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2026年、ベンダー年頭所感の「行間」を読む ひそかに進む“選別”と“値上げ”Microsoft、AWS…… 経営層の言葉を「翻訳」

ベンダーの年頭所感にはきらびやかな言葉が並んでいるが、その水面下では「強制値上げ」と「パートナー選別」が進んでいる。主要ITベンダーの2026年戦略を読み解き、情シスが今すぐ打つべき3つの防衛策を提示する。

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 2026年の仕事始め、IT担当者のメールボックスには、取引先ベンダーからの「年頭のごあいさつ」や、CEOによる「新年の戦略発表」が届いていたことだろう。それらの大半は「AI(人工知能)エージェントによる業務変革」や「顧客の成功へのコミットメント」をうたう、希望に満ちたものだ。だが、それらの文言を額面通りに受け取ることは早計だ。

 TechTargetジャパン編集部は、Microsoft、Amazon Web Services(AWS)、Salesforce、Broadcom、NVIDIA、Red Hat(IBM傘下)などの主要ITベンダーが公表した2026年の事業戦略やCEOのメッセージを分析した。そこから浮かび上がってきたのは、「巨額のAI投資回収フェーズ」への突入と、それに伴う「パートナーおよび顧客の選別」というシビアな現実だ。

 Microsoftの大口顧客向け契約である「Enterprise Agreement」(EA)の価格改定、Salesforceの従量課金導入、AWSによるパートナーの「選別」――。これらは単なる戦略変更ではない。IT部門の予算計画を直撃する「隠れた請求書」だ。本稿は、ITベンダー各社の「表向きのメッセージ」を、実務担当者が直面する「リスク」に翻訳し、企業が2026年に取るべき防衛策を提言する。

Microsoft:避けられないAI機能と強制値上げ

 2026年のベンダー戦略における大きな特徴は、AIが「オプション」(追加機能)から「標準実装」(強制)に変わり、その料金が基本ライセンスに転嫁され始めたことだ。

2026年は、日本企業がAIを活用してビジネスを再定義する「フロンティア組織」へと進化する年です。当社はその変革を全方位で支援します。

日本マイクロソフトの代表取締役社長 津坂美樹氏の年頭所感を一部要約)

 日本マイクロソフトの津坂氏は年頭所感で「フロンティア組織」の全面的な支援を掲げた。しかし「全方位で支援」という言葉は、裏を返せば「逃げ場がない」ことを意味する。MicrosoftはクラウドサービスのEA契約において、ボリュームディスカウントの実質的な撤廃を進めている。

 従来EA契約には、エンドユーザー数やデバイス数などの購入規模に応じて「レベルA」から「レベルD」までの4段階の価格ランクが存在した。規模が大きいレベルDほど割引率が高く、単価は安くなる仕組みだ。2025年11月にMicrosoftは、同社のクラウドサービスにおいてその仕組みを変更し、数万ライセンスを購入する大企業であっても、割引率が最も低い(価格が高い)レベルA価格に統一した。AIアシスタント「Microsoft Copilot」などのAI機能の標準実装に伴う基本価格の引き上げに加え、ボリュームディスカウントという「大企業の特権」も剥奪された形であり、大規模企業ほど更新時の影響が大きい。

 「うちはまだAIを使わないから安くしてくれ」という交渉は、通用しなくなる可能性がある。2026年のMicrosoft契約更改では、予算増額を覚悟しておかなければならない。

Salesforce:「AIとの協働」の本当の意味

Salesforceは2025年、自律型AIエージェント「Agentforce」を日本市場に展開するとともに、人とAIエージェントが協働し、共にカスタマーサクセスを推進する新しい企業像「エージェンティックエンタープライズ」を提唱しました。2025年に完了した、データマネジメントツールベンダーInformaticaの買収によって、AIエージェントが信頼できる文脈(コンテキスト)を持ち、高品質かつ迅速に成果を創出できる構造が整いました。

セールスフォース・ジャパンの代表取締役会長兼社長 小出伸一氏の年頭所感を一部要約)

 小出氏が使う「協働」という言葉の裏には、Salesforceが推し進めるビジネスモデルの根本的な転換がある。これまでの副操縦士(copilot)型AIアシスタントは、人が指示を出して初めて動く“ツール”だった。そこから進化したAIエージェントは自律的に思考し、人の指示を待たずにタスクを遂行する“労働力”だ。

 料金体系も変化している。2025年5月、Salesforceは従来の1エンドユーザーごとの料金(ID課金)に加え、AIエージェントが処理した会話や行動の数に応じて課金される料金モデル「Flex Credits」を導入した。これはIT部門にとって悪夢になり得る。現場が便利がってAIエージェントに仕事を任せ過ぎた結果、AIエージェントという「見えない部下」の人件費が青天井に膨らむ「クラウド破産」のリスクがあるからだ。

 あいさつ内で触れられている「Informaticaの買収」も見逃せない。AIエージェントの精度を高めるためのデータを、Salesforceのデータ連携サービス「Data 360」に一極集中させる狙いがあり、データ管理におけるベンダーロックインを加速させている。

AWS:「AI/セキュリティへの注力」の真意

2025年のAWSは、お客さまのAI活用を中心としたデジタルトランスフォーメーションによる価値創造、地域創生、社会貢献に注力した年でした。生成AI、エージェンティックAIの実用化推進・実装加速、セキュリティの徹底、AIサービスやクラウド活用における安心・安全を確保するレジリエンシー強化、セキュリティ強化などに取り組みました。2023年から2027年にかけては、2兆2600億円の投資を計画しています。

アマゾン ウェブ サービス ジャパンの代表執行役員社長 白幡晶彦氏の年頭所感を一部要約)

 白幡氏は「2兆2600億円の投資」を掲げ、AI活用を中心としたユーザー企業の支援に取り組んでいることを強調する。IT部門としての注目ポイントは、その裏にある「パートナーへの要求レベルの激化」だ。

 高度なAIエージェントの実装や、AWSが求める厳格なセキュリティ基準に適合するには、パートナーにも相応の規模と技術力が求められる。AWSは2026年に向けたパートナー戦略において、売り上げの規模による一律の足切りではなく、「成長と付加価値」を重視する方針を明らかにした。具体的には、新規顧客の獲得や中小企業を開拓するパートナーへのインセンティブ(報奨金)を強化した。これは単なるふるい落としではなく、AI技術やクラウド移行支援などの高付加価値領域にパートナーを誘導する「質的転換」を促す動きだと言える。「技術力や規模が足りないシステムインテグレーター(SIer)は生き残れない」というメッセージだ。

 IT部門は、自社の担当ベンダーがこの「選別」を生き残れる体力があるかどうかを、直ちに確認する必要がある。

Red Hat:COOが突き付ける「生存」の二択

ITのモダナイゼーションは、もはや効率化の目標ではなく、生存(サバイバル)の問題になりつつあります。企業は今、VMwareの買収による「仮想化市場の変動」と、「AI導入の絶対的な命令」という板挟みの状態にあります。この技術的負債を放置すれば、それはイノベーションを阻む「れんがの壁」(行き止まり)になるでしょう。

Red HatのCOO<最高執行責任者>兼CSO<最高セキュリティ責任者> マイク・フェリス氏の2026年展望を一部要約)

 フェリス氏の言葉は、競合他社に対する事実上の「宣戦布告」とも受け取れる。「仮想化市場の変動」(volatility of the virtualization market)という表現は、明らかにBroadcomによるVMware製品のライセンス変更による混乱を指している。「AI技術への投資が不可欠な2026年に、単なる現状維持(仮想化製品の延命)に予算を吸い取られている場合ではない」と同氏は警告しているのだ。

 Red HatはVMware製品からの移行先として、コンテナクラスタ管理ツール「Red Hat OpenShift」をアピールしている。2026年のIT部門は、「壁(VMware)の前で立ち尽くすのか、それとも壁を壊して前に進むのか」の決断を迫られることになるだろう。

Oracleと国内ベンダー:「人件費」からの強制転換

日本において顕著な傾向は、ITに関する総出費において人件費が大半を占める点です。この構造そのものが、競争力低下につながっています。運用負荷と人件費を大幅に削減したコスト構造改革を実現し、そこで捻出された原資をAI技術やデータへの再投資に振り向ける循環こそが鍵になります。

日本オラクルの取締役執行役社長 三澤智光氏の年頭所感を一部要約)

 三澤氏は日本のIT予算構造に対する“ダメ出し”をしているとも読める。このメッセージは明確で、「現状維持のためにSIerに払っている保守費を自動化への投資に回せ」ということだ。

 これは国内ベンダーの動きとも連動している。富士通は2030年度末(2031年3月)にメインフレーム製品の製造、販売を終了する計画を発表しており、保守サポートも縮小させている。「いつものベンダー」に頼りたくても、彼ら自身が「もう古いシステムは面倒を見ない」と言い出しているのだ。

 Oracleは2023年1月にプログラミング言語および開発・実行環境「Java」の仕様群である「Java Platform, Standard Edition」(Java SE)のライセンス体系を変更しており、IT部門はこの影響も考慮しなければならない。特に、2023年の変更当時に旧ライセンスで3年契約を更新してコスト増を一時的に回避した企業は、2026年にその契約が一斉に満了を迎え、新ルールへの移行を余儀なくされる。

 新ライセンス体系では、Java SEやそれに基づく開発・実行環境「Oracle JDK」を利用する場合、「Javaアプリケーションを使っているエンドユーザー数」ではなく、「ユーザー企業の全従業員数(パート、アルバイト、外部委託などを含む)」で料金が決まる。担当者を付けてレガシーシステムを保守しようとすれば人件費がかさみ、放置すればライセンス監査で想定外の料金を請求される可能性がある。

結論:情シスが今すぐやるべき「3つの防衛策」

 2026年にベンダー各社が打ち出した方針は、新たなルールの強要を感じさせる。IT部門は以下の3点を即座に実行し、防衛線を張らなければならない。

  1. 「AI予算」の防御的確保
    • ライセンス改定に備え、ソフトウェア予算に予備費を積む。
  2. 商流の「生存確認」
    • 自社が契約しているSIerや提供事業者が、2026年以降の「新パートナー基準」をクリアしているかどうかを書面で確認する。
  3. 「Javaの棚卸し」と「脱出」
    • Oracleからの通知が来る前に、社内のJavaアプリケーション利用状況を全量調査し、必要に応じて無償の「OpenJDK」への移行計画を策定する。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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