要性が語られ、一方で刷新の議論も絶えない。この二つの流れをどう捉えるかが、整理の上ではポイントになる。
COBOLが残る背景には、単に置き換えが難しいという理由以上のものがある。運用実績を積み重ねてきたシステムは、「止めないこと」が優先される状況にある。企業は新しい技術を導入したいと考えても、現行システムの停止に伴うリスクが高すぎると判断する傾向が強い。
古いCOBOLが動き続ける理由について、「今動いているから」という現場の判断が重視されるという指摘がある(出典:“古いCOBOL”が動き続けるのは「単に動くから」である可能性)。この“動いているから変えられない”という心理は根深く、経営層が刷新に踏み切れない背景の一つになっている。
また、古いCOBOLをやめない理由を整理した分析では、コストやリスクが見えにくいことが刷新の障壁になっている状況が示されている(出典:“古いCOBOL”をやめない理由を説明できるか?)。基幹系の仕様が複雑に絡み、変更に伴う影響範囲が読みにくい点も判断を難しくしていると言えるだろう。
現場で積み重ねられた業務知識も、刷新を難しくする要因だ。既存のCOBOLプログラムは度重なる改修で構造が複雑化しており、当時の担当者ですら解読に苦労する場面がある。属人化が進んだシステムでは、刷新よりも維持を選ぶ方が安全と感じられることがある。こうした事情が、COBOLを依然として企業の中心にとどめていると言えそうだ。
COBOLエンジニアの需要は2025年時点でも安定している。企業は基幹システムを維持するために経験者を求めているからだ。しかし、若手が入らずに現場の高齢化が進めば、COBOLで開発されたシステムの維持は困難になるだろう。
この状況は、エンジニアのキャリア選択に影響する。COBOLに特化した働き方は短期的には有利でも、長期的に安定するとは限らない。若手が増えず、教育体制が整いにくい現場では、負荷が個人に集中する可能性がある。こうした不安から、転向を視野に入れるCOBOLエンジニアも現れているようだ。
経験を活かしながら価値を広げる
エンジニアにとってCOBOLでの開発を続ける価値は依然として大きい。基幹系の運用に関わる実務は、業務プロセスの理解とセットになっており、単にコードを書くだけの仕事ではない。障害時の対応や業務要件の吸収など、COBOLエンジニアが担う役割は多岐にわたる。
ただし、続けるだけでは選択肢が狭くなる。メインフレームに関する分析では、COBOLの扱いが刷新プロジェクトの成否を左右する場面が多いとされている(出典:「COBOL」を楽に脱却できれば“メインフレーム最新化”は進む)。COBOL経験者が刷新の設計段階から関与すれば、過去の資産を無理なく引き継げる可能性が高まり、エンジニア個人の価値向上にもつながるだろう。
COBOL開発を続ける道を選ぶなら、周辺技術を理解することが重要になる。API化や外部接続、クラウド連携など、基幹系を取り巻く仕組みは年々変化している。業務知識に加えて、システム全体を見る視点を育てることが、今後の価値につながる。
海外では、生成AIを使ったCOBOLからの移行が始まっている。IBMが生成AIを取り入れ、COBOLプログラムのモダナイズを支援する取り組みを紹介した記事では、変換作業の効率が大きく向上する可能性が語られている(出典:IBM uses generative AI to modernise mainframe Cobol)。
さらに、レガシーアプリケーションのモダナイゼーションによる利点を整理した分析では、再利用性の向上や運用コストの削減が強調されている(出典:Legacy application modernization benefits revealed)。こうした動きは、COBOLエンジニアが新しい役割を担うためのヒントになる。
転向の選択肢としては、JavaやC#などの汎用言語への移行、クラウド基盤の習得、データ移行やAPI設計などがある。COBOL経験を土台に、基幹系全体を理解する力を次の言語へ転換するイメージだ。業務知識を持つ技術者は、モダナイゼーションの現場で強みを発揮しやすい。
選択を二択に限定しない
企業はCOBOLプログラムを残すべきか刷新すべきかの判断に悩む。維持には人材が必要で、刷新には時間と費用がかかる。どちらにも負担があり、容易に方向性を決められない。人材不足が刷新の引き金になることもあれば、刷新の失敗が維持を選択させることもある。
人材側も同じように揺れる。COBOLでの開発を続けるか、別の技術に進むか。こうした迷いの中で、最も大切なのは選択肢を二つに絞らない姿勢である。COBOLでの開発を続けながら周辺技術を学ぶ道もあれば、モダナイゼーション専門に進む道もある。
COBOL経験をどのように使うかを考えることが、これからのキャリア形成に欠かせない。基幹系の仕組みを理解し、刷新の方向性を描ける技術者は、COBOL経験の有無にかかわらず価値を持つ。企業と人材は、それぞれの判断をすり合わせながら前に進む必要がある。
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