日本のティッシュはなぜ安い? 業界標準EDIが実現する日本型SCM:EDIは流通業全体のインフラを目指せ【第4回】
多頻度小口発注、多頻度バラ納品、小規模分散型店舗立地、卸機能の集約といった日本独自のSCM。化粧品・日用品業界のサプライチェーン改革を例に、業界標準EDIがSCMにどのような変化をもたらすか見ていこう。
連載インデックス
【第1回】小売業・卸売業のIT部門が流通BMSの導入前に考えるべきこと
【第2回】メーカー・卸間EDIの歴史に学ぶ、“徹底して標準を守る”重要性
【第3回】流通BMSが進展した後のSCM理想像とメーカー・卸・小売の役割
【第4回】日本のティッシュはなぜ安い? 業界標準EDIが実現する日本型SCM
【第5回】EDIの進化──マーケティングへの応用と流通業界横断の情報共有ネットワーク
【第6回】「問題解決型IT活用」を実現する情報化時代の経営の在り方
【第8回】大手卸売業の事例に学ぶ流通業のCIOに求められる適性
日本のティッシュはなぜ安いのか
「欧米と比べて、日本の物価は高い」といわれているが、本当にそうだろうか? 確かに米などの食品や、タクシー代、ガソリン代などは、日本の方が割高である。しかし、日用品・トイレタリー商品を見ると、日本の方が安い商品も多い。
米国の量販店やネットショップの価格を調べてみると、それがよく分かる。ティッシュペーパーをはじめ、石けん、洗濯用洗剤、台所用洗剤、シャンプーなどは、同一ブランドでも日本の方が安価なものが多い。例えば、「クリネックスティシュー」は、アメリカでは1箱220枚(110組)入りでも1.15ドル(日本円換算でおよそ105円)するが、日本では1箱360枚(180組)入りを60円未満の価格で販売する店もある。ちなみにヨーロッパではさらに高価となる。
なぜこのような価格差が生じるのか? それは、日本の流通業が努力しているからにほかならない。モノ作りにおける技術力の高さはもちろん、卸の絶え間ない切磋琢磨(せっさたくま)や小売同士の自由競争などによって確立された効率的な流通機構が、このような価格差を生んでいる。
また、日本と欧米とでは消費者の購買行動が大きく異なる。日本人は欧米人のように一括大量買いはせず、少量多頻度に購買するという昔からの習慣があり、これを前提に流通の仕組み全体が設定されている。多頻度小口発注や多頻度バラ納品といった発注・物流の仕組みをはじめ、小規模分散型の店舗立地に至るすべてが、消費者の購買行動や店舗環境などに適した構造となっているのである。
化粧品・日用品大手卸の物流センターを見学すると、その取扱量の膨大さや優れた機能に驚かされる。化粧品・日用品の小売店舗への納品の多くはバラで多頻度に行われており、物流センターではメーカーから届いたダンボールを開梱し、中の商品をバラで取り出して納品先ごとにまとめて発送している。歯磨き4本、口紅5本、シャンプー6本、耳かき2本というように、毎日4万アイテムもの商品を正確にピッキングし、迅速に配送することが可能となっているのである。納品精度は99.999%(10万回のピッキング中、間違いは1回)と、実にハイレベルである。その結果、卸の納品精度を信用している小売業では検品作業が不要となり、配送効率の向上とコスト削減を実現している。めったに売れない耳かきがコンビニエンスストアなどで100円で売られているのも、卸の集約機能と多頻度バラ納品サービスがあってのことだ。だからこそ小売は在庫を持たずに営業でき、消費者は低価格で品質の良いものを購入できる。これが日本型SCM(Supply Chain Management)の特徴であり、欧米に誇れる仕組みといえるだろう。
日本のような卸売業が少ない欧米では、こういうわけにはいかない。小売業数社で市場の過半を占めるという市場の寡占化によって調達ルートが固定化しているため、自由競争もできず、新規参入も難しい。結果として、冒頭のような価格差が生じるわけである。
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