部下が知らぬ間に病んでいく「静かな崩壊」が起きている「3つの元凶」:5人に1人が陥る「静かな崩壊」の実態【中編】
従業員が仕事への意欲を失い、生産性の低下を招く「静かな崩壊」が広がっている。ガラスにひびが入っていくように、従業員の不満が徐々に募っていくことで生じるため、気付かれにくいのが特徴だ。このような現象が広がる背景には何があるのか。
ガラスにひびが入るように、従業員が仕事への意欲を徐々に失い、生産性の低下を招く「静かな崩壊」が広がっている。燃え尽き症候群や退職にもつながるリスクがあるため注意が必要だ。こうした静かな崩壊が広がっている背景には、どのような事情があるのか。
「静かな崩壊」が起きている3つの理由
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連載:5人に1人が陥る「静かな崩壊」の実態
徐々に広がる「無言の意思表示」
コンサルティング企業Gallupが2025年1月に発表した調査結果によると、米国の従業員のエンゲージメント(仕事への関与度)は過去最悪の水準だ。2024年には従業員のエンゲージメントが過去10年で最も低い水準にまで落ち込み、仕事に没頭していると感じる従業員は31%だった。従業員のエンゲージメントは、創造性やイノベーションに直結する。従業員が仕事に無関心になるとイノベーションが停滞し、生産性が低下する。
職場への無関心や不満は“感染症”のように拡大し、燃え尽き症候群や大量離職につながる可能性がある。従業員のエンゲージメントが低下する要因は以下の通りだ。
不安定な雇用市場
テクノロジー業界を中心にレイオフが続く中、従業員は満足していない仕事でも辞めずにとどまりやすい一方、会社とのつながりは弱まる。
ワークライフバランスの欠如
早朝からチャットツールにログインし、夜遅くまでメールに返答する「常時接続の文化」により、仕事とプライベートの境界が曖昧(あいまい)になっている。
出社義務(オフィス回帰)の増加
出社を義務付ける企業が増えているが、従業員全員が納得しているわけではなく、不満につながっている。
人材管理システムのベンダーisolvedのCPO(Chief People Officer:最高人事責任者)、エイミー・モッシャー氏は、同社の調査レポート『Voice of the Workforce(2024-2025)』の結果を引用して次のように述べる。
「2024年には、79%の従業員が燃え尽き症候群を経験し、半数以上が『エンゲージメントとパフォーマンスが低下した』と答えた。静かな崩壊は企業文化が静かに侵食されるだけではなく、放置すれば事業に明確な影響が出る」
この調査は米国のフルタイム従業員1000人以上を対象に実施したものだ。
企業への影響は大きい
静かな崩壊はじわじわと進むが、その影響は大きい。「従業員のモチベーションを下げるだけではなく、企業の業績にも直結する」と、心理学者で、コンサルティング会社Fractional InsightsのCEOを務めるショナ・ウォーターズ氏は指摘する。同氏によると、米国の企業ランキング「Fortune 1000」に選ばれた企業全体で、年間2億4000万〜3億3000万ドルの損失が生じている。
生産性の低下
仕事への意欲が薄れている従業員は出社はするものの、仕事の質は低下している。生産性や仕事の質の低下は、企業に経済的損失だけではなくブランドを毀損(きそん)するリスクをもたらす。
創造性とイノベーションの低下
エネルギーが尽き、力を発揮できない従業員が増えると、企業のイノベーションは停滞し、競争力の低下につながる。モッシャー氏は「意欲のない従業員は、組織の敏捷(びんしょう)性を失わせる」と述べる。
離職率の増加
従業員のエンゲージメントを向上させるツールを提供するApplauzによると、年俸制の従業員を採用するコストは「従業員の年収の半分〜4倍」に達するという。静かな崩壊が従業員の退職につながる以上、企業は早急に対処する必要がある。
「意欲の薄れた従業員の存在は、管理職の燃え尽き症候群も引き起こす」とモッシャー氏は指摘する。従業員が仕事との感情的なつながりを失うと、管理職やリーダーがその穴を埋めざるを得ず、負荷が集中し、燃え尽き症候群につながる。こうして静かな崩壊は深刻化するため、根本的な原因に対処し、従業員の無関心が組織全体に広がるのを防ぐ必要がある。
次回は、静かな崩壊への対処法を解説する。
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