情シスは“PC管理部門”から“労働コスト管理部門”へ 新たな役割とその中身は:労働コストを情シスが管理できる時代に
SaaSやAIツールの普及により、企業のITコスト構造が変化している。この変化は情報システム部門の役割にも影響している。どのような役割を求められているのか。
企業のITコストの構造が変化している。かつてIT投資の中心は、サーバやネットワーク機器といったインフラだった。しかし近年は、SaaSや人工知能(AI)ツール、コミュニケーションツールなど、従業員が日常業務で利用するソフトウェア環境がコストの大きな割合を占めるようになっている。
この変化は、情報システム部門(以下、情シス)の役割にも影響を与えている。
ITコストの変化と情シスの役割
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SaaSやAIツールの普及によって、従業員のPC環境は“見えにくいコスト”が生まれやすい場所になっている。例えば、次のような要素が生産性の低下やコスト増加につながる。
- ツール間の切り替えによる待機時間
- 機能が重複するツールの併用
- システム連携が不十分なことによる手動データ移行
- 認証やアクセス処理の待機時間
- ツール操作の複雑さによる業務遅延
こうした要素は、財務データには表れにくい。しかし実際には、従業員の作業時間を消費し、企業の労働コストを押し上げる要因になっている。
「PCの購入時、端末の価格に目が行きがちだ。しかしハードウェアはPCの総保有コストのわずか約20%に過ぎない。残りの80%は、監査されていないソフトウェアのライセンス料、適切に処理されず肥大化したサポートチケット、測定されていない生産性の損失に費やされている」。こう話すのは、ソフトウェアベンダーBlack Duck Softwareのコリン・ホーグ・スピアーズ氏(プロダクトマネジメント部門シニアディレクター)だ。
さらにスピアーズ氏は、ITコストの可視化の難しさを指摘する。
「各部門が独自にツールを購入し、IT部門との連携や部署間の調整をほとんど行っていないケースもある。その場合、CIOは水面上に見えている情報だけを基にIT予算を組んでいる可能性がある」
ツール管理の不備は、無駄なコストを生む原因にもなる。
「退職者が使っていたツールの定期購読が継続していた、無料で利用していたはずのツールが有料プランにアップグレードされていた――こうした例も珍しくない」。こう指摘するのは、Webメディア「School Aid Specialists」の主任編集者兼開発者、ライアン・スコット氏だ。
会議が増え、メッセージが絶えず届き、複数のツールを行き来する――。このような状況は業務の遅延や生産性の低下を引き起こし、結果として労働コストを押し上げる。
例えば、エンジニアが開発環境の設定に数日を費やした場合、その時間はハードウェア費用には表れない。しかし実際には、その期間の給与が発生している。このような見えにくいコストは、企業の財務データには表れにくいものの、組織全体の生産性に大きな影響を与える。
こうした隠れたコストを特定し、改善する手掛かりになるのが、従業員の作業環境のデータだ。そして、その管理を担えるのが情シスである。
日常的に蓄積される次のようなデータを分析すれば、使われていないツールや非効率なワークフロー、過剰なライセンスなどが見えてくる。
- アプリケーションの利用率やパフォーマンス
- ユーザーのログイン状況
- ソフトウェアライセンスの使用状況
- サポートチケットの内容や件数
さらに、従業員のIT利用体験を分析する技術やIDベースのアクセス管理を組み合わせれば、業務環境とコストの関係をより詳細に把握することも可能だ。例えば、ユーザーの役割や勤務地、業務内容に応じてツールの利用権限を管理することで、不要なライセンスの削減やツールの最適化につながる。
従業員の作業環境を分析することは、ITコストだけでなく労働コストの管理にもつながる。こうした背景から、情シスの役割はPCやソフトウェアの管理にとどまらず、従業員の働き方や生産性に影響を与える存在へと広がりつつある。
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