災害時に患者の診療情報はどうあるべきか?:阪神・淡路大震災の経験を踏まえて開発
東日本大震災の被災地では現在、救急医療だけでなく、高齢者を中心に慢性疾患の患者への治療も求められている。しかし、適切な処置のために必要な診療情報がないことが問題になっている。
東日本大震災の発生から2カ月が経過した。現在、被災地の避難所では震災直後の救急医療だけでなく、糖尿病や高血圧などの慢性疾患への治療に対する医療ニーズが高まっているという。避難所にかかりつけの医師がいて、被災者のカルテ情報があればすぐに適切な処置ができる。しかし、避難先にそうした情報があることは少なく、また患者自身がそれらの情報を正確に把握しているケースも多くないだろう。
今回の震災では、多くの医療機関も被災した。中には、紙カルテを津波で流されてしまったり、院内に設置した電子カルテシステムが水浸しになるなど患者情報を紛失してしまった医療機関も存在するという。そのため、避難所の診療では問診から始まり、必要に応じて検査を実施して禁忌薬やアレルギーを考慮した上で処置を行うなど時間がかかることもある。
こうした有事の際、医療情報はどうあるべきなのか?
現在、政府や関連団体が中心となり、全ての国民の医療情報を電子化してデータベース化し、必要に応じてその情報をネットワーク経由で参照するという情報共有インフラの構築が進められている。今回の災害でその重要性がさらに高まったともいえる。
しかし、実現に向けた課題もある。セキュリティを担保した上で情報を集約して共有する仕組みを取っているものの、機密情報である自身の診療情報を外部に預けたり、第三者に参照されることに不安を持つ人もいる。各地域で進められている複数の医療機関における診療情報の連携では、基本的に患者の同意を取った上で連携することが多い。
一方、「患者自身が診療情報を管理できる」というコンセプトで開発され、必要最低限の診療情報を携帯電話に格納できるツールも存在する。診療所向け電子カルテシステム「Dynamics」のカルテ情報を携帯電話から参照できる2種類のアプリケーション「merody」と「candy」だ。
開発者である吉原正彦氏(吉原クリニック院長)は、1995年の阪神・淡路大震災の際に被災者を診察した経験がある。その経験を踏まえて「患者自身が自分の診療情報を医師に伝えるのは難しい」と考え、「かかりつけ医に連絡が取れないような緊急時や搬送先でも正確に医療情報を伝達可能なツールの開発に至った」という。
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