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AI投資を「負債」にしない 2026年にIT部門が構築すべきAIの仕組みは鍵を握るのは「セマンティックレイヤー」

2025年、企業はさまざまな場面で人工知能(AI)を導入し、その成果に注目した。成果を次のステップに生かすための分岐点はどこにあるのか。データ分析の専門家が2025年のAI動向を踏まえて紹介する。

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 2026年、人工知能(AI)ツールの導入で成果を出せる企業が注視すべきテーマは何か。米Informa TechTargetの調査部門Omdiaの上級アナリスト、スティーブン・カタンザノ氏(データマネジメントおよびアナリティクス担当)が、2025年のAI動向を踏まえて分析した内容を紹介する。

企業が注視すべきテーマは

 2025年、データマネジメント市場はAIの成功を「モデルの問題」ではなく「データの問題」として扱うようになった。企業は、どれほど大規模言語モデル(LLM)を革新しても、ガバナンスが不十分、定義が曖昧、運用現場と乖離(かいり)したデータではせっかく出した成果の質を損なうことを学んだ。

 2025年の間に浮かび上がったのは、「AIをスケールさせるために本当に必要なもの」への現実的な理解だ。正確で一貫性のあるデータ、「セマンティックレイヤー」(データが持つ意味や定義を全社で共有する仕組み)の整備、強固なガバナンス、業務への統合といった要素は「ベストプラクティス」から「必須条件」へと変化した。2026年、この流れはさらに明確になる。焦点は、機能を寄せ集めることから、それらを企業全体で一貫して連携させることへと移っていく。

 2025年は、データマネジメントやAIツールの統合が進んだ年だった。この動きの裏には、「データを扱うためのプラットフォームを少なくしたい」「担当部署やシステム間でのデータ連携を繰り返すことで、データの意味やルールを変えたくない」「データの意味やガバナンス、責任を一貫させた状態を保ちたい」という企業の意思が存在した。

 2026年、企業はベンダー数よりも、データライフサイクル全体における統合の深度に注目するようになる可能性がある。エンドツーエンドのプラットフォームは、機能の幅広さだけでなく、データの取り込み、変換、ガバナンス、監視、分析、AIがどれだけ一体的に機能するかで評価されるようになる。

 企業が問うのは、「このプラットフォームは何でもできるか?」ではなく、「このプラットフォームは一貫して動作するか?」だ。表面的な機能の多様さよりも、運用面での一貫性や共通基盤への重視が企業の中で高まっていく傾向は進む。

 セマンティックレイヤーは新しい概念ではないが、その重要性は2025年に変化した。AIシステムが業務プロセスに深く組み込まれるにつれ、企業は新たなリスクに直面した。「誤った推論の発生」ではなく、「同じ概念に対して部署ごとに定義が異なることで発生する不整合な推論の発生」だ。

 2026年、セマンティックレイヤーの役割は「分析を支える」から「組織の整合性を支える」へと移行する。「セマンティックモデル」(データの「意味」を定義する辞書のようなもの)を標準化するためのコンソーシアム「Open Semantic Interchange」(OSI)設立を踏まえたセマンティックモデルのオープン標準化の動きは、ビジネス上の意味を個々のツールに閉じ込めるべきではないという認識の高まりを示している。

 セマンティックモデルが標準化されれば、データにひも付く定義や指標、ロジックをプラットフォーム、アプリケーション、AIシステム間で再利用できる可能性がある。これは、AIが複数のシステムを横断して動作する企業にとっては重要な動きだ。共通のセマンティックモデルを使うことで、以下の効果が期待できるためだ。

  • データユーザー同士の摩擦が減る。
  • 推論の信頼が高まる。
  • 複数のLLMが学習したデータの内容やデータを集約した上で出力した内容を検証せずに、データを運用したり拡張したりできるようになる。

 2025年、データをサービスやアプリケーション向けに活用して再利用可能な形で提供する「データプロダクト」という概念が受け入れられ始めた。2026年には、それが運用上の構成要素として成熟すると考えている。データプロダクトは単なる精選済みデータセットではなく、文脈、品質基準、ガバナンスルール、意図のドキュメントまでを含むようになる。

 この変化の目的は、役割の置換ではなくデータユーザー同士の摩擦の低減にある。従来は、データの探索、解釈、検証にデータユーザー同士が時間を取っていた。データプロダクトの機能が整備されれば、データユーザーはデータの活用により多くの時間を割けるようになる。信頼できるデータプロダクトは生データとAIシステムの橋渡し役となり、AIの推論の精度をより高めることが期待される。データプロダクトに投資できる企業は、部門やユースケースを横断してもデータの一貫性を保ちながらより責任ある形でAIをスケールさせやすくなる。

AIガバナンスは上流へ移行する

 自律的に思考しタスクを実行する「AIエージェント」や、LLMとアプリケーションがやりとりするための標準規格「Model Context Protocol」(MCP)が2025年に注目されたのは、それが「分析するだけでなく行動する」AIシステムの未来を示唆していたからだ。2026年、この議論はより実践的なものになる。企業の中にはAIを使った自動化を独立したシステムとして運用してきたところもある。2026年は、既存の業務プロセスや統制ルールの中にAIを埋め込むための方法論に注目する企業も拡大すると理解している。

 重要な転換点はガバナンスの位置付けだ。AIシステムの推論に事後的にガバナンスを適用するのではなく、データの設計、承認、公開のプロセス自体に監視の仕組みを組み込む。この結果得られるのは、「制御なき自律性」ではなく、「ビルトインされた安全策を前提とした業務処理スピードの向上」だ。

データとパートナーへの信頼がAI導入の速度を決める

 データへの信頼はAIにおける中心的なテーマの1つだった。2026年、AIがより重要な分野に導入される中で、企業は「何を」「いつ」「なぜ」「誰と」展開するのかをより慎重に判断するようになる。

 信頼を重視することで、イノベーションの速度や質が下がる訳ではない。企業は、「実験」と「本番運用」とを切り分ける運用に進む。データ品質、ガバナンス、出力の根拠を説明できる程度の仕組み作りに早くから投資してきた企業は、自信をもって前進できる。そうでない企業には、基盤の強化に取り組むことを薦める。

 あらゆる企業、業界がAIを使う選択肢を選べる時代になった。AIを使って他社と差別化を図っていくためには、データの意味、出力の信頼性、運用体制をどの程度管理できるかが重要になっている。成功する企業は、新規性を追う企業ではなく、「責任あるスケール」を支える強固で一貫した基盤を築く企業である。

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