ガリガリ君の赤城乳業が“魔改造ERP”を「アドオンゼロのSAP S/4HANA」に移すまで:高速物流を止めずに大規模システムを刷新
独自開発だらけのSAP製ERPから「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」に移行するにはリスクが伴う。夏季に1日数千件の物流をさばく赤城乳業が、業務を止めずにカスタマイズなしのクラウドERPに移行した秘策とは。
長年重ねてきた個別カスタマイズが足かせになり、システムのモダナイゼーションに踏み切れない──。IT部門が抱えるこの難題に、大手アイスクリームメーカーの赤城乳業が1つの答えを出した。
赤城乳業は「ガリガリ君」などのヒット商品を抱え、夏季には1日数千件の受注、出荷を処理する高速なサプライチェーンを動かしている。この一大拠点を支えるインフラに対して同社が選択したのは、パブリッククラウドERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA Cloud Public Edition」への全面移行という決断だった。
しかし、それは現場の業務スピード低下や物流停止というリスクと背中合わせの挑戦でもあった。当時の既存システムは、個別開発された膨大なアドオンがコア領域に深く密結合し、これ以上の進化やバージョンアップが極めて困難な“塩漬け”の状態に陥っていたからだ。
経営層からの「データ経営への進化」という至上命令と、現場の「今の業務を変えるな」という抵抗。この板挟みを、赤城乳業はいかにして乗り越えたのか。鍵は、ERPの標準機能を徹底して生かす戦略と、あるローコード技術の組み合わせにあった。
大量物流を止めずに“クリーンコア”を維持した「Side-by-Side」の正体
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SAP S/4HANAへの移行事例
赤城乳業は、基幹業務システムの刷新を目的に、SAPのパブリッククラウドERPであるSAP S/4HANA Cloud Public Editionを採用し、全モジュールの本稼働を開始した。2026年5月12日、導入を支援したフリーダムとSAPジャパンが発表した。食品業界特有の高速・大量物流を維持しつつ、将来のAI活用を見据えたデータ駆動型経営への進化を目指す。
赤城乳業はガリガリ君などの人気商品を展開するアイスクリームメーカーで、夏季には1日数千件規模の受注、出荷を処理する高速なサプライチェーンを運営している。従来は大規模なカスタマイズを施したSAP製ERPを利用していたが、今後の事業成長やデータインフラの整備を背景に、システムのモダナイゼーションが課題となっていた。
今回のプロジェクトでは、ERPの標準機能を最大限に活用する「Fit-to-Standard」の考え方を採用した。一方で、食品業界特有のリベート処理や外部システム連携といった業務については、ローコード開発ツールの「OutSystems」や「ASTERIA Warp」を用いた「Side-by-Side」アーキテクチャで構築。これによって、ERP本体をクリーンな状態に保ちながら、独自の業務要件にも適応できる体制を確立した。
システム移行に伴うリスクを抑えるため、段階的なリリース戦略を採ったことも特徴だ。まず業務スコープの小さいホールディングス会社から稼働を開始し、その後、事業会社、物流、営業領域へと順次拡大することで、2026年1月に全モジュールの本稼働を達成した。
今後は、外部データを統合するデータレイクを構築し、分析ツールの「SAP Analytics Cloud」と連携させる計画だ。従来のレポート中心の管理から、リアルタイムダッシュボードによる分析環境へ進化させ、現場主導の迅速な意思決定を支援する。
赤城ホールディングス取締役財務本部情報システム部部長の吉橋高行氏は、「今回の移行は当社の成長戦略を支える重要な一歩だ。現場の業務スピードを損なうことなく、将来のAI活用やデータ経営への基盤を整えることができた」とコメントしている。
(※)この記事は本多和幸氏と谷川耕一氏によるIT事例メディア「CaseHub.News」に掲載された「赤城乳業、クラウドERPへの全面移行でデータ駆動型経営の基盤を構築」(2026年5月12日)を、TechTargetジャパン編集部で一部編集し、転載したものです。
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