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MongoDBが「MCP」サーバ機能を追加 AI開発支援を急ぐ理由は?“データベース専業”からの脱却

企業のAI技術活用は、自ら推論して行動する「AIエージェント」を利用した業務支援に進んでいる。MongoDBも「MCP」を受け入れ、“単なるデータベース”からの脱却を急いでいる。その背景とは。

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 非定型データを扱うドキュメントデータベース「MongoDB」に、AI(人工知能)ツールの開発を加速させる新機能が搭載される。1つ目は、ユーザー企業が自社で運用するMongoDBで利用可能なベクトル検索(データの意味や文脈を検索する技術)機能のパブリックプレビュー版。2つ目は、AIエージェントとデータソース間の通信を標準化する規格「MCP」(Model Context Protocol)に準拠したMCPサーバの一般提供だ。同時に、ユーザー企業が保有するデータインフラを刷新し、現代のビジネス要件に適応させることを支援するAIサービスも登場した。

オンプレミス版MongoDBに機能を開放

 これらの新機能は、2025年9月にMongoDB社が開催したユーザーカンファレンス「MongoDB.local NYC 2025」で明らかになった。

 MongoDB社が発表した新機能について、調査会社BARC USのアナリストであるケビン・ペトリー氏は、「的を射ている」と評価する。同氏はこれまでのMongoDB社の取り組みについて、「システムの最新化や、効率的なワークフローを実現するアプリケーションの構築を一貫して支援してきた」と指摘。今回の新機能についても、「個々の機能は小さな改善だが、全体として見れば、レガシーシステムの刷新、性能向上、AIモデルへのデータ供給を実現したい企業にとっては大きな進歩だ」と述べ、個別の機能よりも、それらが組み合わさることの価値を強調した。

 TechTarget(Informa TechTargetとして事業展開)の調査ブランドOmdiaの一部であるEnterprise Strategy Group(ESG)で、アナリストを務めるスティーブン・カタンザーノ氏も、ペトリー氏の意見に同調する。これらの新機能は、MongoDB社がデータベース専門ベンダーから一元的なデータ基盤(管理システム)ベンダーへの移行を進める上で、戦略的に重要だという。「今回発表された新機能は、特にAI技術の導入とアプリケーションの最新化の面で、MongoDBの価値を高める」とカタンザーノ氏は述べる。

検索機能の拡大

 AIチャットbot「ChatGPT」が生成AIの飛躍的進歩を世間に示して以来、企業はAI技術への投資を拡大している。

 生成AIは、さまざまな方法で従業員の知見を深め、作業効率を高めることが可能だ。非エンジニアの従業員は、AIチャットbotに自然言語で指示を与えてデータを分析できる。技術に詳しい従業員はソースコード生成などをAIに任せることで業務の負担を減らせる。その段階から進み、推論能力を備え、自律的にタスクを実行する「AIエージェント」も進化している。自らインサイトを導き出し、複雑なタスクを引き受けるなど、主体的に行動して従業員を支援できる。

 この動きに乗じて、データ管理ベンダーはユーザー企業の独自データを用いたAIモデルのトレーニングを支援するツールをリリースしている。

 2024年5月、MongoDB社は生成AIツールの構築を支援するために、MongoDBにさまざまな機能を追加した。2025年8月には、AIツールの出力精度を向上させるために、データ検索と選別の段階で適用するAIモデル群をリリースしている。

 今回の発表でMongoDBは、AIツール開発の要となるテキスト検索機能とベクトル検索機能を、オンプレミス版の「MongoDB Enterprise Server」と、セルフマネージド版の「MongoDB Community Edition」に拡大した。従来、これらの機能は、クラウド版の「MongoDB Atlas」でしか利用できなかった。

 「テキスト検索機能とベクトル検索機能を利用できる範囲が拡大された、あらゆる形態のMongoDBでAIツールを開発できるようになるという点で意義が大きい」とカタンザーノ氏は指摘する。

 ペトリー氏も、AI関連処理(ワークロード)をオンプレミスシステムで実行することの需要を示し、テキスト検索機能とベクトル機能をMongoDBの全ユーザーが利用できるようになることの重要性を強調した。同氏によれば、企業が特定のワークロードをクラウドサービスで実行するように移行しないのは、クラウドサービスにおけるデータセキュリティの懸念、データ移行にかかる費用、データ主権(データの制御と管理に関する権利)に関する問題などが理由だ。

 ペトリー氏は、オンプレミスシステム向けにキーワード検索機能とベクトル検索機能を組み合わせるというMongoDB社のアプローチを評価する。「このアプローチは、一般的なセマンティック検索(意味を基にした検索)よりも確実性を重視する企業にとって不可欠だ」と同氏は話す。特に有効なのは、AIモデルが追加情報を参照して回答の精度を高める「RAG」(検索拡張生成)だという。

 「テキスト検索とベクトル検索を実行できる範囲をオンプレミスシステムにまで広げたきっかけの一つは、ユーザー企業との対話にあった」と、MongoDB社でシニアバイスプレジデント兼コアプロダクト責任者を務めるベン・セファロ氏は述べる。

 セファロ氏は、同時に、「われわれは『どこでも動作可能な製品』の提供を目指している。クラウド版のMongoDBの検索機能がある一方で、オンプレミス版には欠けていたのは問題だった」とも説明する。

MCPサーバの提供

 検索機能の提供範囲を広げるだけではなく、「MongoDB MCP Server」の一般提供を開始して、MCPを支持するベンダーの仲間入りを果たすことになった。

 AIベンダーAnthropicが2024年11月に発表したMCPは、大規模言語モデル(LLM)などのAIモデルを利用するAIエージェントとデータソースのやりとりを標準化するオープンなプロトコルだ。Amazon Web Services(AWS)、Google、Microsoft、Oracle、Databricks、Snowflake、Informaticaなど、複数のデータ管理ベンダーがMCPを自社製品に取り入れ始めている。

 今回追加されたAIツール開発機能は、MongoDBのバージョン8.2で利用可能であり、同バージョンで改善された計算能力がその要件にもなっている。今回のアップデートでは、メモリ上でのデータ読み取りの高速化、処理能力の向上など、AIワークロードの要求に応えるための性能改善が図られている。

 「MongoDBは、従来の用途とAIツール開発機能を統一したデータベースとして、競合するデータベースベンダーやAI分野に特化したベンダーとの違いを強調している」(カタンザーノ氏)

 検索機能の強化やMCPへの準拠、処理性能の向上は、AIインフラを持つユーザー企業には有益だが、そうした企業ばかりではない。現代のデータとAIワークロード要件に応えることができない旧式の技術を抱える企業もある。

 ソフトウェア品質の自動測定に関する国際基準の策定、普及を推進するコンソーシアムConsortium for Information & Software Quality(CISQ)は、米国における低品質ソフトウェアが経済に与えた影響についての調査報告書「The Cost of Poor Software Quality in the US: A 2022 Report」を2022年に公開した。この報告書によると、低品質ソフトウェアが米国企業にもたらした損失総額は2.41兆ドル(約370兆円)だった。ソフトウェアの品質に悪影響を及ぼした主な要因は、ソフトウェアの障害、開発者の作業時間の損失およびシステムの保守だった。

 今回一般提供が開始されたMongoDBの「Application Modernization Platform」(AMP)は、AI技術を活用したツール群、ベストプラクティス、専任エンジニアの能力を組み合わせることで、ユーザー企業のシステム最新化を支援する。

 MongoDB社がAMPを開発した理由について、同社でプロダクトおよびエンジニアリング担当シニアバイスプレジデントを務めるシルパ・コルハル氏は、「ユーザー企業のAI技術に対する関心が急速に高まり、それに伴って高度なインフラに対する需要が増えたこと」だと語る。

 コルハル氏は「最適なタイミングだった」と述べ、次のように説明する。「当社はさまざまな業界のユーザー企業に対して、レガシーシステムをMongoDBへの移行と最新化を支援してきた。ユーザー企業のAI技術活用の段階にかかわらず、新たなAI技術を採用する準備を支援する時だと感じている」

この先MongoDBが飛躍するには

 MongoDBの新機能はユーザー企業のニーズに応えるものであり、MongoDBの競争力を引き上げるのに役立っている。だが、ユーザー企業のニーズを満たすだけではなく、新規ユーザーを引き付けるために、MongoDB社ができることはまだあるというのが、アナリストの見解だ。

 ペトリー氏によれば、業務の一部をAIエージェントに委ねるようになった企業の大半は、業務の主導権をAIエージェントに奪われることを懸念している。そのため、AI技術に対するガバナンスの強化が、MongoDB社にとってユーザー企業を支援する施策になる可能性があると同氏はアドバイスする。

 ペトリー氏は、「AIエージェントを導入している企業は、当然AIエージェントのリスクを懸念しているが、その軽減策には確信を持てずにいる」と話し、MongoDB社に対してガバナンス機能の強化をあらためて強調する。例として同氏が挙げるのは、MongoDBが保持するアプリケーションメタデータを活用することだ。これによってデータやモデル、AIエージェントを管理するポリシーを適用したり、AIエージェントの動作を管理したりできるようになることが見込まれる。

 カタンザーノ氏が勧めるのは、各業界に特化した、AIツールのテンプレートを提供することだ。金融サービス、小売、医療といった業界のユーザー企業が、AIツールを開発しやすくなるという。

 「構築済みのコンポーネント(部品)やレファレンスアーキテクチャ(ツール設計のひな型)を提供すれば、AI技術の導入ハードルを下げられる。同時に、従来のデータベース以外の用途でも使えるMongoDBの多様性をアピールできるはずだ」(カタンザーノ氏)

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