求められるのは“柔軟な学習力”
若手とシニアの“断絶”をどう乗り越える? Z世代×レガシーのギャップを埋める方法は?
IDCの調査によると、企業の約3分の2が業績悪化の要因としてITスキル不足を挙げた。背景には世代間ギャップやレガシー技術の継承問題があり、次世代のIT人材像の再定義が求められている。
高度なITスキルを持つ人材が不足する一方、人材が多様化し続ける中、どのように人材の育成を進めればいいか悩んでいるという声がある。
調査会社IDCが2024年5月に発表した調査レポートによると、企業の約3分の2が、収益の成長目標の未達や製品、サービスの品質低下をITスキル不足に起因すると回答した。過去の調査では、この割合は20~30%にとどまっていた。
一方、今後の業務を担っていくのが、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)やZ世代(1997~2007年生まれ)の従業員だ。しかし、「これらの世代の従業員は、職場経験を通じて得られる知識に乏しい場合がある」と指摘する声がある。
多様化するIT人材を育成するためのポイントは
ITスキルが不足する背景には、テクノロジーの進化スピードがある。新技術に習熟しても、すでに次の技術が登場しているという状況だ。特に人工知能(AI)の領域ではその変化が加速している。
経営コンサルティング企業Draupの副社長、ヴィシュヌ・シャンカル氏によると、「ミレニアル世代やZ世代のIT人材は、レガシーシステムや従来型の業務フロー、アーキテクチャの深層構造に対する理解が限定的な場合がある。そこで、これらの世代より年上の従業員とのギャップが生じる」と述べる。
企業は、生成AIツールやクラウド、自動化技術などさまざまな技術に対応できるIT人材の採用に取り組んでいる。一方、レガシーシステムの保守や更新を担えるIT人材の確保は難しくなる可能性がある。
人材紹介会社Experisのブライアン・ウォール氏(クラウドエンジニアリング統括者)は、「ITスキルの供給は堅調であり、必要な専門家を見つけることはできている」と述べる。一方、「レガシー技術に精通したエンジニアの減少は避けられない」と警鐘を鳴らす。さらに、若手の求職者には、「レガシーなプログラミング言語を学べる機会があれば積極的に学ぶべきだ」と助言しているという。
もっとも、ミレニアル世代やZ世代を「経験不足」とひとくくりにする見方は、必ずしも実態を正確に捉えているとはいえない可能性がある。同世代のIT人材の中には、従来型のOJTや長期的な現場経験とは異なる形で、学習やスキル習得を重ねてきた人もいる。特にデジタル環境を前提とした学び方や、変化に適応する姿勢は、急速に進化するIT分野において新たな強みとなり得る。こうした特性をどう生かすかが、企業の人材戦略における次の焦点となり得る。
ミレニアル世代やZ世代は、従来型の研修だけでなく、大規模公開オンライン講座(MOOC)など、さまざまな手段を使って自律的に学習するという傾向が見られるという声もある。こうした背景についてIDCのリサーチディレクターであるジーナ・スミス氏は、「ミレニアル世代とZ世代は、自己学習やリモート学習の経験が豊富だ。この経験が彼らを課題解決に向けた理想的な存在にしている」と述べる。
こうした指摘から浮かび上がるのは、IT人材を「保有している知識量」や「過去の経験年数」だけで評価することの限界だ。テクノロジーの変化が加速する中では、特定のスキルセットが短期間で陳腐化する一方、新しい技術や働き方にどれだけ柔軟に適応できるかが問われるようになっている。世代ごとの強みや弱みを単純に対比するのではなく、「どのような資質や姿勢が、変化の激しいIT環境で成果につながるのか」を再定義する必要がある。こうした視点の転換が、次世代のIT人材像や組織作りを考える上での出発点となる。
法務や業務プロセスのアウトソーシング企業Integreonの最高技術責任者ジョン・ウェイ氏は、「スキルは訓練できるが、マインドセットだけは変えにくい」と語る。
創造性を補完し、知識の暗記が不要になる時代において、重要なのは「適切な問いを立てる力」と「好奇心を持ち続ける姿勢」である。ウェイ氏は、そうしたIT人材に明確なキャリアパスを提示し、長期的な成長を支援しているという。
テレワークを前提とした働き方が広がる一方、IT人材は、自ら積極的に関わらなければチームとの一体感を持ちにくくなる。時間厳守、身だしなみ、コミュニケーションなどの「ソフトスキル」を「新たなハードスキル」と見なし、身に付けていくことも重要だとウォール氏は指摘する。
人事コンサルティング企業Phenomのバイスプレジデント、クリフ・ジャーキウィッツ氏は、「ハイブリッド環境での対人関係の築き方」が、若手人材には不足していると指摘する。同氏は、「ただし、この問題は5年後には重要でなくなる」と指摘する。同氏によるとITリーダーの約60%はベビーブーマー世代(1946~1964年生まれ)だが、約5年の間に大半が退職する見通しだという。さらに、X世代(1965~1980年生まれ)もそれに続くとみられる。つまり、組織の在り方を若い世代の価値観にシフトする必要がある。
ジャーキウィッツ氏は、「若手は自身のスキルと成果で評価される環境を望んでいる」と述べる。一方Z世代は、スキルと情熱を組み合わせ、企業と自身の人間的価値を同時に高める動的環境を求めている」という。つまり、1つの企業で昇進するのではなく、2~3年で異動や転職を繰り返す環境をZ世代は望んでいるということだ。「Z世代は一社ではなく市場価値向上を重視する」と同氏は強調する。
Z世代は「上下関係に基づく職務体系」ではなく、スキルと情熱に基づいた柔軟なキャリア形成を求めている。
テクノロジーに適応するには、チーム構成の見直しも不可欠だ。
シャンカル氏は「変化に積極的に備える企業は、“スキル重視のアーキテクチャ”構築に注力している」と指摘する。職務をタスク単位に分解し、AIで自動化できる部分を抽出した上で、残る業務に最適な人材を再配置している企業もある。この動きは、企業のアーキテクチャ近代化と並行して、AI導入を加速させる要因にもなっている。
シャンカル氏は、これから活躍するIT人材を以下の3タイプに分類できるという。
- ビルダー
- システムを構築、訓練する
- オーケストレーター
- システムを統合、デプロイ、自動化し管理する
- シンセサイザー
- 事業と技術、技術の自動化を橋渡しする
成功するチームは、新人がオーケストレーターから学びながら、最終的には自らプラットフォームを担うよう育成されるとシャンカル氏は説明する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechTarget発 先取りITトレンド
米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社ビザスク] 製造業の新事業創出 成功の鍵は「タラレバ問題克服」と「3つの判断ポイント」 -
製品資料
[日本シーゲイト株式会社] 実験のやり直しを防止 研究データ基盤に求められる高可用性ストレージとは -
製品資料
[株式会社Leaner Technologies] もっと安く買えるのに…… 間接材購買で“コスト削減機会”を逃さないためには -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] フィールドサービスの熟練技術者が「AIエージェント」を求めている理由 -
製品資料
[株式会社グリーンフィールド・オーバーシーズ・アシスタンス] 基礎から分かる「就労ビザ」 アメリカ進出を目指すなら知っておきたい取得戦略
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
年収700万超エンジニアに共通するスキルと「もっと勉強すべきだった分野」
-
2
仮想化環境の死角を“未知の脅威”が狙う時代――新たな敵をどう見破るか?
-
3
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
4
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
5
ITエンジニア1265人調査 生成AIを使い込むほど「人の確認」が重い理由
-
6
高額GPUを買っても成果ゼロ? 「プライベートAI」の落とし穴
-
7
AppleのMシリーズチップからSafariの閲覧履歴を暴く「TIDE」攻撃とは?
-
8
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
9
kintoneで実践 製造業のための「見積もり管理」改善のヒント
-
10
障害対応の属人化を打破 ネットワークを一括制御して復旧を速める秘策
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
登録セキスぺが語る「SCS評価制度」の舞台裏 星を取得すべき理由と対応のコツ
-
2
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
3
OSSでは困難 100超のサービスを持つマネーフォワードが実践した統合監視術
-
4
ネットワーク遅延の原因、「パケットロス」の基礎知識と効果的な解決策
-
5
月1000枚の紙を削減 9年動けなかった組織が、業務改革のその先に得たもの
-
6
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
7
ドラマで分かる、標的型攻撃メールの被害を受ける企業と回避できる企業の分岐点
-
8
「改正物流効率化法対策」徹底解説 総物流費を抑制するサプライチェーン戦略
-
9
Windows PCとMacの選択制で生産性向上 LINEヤフーが実践する運用管理方法とは
-
10
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー