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GitHubで「TypeScript」が急成長した理由 Pythonを抜いた“真価”に迫るAIコーディング時代の「必須教養」

2025年、GitHubにおける「最も成長している言語」の座を「TypeScript」が獲得した。なぜこの変化が起きたのか。「Python」すら押しのけてTypeScriptが選ばれた理由は何か。その技術的必然を解説する。

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 もし100人のソフトウェア開発者に、「ソースコード共有サービス『GitHub』で2025年に最も急成長するプログラミング言語は何か」と予測してもらっていたら、大半の人が「Python」と答えただろう。AI(人工知能)やデータサイエンス分野におけるPythonの圧倒的な人気を考えれば無理もない。

 しかし、2025年10月にGitHubが発表した年次統計レポート「Octoverse 2025」によれば、その推測は外れることになった。

 確かにレポートの調査期間(2024年10月〜2025年9月)において、PythonはGitHubで極めて活発なユーザーコミュニティーを維持していた。しかし、実際にその言語でソースコードをコミット(変更を反映)した月間貢献者数が最も多く、かつGitHub内の全プロジェクトにおける新規コントリビューター(利用者)の数を最も伸ばしたのは、「TypeScript」だったのだ。

 レポートによれば、2025年8月にTypeScriptはついにPythonを追い抜き、GitHubで最も使用される言語となった。コントリビューター数は2024年8月時点と比較して66%増という驚異的な成長を記録し、100万人以上が新たに加わっている。

 なぜ今、TypeScriptなのか。GitHubの統計データと技術トレンドから、TypeScriptが「AI時代の覇権言語」にならざるを得ない理由を読み解く。

そもそもTypeScriptとは何か

 TypeScriptは、スクリプト(簡易プログラム)言語「JavaScript」を用いたアプリケーションの構築、保守、スケーリング(拡張)を容易にするためにMicrosoftが開発した、オープンソースのプログラミング言語だ。

 技術的には、TypeScriptはJavaScriptの「スーパーセット」(上位互換)に当たる。変数の「型」(数値や文字列といったデータの種類)を記述できる「型構文」を備えたTypeScriptのソースコードを、JavaScriptのソースコードにトランスパイル(変換)する仕組みだ。ビルド(実行可能な形式への変換)プロセスにおいて、TypeScriptのコンパイラ(ソースコードを変換、検証するソフトウェア)はソースコード全体を解析し、型に関するエラーを検出する。その後、最終的にWebブラウザやサーバOSといった多様な動作環境で稼働するJavaScriptのソースコードを出力する。

 TypeScriptは、ソースコードに変数の型を明示し、コンパイル時に整合性をチェックする「静的型付け」をJavaScriptに追加した強化版だと言える。開発者はデータ型の定義を通じて、「そのオブジェクト(データと処理をまとめたもの)がどのようなプロパティ(属性)やメソッド(処理)を持つべきか」をコンパイラに伝えることができる。コンパイラはこの情報を基に、そのオブジェクトに必要なプロパティが不足していないかどうか、使い方が正しいかどうかを厳密に検証する。型定義は手動で書くこともできるが、コンパイラに内蔵された型推論エンジン(文脈から型を自動判別する機能)に自動で決定させることも可能だ。

 型定義が重要な理由は、ソフトウェアを構成する異なるパーツ(機能やモジュール)同士で共有された型定義が、相互に守るべき「強制力のある契約」(コントラクト)として機能するからだ。もしアプリケーションの一部がこの契約(ルール)に違反すれば、コンパイラは即座にエラーを出し、エディタは問題箇所をハイライトする。これによって、開発者は修正すべき点を瞬時に把握できる。ソースコードの変更に合わせて常に最新状態が保たれる型定義は、陳腐化しない「生きた仕様書」としての役割も果たす。

 TypeScriptは、エンタープライズソフトウェアの開発チームやクラウドネイティブシステムを扱う開発チーム、オープンソースコミュニティーの間で広く採用されている。ソースコードはGitHubで、オープンソースライセンス「Apache License 2.0」の下に公開されている。

 2025年3月、Microsoftはプログラミング言語「Go」で記述された新しいTypeScriptコンパイラの導入計画を発表した。この変更によって、型チェックの高速化、開発サイクルの短縮、AI技術によるコーディング支援の精度向上が期待されている。新コンパイラは現行コンパイラと完全な互換性を持つように設計されているため、企業は既存のソースコードを書き換えることなく、パフォーマンス向上の恩恵を受けることができる見込みだ。

なぜ多くの開発者がTypeScriptを採用するのか

 もともとJavaScriptは、Webブラウザ「Netscape Navigator」向けの軽量なスクリプト言語として設計された。当時は使いやすさが重視されており、あらかじめ変数の型を決める必要がない「動的型付け」が採用された。動的型付け言語では、変数の型はプログラム実行時に格納される値によって決まる。

 1995年当時、JavaScriptの主な用途はWebページ内の単純な対話型コンポーネント(ウィジェット)を作ることだったため、この設計は理にかなっていた。しかし現代のJavaScriptは、サーバサイド実行環境「Node.js」で構築された数百個のマイクロサービスや、クラウドサービスと連携するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)、複雑なWebアプリケーションなど、大規模分散システムの構築に使用されている。

 アプリケーションが大規模かつ複雑になるにつれて、動的型付けの自由さが仇となり、構造的なエラーを素早く見つけることが困難になってきた。開発者がコーディング中にミスに気付くことができれば、その場で即座に修正できる。しかし、同じ問題が結合テストや本番環境で見つかった場合、修正には多大な手戻りが発生する。再テストや再デプロイ、最悪の場合はシステムのロールバック(切り戻し)が必要になることもある。

 ソフトウェア開発において「時は金なり」だ。TypeScriptは、JavaScriptに静的型システムを追加することで、この課題を解決する。以下はTypeScriptが持つ主要なメリットだ。

メリット1.開発の初期段階でのエラー検出

 TypeScriptの最大の強みの一つは、開発プロセスの早い段階で型エラーを捕捉できる能力にある。関数やオブジェクト、APIのデータ受け渡しルールを定義しておけば、TypeScriptコンパイラはプロジェクト全体を精査し、不整合があればコンパイル中即座に警告を出す。

 品質チェックを前倒しすることによって、開発者は早期にエラーを検出し、不備のあるソースコードが単体テストや本番環境で問題を引き起こすのを防ぐことができる。ソースコード内におけるデータの流れを明確に理解でき、試行錯誤のサイクルを短縮させながら、安全に開発を進めることが可能だ。

メリット2.IDEの強力な開発支援機能

 IDE(統合開発環境)は、開発者が使用するプログラミング言語やフレームワーク(特定の機能を持つプログラムの開発を支援する部品やドキュメントの集合体)に合わせて、オートコンプリート(自動補完)機能やリファクタリング機能を提供する。

 TypeScriptを扱えるIDEは、明示された型や推論された型を解析し、「その時点でどのプロパティやメソッドが使えるかを」正確に判断する。この解析結果を基に、AIコーディング支援ツールはソースコードを提案できる。AIモデルはヒューリスティクス(経験則)や曖昧な型推論に頼るのではなく、実際のデータ形状(シェイプ)を反映した正確な自動補完が可能になる。これは、型情報を持たない標準的なJavaScriptエディタでは実現できない精度だ。

メリット3.サードパーティー製SDKとの連携強化

 TypeScriptアプリケーションが外部サービスと連携する際、TypeScriptはSDK(ソフトウェア開発キット)が持つ型定義とソースコードを照合し、APIの利用ルールが守られているかどうかをコンパイル時に厳密に検証する。

 型定義が含まれるSDKを使用すれば、TypeScriptはソースコード内におけるAPIとのやりとりをチェックし、ルール違反があれば即座にエラーを出す。開発者はSDKの型定義を「組み込みのドキュメント」として参照できるため、外部の仕様書を探し回る必要がなくなり、実装のスピードと保守性の向上につながる。

メリット4.分散コードベースの大規模管理

 JavaScriptでの開発は、本来であればスクリプトの寄せ集めになりがちだ。これを明示的かつ強制力のある契約を持つTypeScriptでの開発に変えることで、開発者はコードベース(ソースコード群)を管理しやすくなる。

 JavaScriptには、あるマイクロサービスやコンポーネントが、別の場所に正しいデータを送信していることを保証する標準的な方法が存在しない。開発するアプリケーションの規模が拡大するにつれて、「ある場所での小さな変更が、別の重要な機能を壊す」事態を招きやすくなってしまう。

 TypeScriptは静的型を追加することでJavaScriptを強化している。データ構造やAPIの契約を一元管理することで、大規模開発における以下のメリットをもたらす。

  • 同時並行開発
    • 型定義がチーム間の「共有言語」になり、それぞれのチームが独立して作業を進めながらも整合性を保つことができる。
  • ドキュメント不要の理解
    • 新しいメンバーは型定義を見るだけで、そのコンポーネントが何を要求し、何を返すのかを正確に理解できる。
  • 安全なリファクタリング
    • 共有部分の仕様を変更した場合、影響を受ける箇所を即座に確認できるため、安全にリファクタリングに取り組むことができる。
  • 影響範囲の追跡
    • TypeScriptは、プロジェクト内の共有パッケージ(関数群)やサービスを横断して型定義の使用状況を追跡できるため、契約の変更がどこでソースコードに問題を引き起こすかを正確に特定できる。
  • サービス間の不整合の防止
    • サーバとクライアント間でAPIの契約を共有することで、接続エラーや互換性の問題を減らせる。
  • デプロイの安全性確保
    • 静的型付けと明示的な契約によって、IDEなどの開発ツールが早期にミスを自動検出し、不備のあるソースコードが開発の後ろの工程に進むのを阻止する。

TypeScriptの拡大が示すソフトウェア開発の未来

 TypeScriptの利用拡大は、ソフトウェア開発の未来が「ソースコードを実行する前に不確実性を低減できるプログラミング言語や開発ツール」にかかっていることを示唆している。

 GitHubにおいて、2024年8月から2025年8月までの1年間でTypeScriptを利用するコントリビューターが100万人以上増加したことは、問題を実行時(ランタイム)や本番環境ではなく、ビルド時(コンパイル時)に解消したいという開発者の意思の表れだ。これは、欠陥修正のコストを下げるために品質管理を前工程に移す「シフトレフト」の潮流とも合致する。

 将来的には、TypeScriptは「自律型AIエージェント」開発ツールにおいて、推奨言語になる可能性がある。制約条件が明確に定義されている場合、AIモデルのハルシネーション(幻覚:もっともらしい誤り)を未然に防ぐことに有用だという研究結果が、この予測を後押ししている。TypeScriptの静的型付け、明示的な契約、早期検証は、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)ワークフローを支え、ソースコードの安全性と機能性を確保するための「強固なガードレール」になるだろう。

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