Column
エンタープライズ・アーキテクチャの効率的な構築アプローチ
社内のビジネス部門のユーザーから、「ITはブラックホールだ」とか「同じ情報が得られるシステムが幾つもあって迷う」といった愚痴に対処するには、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)の構築が効果的だ。
中堅企業のCIOの間では、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を構築できたり、そのための余裕があるのは大企業だけだという意見が根強い。だが、その認識は間違っている。中堅企業のCIOである筆者は、この3年で50人のITスタッフとともにEAを構築し、実りある結果を得ている。
まず大切なのは、EAをあまり大仰に考えないことだ。EAは基本的には、アプリケーション、データ、技術を定義、記述し、ITの長期的な有効性を確保するためのフレームワークだ。
ここでは、中堅企業がEAに効果的に取り組むためのポイントを、われわれの実践例とともに紹介したい。
カリフォルニア州サンノゼにあるウィンチェスターミステリーハウスは、企業システムをこんなふうに作ってはいけないという見本としてIT関係者によく知られている。
160もの部屋があるこの巨大な屋敷は、大富豪のウィンチェスター家を相続したサラ・L・ウィンチェスター夫人が38年かけて建てたもので、行き止まりの階段など奇妙な造作物がたくさんあり、観光名所になっている。社内のビジネス部門のユーザーから、「ITはブラックホールだ」とか「同じ情報が得られるシステムが幾つもあって迷う」といった愚痴が聞こえてきたら、ウィンチェスターハウスが造られているということだ。
そうした事態を避ける最善策の1つは、企業システムを開発し、成長させる基盤となるエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)を構築することだ。
だが、中堅企業のCIOの間では、EAを構築できたり、そのための余裕があるのは大企業だけだという意見が根強い。以下では、その認識がいかに間違っているかを示すために、中堅企業がEAに効果的に取り組むためのポイントを、われわれの実践例とともに紹介したい。
この3年でわたしは50人のITスタッフとともにEAを構築し、実りある結果を得ている。
まず大切なのは、EAをあまり大仰に考えないことだ。EAは基本的には、アプリケーション、データ、技術を定義、記述し、ITの長期的な有効性を確保するためのフレームワークだ。
プロジェクト管理の方法論がプロジェクトを実行する助けになるように、EAはITを提供するためのフレームワークになる。EAの構築に何年もかけて膨大な費用を投入する代わりに、中堅企業はもっと即効性のある効率的なアプローチを取ることができる。そのためのステップは次のとおりだ。
1.スコープを定義する
EAには3つの主要な要素がある。アプリケーションアーキテクチャ、データアーキテクチャ、技術アーキテクチャだ。最も実際的なアプローチは、最初に取り組む1つの要素を選ぶことだ。われわれの場合は、最初にアプリケーションアーキテクチャに取り組むことにした。だが、わたしのチームは忙しく、余力がなかった。そこでわたしは、以前に一緒に仕事をしたことがあるエンタープライズアーキテクトと契約した。われわれは統合、プレゼンテーション、アプリケーションの3つの層から成るアプリケーションアーキテクチャを3週間で完成させた。
2.ビジネスドライバー、目標、成果の評価方法を明確にする
EAはビジネスの戦略と目標に直結していなければならない。われわれの会社では、市場への対応スピードなどが決定的に重要なため、これらに関する目標を支援するアーキテクチャを設計する必要があった。だがわれわれには、すべての経営陣と会って戦略と目標を確認する機会はなかった。そこで、主に会社の発表資料やCFO(最高財務責任者)との会議から必要な情報を集めた。最終的に、EA設計の前提として、12のビジネスドライバー(ビジネスの成長要因)とともに、それぞれに対応した目標と、目標達成度の評価方法を定義した。例えば、ビジネスドライバーの1つとして「市場への対応スピード」があり、これに対応するビジネス目標は、「顧客の要望に基づく業務プロセス変更に要する期間の短縮」だった。われわれはその達成度を、顧客の要望への対応にかかる期間の推移によって評価することとした。
3.IT方針を確立する
わたしはIT部門のよりすぐりの担当者5人と半日かけて会議を行い、ビジネスドライバーと目標に沿っているかどうかをチェックしながらIT方針を取りまとめた。IT方針の数は1ダース程度にとどめておくべきだ。それより多いとかえって振り回されてしまうからだ。われわれのIT方針の一例を挙げると、「アプリケーションは、マイクロソフトのActive Directory Servicesを利用したシングルサインオンをサポートしていなければならない」というものだ。
4.社内に分かりやすく周知する
アーキテクチャのビジョンを、ビジネス部門の役員に分かりやすい図を使って伝える必要がある。プレゼンテーションスライドの数はできるだけ減らして10枚以下にし、アーキテクチャの現状と将来像を示した上で、IT方針と、将来像を実現するための方策を説明するのが適切だ。
チームの準備が整った段階で、わたしはCEOなど経営トップと会議を行って取り組みを説明し、われわれのアーキテクチャへのお墨付きを得た。今では経営陣は、われわれがIT方針に合わない技術は採用せず、目指すアーキテクチャに適合しない限り、プロジェクト提案を承認しないことを理解している。また、われわれは毎年、エンタープライズアーキテクチャの見直しを行っている。
われわれが目指しているのは、構築するあらゆるITシステムが、ウィンチェスターハウスの階段とは違い、われわれを必ずどこかへ導くようにすることだ。
本稿筆者のトニー・ヤング氏は、データ統合ソリューション企業、インフォマティカのCIO。
(この記事は2006年1月25日に掲載されたものを翻訳しました。)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社MatrixFlow] 「物流リソース最適化」ガイド:人員・配車・傭車を出庫依頼の確定前に決めきる -
製品資料
[株式会社キーエンス] なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 「CRMは設計と無関係」は本当か? PLMとの融合で実現する高速開発 -
事例
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] AIエージェントの時代にどう備える? 「新たな働き手」を支える3要素とは -
製品資料
[日本ヒューレット・パッカード合同会社] “横並びの自動化”から脱却、AI活用で生産性と競争力を高める秘訣
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
法務と開発者で「言葉が通じない」問題 トヨタやソニーが語るOSS管理の真実
-
2
ChatGPTは“検索しまくり”でGeminiは“淡泊”? データが明かすAIの裏側
-
3
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
4
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
5
肥大化した「SFA」の沼 4カ月でBigQuery×AppSheetの新システムを構築した方法
-
6
なぜ「Gemini 4 Argon」は出遅れたのか? Googleが狙う“逆転のシナリオ”
-
7
次世代RPA「ハイパーオートメーション」が急成長か Gartnerが予測
-
8
「Wi-Fi 7」経由でWindowsが乗っ取られる? 最高権限奪取の恐怖
-
9
昭和大学病院がeICUを導入、ICUの患者情報を遠隔地で一括管理
-
10
「何から始めればいい?」 情報漏えい対策で悲鳴を上げる中小企業のリアル
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
家庭用Wi-Fiルーターの業務利用は危険? 避けるべき理由と具体的な対策
-
3
プログラミング不要で誰でも実現できる、ネットワーク運用管理の自動化とは
-
4
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
5
財務部門がAIを最大限に活用する方法 無駄のない戦略的リーダーシップへの道
-
6
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
7
なぜRPA導入は頓挫する? シナリオ作成の壁を乗り越える解決策とは
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
10
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー