自社を守る「SCS評価制度」活用法 7割の企業が取引先起点の情報漏えいに直面:取引先の安全性をどう検証するか
企業間連携の複雑化に伴い、取引先を起点とした情報漏えいが深刻な経営課題になっている。自社だけでは守り切れない死角にどう立ち向かえばよいのか。次期運用が迫る「SCS評価制度」を通じたリスク管理手法を探る。
企業間のデータ連携やシステムの相互接続が常態化している。こうした事業環境の変化は新たな価値を生み出す一方で、自社の強固な防壁だけでは守り切れない「死角」を顕在化させた。取引先や業務委託先を起点としたサイバー攻撃は、IT部門の課題を越え、長期間の事業停止や企業ブランドの失墜に直結する経営上の問題になっている。
調査会社Gartnerが2026年2月に国内企業400社を対象として実施した調査によると、過去1年以内に取引先や委託先から情報漏えい、またはその可能性に関する報告を受けた企業は約70%に上る。この数値は、複雑に絡み合うサプライチェーンにおいて、自社単体での防御がいかに無力であるかを物語っている。
1つのシステムでの小さな欠陥が、連携する複数の企業に連鎖的な打撃を与える現状において、事業継続の要となるのは網羅的なリスクの把握だ。目に見えない脅威に対し、企業はどのような手段で立ち向かうべきか。運用開始が迫る「サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度」(SCS評価制度)を通じ、実践的なリスク管理の手法を明らかにする。
客観的評価指標を経営の武器に
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サプライチェーンリスク対策のヒント
サプライチェーン全体を標的としたサイバー攻撃が勢いづく背景には、大企業の厳重なシステムを正面から突破するよりも、防御体制の手薄な関連企業を経由する方が侵入しやすいという構造的な問題が存在する。Gartnerの予測によれば、2030年までにサイバーセキュリティインシデントの60%以上が、こうした外部の協力企業や供給網に起因するものになる。慢性的な人手不足の中で、全ての取引先の安全性を独自に検証し続けることは困難だ。
この課題に対処するための重要な契機が、経済産業省が2027年3月までに運用開始を計画しているSCS評価制度だ。前述の調査では、本制度の開始1年前の段階ですでに約25%の企業が、取引先に対して同制度の適用を求める方針を示している。
ただし、SCS評価制度への適合を、単なる法令順守や受け身の義務として捉えるべきではない。自社の事業を守り、取引を円滑に進めるための強力な武器として、第三者による客観的な評価指標を戦略的に活用することが肝要だ。
具体的には、調達部門や購買部門が新規の取引先を選定する際、これまでは独自の質問票を相手に送付し、その回答を社内の担当者が目視で確認するといった多大な労力を費やしていた。新制度の評価指標を基準として組み込めば、各社の対策水準を客観的な数値として即座に判断することが可能になる。これによって、確認作業にかかる時間が大幅に短縮されるだけではなく、一定の基準を満たした安全な取引相手とのみシステムを接続する仕組みを社内に定着させることができる。
リスクに応じた優先順位付けの徹底
運用に当たっては、発注企業と受注企業の双方で優先順位付けを徹底する必要がある。発注企業の法務部門や調達部門は、取り扱う機密情報の重要度や供給網全体における代替不可能性を基準として、相手先を複数の階層に分類する。機密性の高いデータを共有する相手には高度な評価基準のクリアを求め、影響が限定的な相手には基礎的な基準を適用するといった具合に、投下する経営資源にメリハリを付けることが可能になる。
受注企業は、自社が運用するシステム群の中で、どの部分が他社との連携に直結し、影響を及ぼし得るのかを特定することが重要だ。対象のシステム群を細分化し、制度の範囲を正確に見極める作業から着手する。依存関係を全社的に可視化することで、守るべき中核となる情報の所在が明確になり、経営陣に対する論理的な投資説明も容易になる。
供給網全体を見渡す管理体制の重要性
Gartnerのシニアプリンシパルアナリストである木村陽二氏は、「取引先の対策状況を確認することは今後の標準的な要件になる」と見解を示し、経営陣が全社的な課題としてサイバーリスクを捉える重要性を指摘している。これらの取り組みを通じて、自社の強固な姿勢を外部に提示できる企業こそが、信頼に足る取引相手として優先的に選定される時代に突入している。
IT部門の役割は、もはや単なる技術的な防壁の構築にとどまらない。事業全体の継続性を確保し、企業価値を直接的に向上させるための戦略的な中核を担う。今後は、自社単体での局所的な対策から、供給網全体を見渡す包括的な管理体制へと発想を転換させることが求められる。ビジネスの成長と安全性を両立させるための行程を描き、評価機関や関係者とも対等に議論を交わせる体制を整えることが、これからの企業競争力を左右する。
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