「SAP S/4HANA」のメモリ逼迫はどう防ぐ? HPEが実践した“限界突破”:障害が顕在化する前に対策する設計思想
データ量の増加によって、既存インフラが処理能力の限界を迎えるケースはよくある。「SAP S/4HANA」のデータ逼迫や障害リスクという課題に対し、HPEは自社システムをどのように刷新してボトルネックを解消したのか。
企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、IT部門は共通の現実に直面している。「事業部門はより迅速に動く準備ができているのに、インフラがそれに追い付いていない」という課題だ。
Hewlett Packard Enterprise(HPE)のIT部門も、自社で運用するERP(統合基幹業務システム)「SAP S/4HANA」を刷新する中で、同様の壁にぶつかっていた。既存のインフラは処理能力の限界に近づいており、急増するトランザクションを処理するためには、インフラが処理能力のボトルネックになる前に行動を起こす必要があったのだ。
HPEが掲げた目標は「ビジネスを中断させることなく、成長を実現すること」だ。移行プロジェクトを完了させた後、同社はピーク需要下でのパフォーマンスや処理能力を明確に改善させた。さらに重要な変化として、システムの運用管理が事後対処型のトラブルシューティングから、先行して計画を立案するプロアクティブなアプローチに移行したという。
ミッションクリティカルな大規模システムを刷新するに当たり、HPEはどのような指標でインフラを見直し、どのようなアーキテクチャを選択したのか。HPEのCIO(最高情報責任者)が実践した、インフラの限界を突破し、次のビジネス成長を支えるための5つの教訓を紹介する。
教訓1.データ増加がシステムの限界値に達する予兆を捉える
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インフラの限界は、ある日突然やってくるわけではない。最初は、システム構成の自由度が狭まる、コンピューティングリソース計画の余裕がなくなる、将来のストレージの空き容量が枯渇するといった、小さな変化として表れる。HPEの場合、既存のメモリ上限を突破する設計を採用することで、データ容量の逼迫(ひっぱく)を解消し、システム拡張時にパフォーマンス低下を招くリスクを回避した。
インフラ運用における真の課題は、コンピューティングリソースの枯渇によるシステムの応答遅延や障害が顕在化する前に、限界を迎える「転換点」をデータから早期に察知し、先回りして拡張計画を講じることだ。
教訓2.単なるメモリ容量の追加ではなく、アーキテクチャを見直す
SAP S/4HANAは、全てのデータをメモリ上で高速処理するインメモリデータベース「SAP HANA」の搭載を前提としている。そのため、データ規模の拡大はデータベースのメモリ要求量に直接影響し、インフラの限界を招きやすい。
インメモリデータベースにおいて、システムを拡張することは単に物理サーバのメモリを増設すれば済むわけではない。処理スピードや可用性を維持するためには、スケールアップ(単一サーバの高性能化)かスケールアウト(複数サーバによる分散)かという、アーキテクチャの選定が不可欠となる。
大半の企業は、小規模なサーバを複数束ねるスケールアウト型の設計を採用しがちだ。しかし、データ規模が拡大していくと、サーバ間のネットワーク通信におけるオーバーヘッドやデータ同期の処理負荷が増加し、システムの複雑化や障害リスクの上昇を招きかねない。
そこでHPEは、単一の高性能サーバでデータを一括処理するスケールアップ型のアーキテクチャを選択した。肥大化するデータに対しても、サーバ間通信の遅延を発生させないシンプルなインフラ構成を維持することで、システムの信頼性と処理スピードを両立させている。大規模なシステム構成下では、将来の処理負荷を見据えた設計の選択が重要となる。
教訓3.単純な拡張ではなく、回復力を計画の軸に据える
今回の移行プロジェクトは、単なる定期的なハードウェアの入れ替え作業ではなかった。リスクを最小限に抑えつつ、ミッションクリティカルなシステムの継続性を確保するためのモダナイゼーションという位置付けだ。
導入に当たっては「移行作業中であってもビジネスを保護する」という優先事項を中心に据えた構造的なアプローチを採用した。具体的には、システムの要件定義とサイジングの初期段階に十分な時間を確保し、想定されるパフォーマンスを早期に検証した。その上で、関連チーム間で綿密に連携してリスクを低減させた。
システム移行においては、実行力以上に、事前の検証と準備が安定稼働を左右する。システムの安定性を犠牲にしない拡張計画が不可欠だ。
教訓4.移行完了をゴールとせず、運用保守の「プロアクティブ化」を評価する
IT部門の視点では、システム移行を無事に終えること自体を成功だと定義しがちだ。しかし、真の成果は移行完了の先にある。システム刷新によって、日々の運用保守がどう改善されたのかを測定すべきだ。
HPEは、移行後にピーク需要下でのパフォーマンスや一貫性の向上を実現しただけではなく、IT部門の運用体制を根本から変革した。インフラの処理能力に余裕が生まれたことで、事後対処型のトラブルシューティングに追われる時間が削減された。結果として、先行して計画を立案するプロアクティブなアプローチへと移行し、新しい仕組みを導入する際の検証作業などもスムーズにできるようになったという。
教訓5.将来の拡張性を縛らないインフラを選択する
過去のハードウェア選定が、現在のシステムの足かせになることは少なくない。目先のパフォーマンス課題や容量不足を解決することだけに固執すると、その選択が新たな複雑さを生み出し、将来の制約になり得るからだ。そのため、高負荷時でも一貫したパフォーマンスを発揮し、システム規模が拡大しても管理がシンプルで、インフラを再構築することなく新規ワークロードを収容できるハードウェアを選ぶことが求められる。
HPEはこの基準を社内システムにも適用し、自社で開発した大容量メモリサーバ「HPE Compute Scale-up Server 3250」などのハードウェアを活用している。同製品は最大64TBのメモリを扱い、大規模なワークロードを一貫性をもって処理できる性能を持つ。
製造業のサプライチェーンから医療、金融まで、リアルタイムのデータ処理と無停止のオペレーションが求められる今日のシステム構成において、要件は共通している。将来の制約を作り出すことなく、現在の厳しい要求に応え続けるインフラストラクチャの構築こそが、スケールの限界を突破する鍵になる。
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