「技術屋」で終わるか、部長へ昇格するか 今取りたい「IT×ビジネスの認定資格」5選:ITリーダーへの最短ルート
激動の2026年、現場の「正論」は経営層に届かない。技術をビジネスの言語に翻訳し、昇進を勝ち取るための具体的手段とは。今、取得すべき5つの資格を厳選して紹介する。
2026年の情シス部門を取り巻く環境は、かつてないほどの激動期にある。BroadcomによるVMware製品のライセンス体系の抜本的な変更に端を発した仮想化コストの増大、Microsoft 「Windows 10」のサポート終了(EOS)に伴う大規模なPC刷新、そして「シャドーAI」(情シスが承認していないAIツールの利用)によるガバナンスの崩壊が、企業の経営層を突き上げている。
こうした背景の中、情シス担当者がマネジャーや部長といった上位職へと昇格するためには、技術的な習熟度だけでは不十分だ。2026年のITリーダーに求められているのは、「テクノロジーの選択が企業のバランスシートや法的リスク、競争優位性にどのような影響を及ぼすか」を、経営層と同じビジネスの言語で語る能力となる。
本稿では、多忙を極める情シス担当者が、時間的、金銭的制約の大きい状況下において、比較的「気軽に取得可能」でありながら、ビジネススキルを客観的に証明し、昇進へつなげやすくなる5つの認定資格を紹介する。これらの資格は、単なる知識の習得にとどまらず、CFO(最高財務責任者)や法務部門と対等に議論するための共通言語を入手できる武器となるものだ。
今取りたい「IT×ビジネス認定資格」5選
情シス担当者が直面する大きな壁の一つは、技術的な正論が経営会議の場では「単なるコスト増」や「現場のわがまま」と切り捨てられてしまうことにある。昨今のビジネス環境において、ITプロジェクトの失敗原因の大半は技術の欠如ではなく、ビジネスの期待値との乖離(かいり)や、組織的な調整の失敗に起因している。昇格を目指す情シス担当者は、自身の専門性を技術的手段からビジネスの解決策へと昇華させる必要がある。
2026年のIT予算策定に関して、経営層が高い関心を持つテーマは「クラウドコストの抑制」(FinOps)、「AI活用のガバナンス」「事業継続性を担保するレジリエンス(回復力)」だ。これらのテーマは、いずれもITの知識だけでは完結せず、財務、法務、人事、戦略的な意思決定といったビジネススキルの掛け合わせが必要となる。では、こうした知識を身に付けられる認定資格を見てみよう。
AWS Certified Cloud Practitioner
情シス担当者がビジネススキルを習得するための最初のステップとして、Amazon Web Services(AWS)の「AWS Certified Cloud Practitioner」は高い投資対効果(ROI)を誇る。この資格は、クラウドを「ビジネスツール」としてどう管理し、コスト効率を最大化するかという基礎知識に特化している。
AWS Certified Cloud Practitioner が情シス担当者の昇格に寄与する理由は、ITインフラを「固定資産」から「変動費用」へと変換する際の、財務的なロジックを体系的に学べる点にある。企業がオンプレミスシステムからクラウドサービスへの回帰やマルチクラウド(複数のクラウドサービスの組み合わせ)戦略を検討する中で、コスト管理や共有責任モデルといった概念を正確に理解していることは、予算策定やベンダー交渉において不可欠なスキルとなっている。
特に共有責任モデルの理解は、セキュリティインシデント発生時の責任分界点を明確にするに当たり、法務部門や経営層に対し、自社が負うべきリスクとクラウドベンダーが負うべきリスクを論理的に説明するための基礎となる。これは、リスク管理に敏感なマネジャー層にとって、社内調整や外部ベンダーとの契約において極めて強力な武器となる知識だと言える。
- 試験時間:90分
- 問題数:65問
FinOps Certified Practitioner(FOCP)
2026年の情シス部門における痛みの一つは、止まらないクラウドコストの増大、いわゆる「SaaS(Software as a Service)インフレ」への対応だ。BroadcomによるVMwareの買収後の価格改定の影響もあり、情シス部長は既存のベンダー契約の見直しや、コスト削減策を経営会議で報告しなければならないプレッシャーにさらされている。こうした背景から、クラウドの支出をビジネス価値に直接結びつける「FinOps」の知識を持つ人材の価値が高まっている。
FinOps Foundationが提供する「FinOps Certified Practitioner」(FOCP)は、IT、財務、ビジネスの各部門を横断してコストを管理するためのフレームワークを証明する資格になる。従来のITコスト管理は、予算の節約に主眼が置かれていた。それに対し、FinOpsの考え方はクラウドの変動費モデルを生かし、「1円の支出がどれだけのビジネス価値(売り上げやユーザー満足度)を生み出しているか」を測定し、最適化を図る。
情シス担当者がFOCPを取得することで、財務責任者に対し、どのプロジェクトが効率的にクラウドを利用しているか、将来のコスト予測はどの程度かといったことを、データに基づいて報告できるようになる。これは、技術者から、会社の利益に貢献するビジネスパートナーへと自己を定義し直すプロセスに他ならない。
- 試験時間:60分
- 問題数:50問
AWS Certified AI Practitioner
2024年から2025年にかけての生成AIブームを経て、2026年はAIをいかに実務に定着させ、ガバナンスを効かせるかというフェーズに移行している。企業の経営層は「AIで何とかしろ」というトップダウン指示を出す一方で、情シスはシャドーAIのリスク管理に追われている。こうした中で登場したAWSの「AWS Certified AI Practitioner」は、AIの実装スキルよりも、AIの概念、ユースケース、リスク、倫理的な活用方法に重点を置いている。
情シス担当者が昇格する過程で求められるのは、最新のAIモデルを動かすことではなく、そのAIがビジネスのどの課題を解決し、どのようなリスクを伴うかを経営層に説明することだ。AWS Certified AI Practitionerは、クラウドサービスで生成AIアプリケーションを構築するための機械学習サービス「Amazon Bedrock」といった具体的なサービスを例に挙げながら、基盤モデルの選択基準、プロンプトエンジニアリングの効果、「責任あるAI」の原則を体系的に学べる。
特に2026年は、AIによる誤情報の拡散や著作権侵害といったリスクが現実のものになると予測されている。これらに対して、技術的な知識に基づいた防御策を提示できる担当者は、コンプライアンス(法令順守)を重視する部長クラスから大きな信頼を得ることができる可能性がある。
- 試験時間:90分
- 問題数:65問
ITIL 4 Foundation
長年、IT運用のデファクトスタンダードとして知られるITIL(Information Technology Infrastructure Library)が提供する「ITIL 4 Foundation」は、従来のプロセス重視ではなく、価値創造重視の資格だ。そのため、ITサービスを通じてビジネス価値を生み出すマネジャーを目指す情シス担当者にとっては重要な教養と言える。
ITマネジャーや部長クラスが直面する大きな悩みは、現場のエンジニアとビジネス部門の板挟みであることだ。現場はシステムの安定性を求め、ビジネス部門はスピードを求める。ITIL 4 Foundationはこの対立を解消するために、「サービスバリューステム」(SVS)という概念を導入している。これは、企業のあらゆる要素(ガバナンス、ベストプラクティス、リソース)を統合し、顧客に価値を届けるための仕組みだ。
ITIL 4 Foundationを取得することで、情シス担当者は変更管理やインシデント管理をルーチン作業としてではなく、企業の事業継続性や顧客満足度を支える戦略的手段として再定義できるようになる。こうした全体最適の視点を持つことは、より上位のマネジメント職への昇格において不可欠な評価ポイントとなる。
- 試験時間:60分
- 問題数:40問
Artificial Intelligence Governance Professional(AIGP)
最後に取り上げるのは、IAPP(International Association of Privacy Professionals)が提供する「Artificial Intelligence Governance Professional」(AIGP)だ。この資格は、上記で紹介したAWSのAI資格よりも「ビジネスのリスク管理、法規制、倫理」に特化しており、2026年の企業のコンプライアンスにおいて極めて重要な役割を果たすと考えられる。
2026年、企業がAIを本格導入する上での障壁は、AIを巡る法規制への対応や、倫理的な「大火傷」への不安だ。こうした誰にも相談できない孤独な悩みを抱える経営層や情シス部長に対し、明確なガバナンスの指針を提示できる人材は、組織内で圧倒的な信頼を勝ち取ることができる可能性がある。
AIGPを取得することで、情シス担当者はAIシステムのライフサイクル全体を通じたリスクアセスメント(リスク評価)、透明性の確保、説明責任の果たし方を学べる。これは、AIという不確実性の高い技術を制御するための手綱を握るスキルで、企業の法的リスクを最小化する「守護神」としての地位を確立することを意味する。
- 試験時間:165分
- 問題数:100問
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