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「MongoDB Atlas」で“脱・データベース混在” 住宅ローン事業者のAI化事情ベテランが45分かかる作業を3分に短縮

データベースが乱立した状態のままAIツールを開発しようとすれば、IT部門の負担がますます増えることになる。合併によって複雑なシステム構成を抱えていた企業が、「MongoDB Atlas」に一本化した理由は。

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 住宅ローン事業を主軸とするLendi Groupは、AI(人工知能)プロジェクトの推進を前提とした共通のデータ管理システムを構築するため、クラウドデータベースサービス「MongoDB Atlas」を標準システムとして採用した。

 Lendi Groupは、デジタル技術で市場に変革をもたらすLendiと、老舗の住宅ローン仲介企業Aussie Home Loansが2021年に合併して誕生した。その結果、統合後の企業は、それぞれの前身から引き継いだ分断状態のデータシステムに悩まされることになった。

 当時のシステムには500件を超えるコンポーネントが乱立し、保守の手間や費用がかさむという課題があった。不動産検索から購入支援、ローン仲介、不動産譲渡手続き、所有権管理に至るまで、AI技術を活用したサービスを提供するというLendi Groupの目標を支えるインフラとしては、力不足な状態だったのだ。

「自前DB」の継ぎはぎ運用からどう脱却した?

 Lendi GroupのCTO(最高技術責任者)を務めるデベシュ・マヘシュワリ氏によると、同社のAI活用の取り組みは2021年に始まった。家を買う体験の全てを1カ所で完結させる計画だ。「顧客が他社を頼る必要が一切なくなる状態を目指した」とマヘシュワリ氏は説明する。

 2025年までにLendi Groupは、業界における革新者としての地位を維持するために、新たな施策を講じる必要性を認識した。経営陣との協議を経て始動したのが、AI技術によって仲介担当者の専門知識を強化する「Project Aurora」だ。この計画の遂行には、プロジェクトを支える一元的なデータ管理システムの構築が不可欠だった。

 「開発担当者は、以前は新機能のリリースよりもデータベースの調整や保守に追われていた」とマヘシュワリ氏は振り返る。AI技術活用を前提としたシステムを構築するには、マイクロサービスの乱立を抑え、複雑さを排除した上で、業務データを単一の場所に集約する必要があった。

 プロジェクト開始から1週間後、チームは既存のデータベース群を全面的にMongoDB Atlasに移行することを決断した。それまでLendi Groupは「PostgreSQL」や「Amazon DynamoDB」、自社で運用していた「MongoDB」などを組み合わせて使っていた。同社のシニアAIシステムエンジニアであるウィル・ハーガン氏は、「データをドキュメントとして扱うことによる自由度の高さと、AIツール開発向けの機能を備えたデータベースとして、MongoDB Atlas以外の選択肢はなかった」と話す。

MongoDB Atlasが備える機能群

 Lendi Groupが特に評価したMongoDB Atlasの機能は、データの分散処理(水平シャーディング)による拡張性だ。情報のまとまりをドキュメントとして扱う戦略への適合や、強固なセキュリティおよびコンプライアンス機能も決め手になった。特に、データ同士の意味の近さを調べる「ベクトル検索」機能を組み込んでいるため、専用のベクトルデータベースを別途用意することなくAIアプリケーションを稼働させ、データの同期遅延を解消できている。

 2026年3月時点では、1400万件に及ぶ不動産物件の詳細データがMongoDB Atlasに保存されている。約600万件ある顧客情報の移行はまだ完了していないものの、2026年6月までには完了する見込みだ。

 Project Auroraの目的は、AIモデルが非構造化データを読み解き、定型業務を自動化することだ。これによって、仲介担当者の作業効率は飛躍的に高まる。特定の物件に対してある顧客の借り入れ条件を確認する作業を例にすると、熟練の担当者が必要なデータを全て手作業で転記するには少なくとも45分かかる。Lendi GroupのAIツールを使えば、複数のリクエストを同時に処理し、わずか2、3分で完了させることが可能だ。担当者を単調な作業から解放するだけではなく、顧客を待たせない迅速な手続きを可能にし、成約率の向上にもつながっているという。

 AIツールを用いた売買契約書の分析も実施中だ。Lendi Groupが拠点を置くオーストラリアでは、不動産取引が活発な週末に、法的専門家が不在になる場合が目立つ。そのため、AIツールが即座に懸念点を提示する機能は、買い手の判断力を高める助けになる。マヘシュワリ氏は、「AIツールが専門家の役割を完全に代替するわけではないものの、優れた体験を生んでいる」と強調する。

 データ管理やAIツールの開発においては、ガバナンスの徹底も重視している。Lendi Groupは、開発の全工程にリスク管理の専門家が関わり、複数の大規模言語モデル(LLM)を比較テストする自社専用ツールを構築した。「AIの挙動に対して、完全な説明責任と追跡性を確保している」とマヘシュワリ氏は語る。

 新たなシステムによって、開発スピードが大幅に向上した。顧客が金利や資産価値を確認し、ワンタップで借り換え手続きができる住宅ローン支援アプリケーション「Lendi Guardian」は、わずか12週間で完成した。これは、以前の手法と比べて約40%早いスピードだという。ビジネス面でも、Lendi Guardianを利用した申し込みが正式な提出段階まで進む割合が10%以上改善するなど、顕著な成果が出ている。

 今後の展望として、Lendi GroupはAI技術による自動化をさらに推し進める方針だ。定型業務をAIエージェントが自律的に処理する体制を整え、人間の仲介担当者が複雑な案件を精査したり、顧客との信頼関係を構築したりするなど、人間にしかできない業務に集中できる体制を目指す。

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