節電対策でCIOが仮想化とクラウドに注目すべき理由:識者が語る基幹システムのBCP:アクセンチュア 沼畑幸二氏
企業の基幹システムを破壊した東日本大震災。企業は今後の基幹システムの再構築や運用をどう考えていけばいいのか。アクセンチュアのエグゼクティブ・パートナーである沼畑幸二氏に聞いた。
――企業の基幹システムは東日本大震災で大きな影響を受けました。現場ではどのようなことが起きていたのでしょうか。
沼畑氏 首都圏の企業にとって、大きな影響があったのは計画停電でした。アクセンチュアもアウトソーシングで顧客のシステムを運用していますが、一般的なデータセンターは自家発電設備があり、停電の影響を受けません。しかし、今回は停電が毎日起きる、1日に何度も起きるなど長期間にわたって停電が続いたことで影響がありました。日本では停電が起きても短期間で復旧するのが常識でしたが、それが覆ってしまったのです。このインパクトは大きかったといえるでしょう。
停電が長期間になることで、自家発電設備を動かす重油が足りなくなったデータセンターもあったと聞いています。また、計画停電のスケジュールに合わせてデータセンターのサーバをシャットダウンし、実行する予定だったジョブをリスケジューリングして影響を回避したということも聞きました。計画停電の影響はERPシステムだけでなく、銀行のシステムやサプライチェーンのシステムなど非常に広範囲に及びました。
日本のデータセンターは、システムの可用性については非常によく考えられていました。バックアップ体制の整備や、システムダウンを避けるための冗長構成、クラスタリングなども行われていました。電力の自家発電設備もありました。しかし、停電が長期間にわたって続くとは考えていなかったのです。
――停電は今夏以降も起きる可能性があります。
沼畑氏 企業が考えるべきは、何が最も重要なシステムなのかということと、それを使う人が業務を行える状況をどう確保すべきかということです。後者については在宅勤務というソリューションが考えられます。
そして前者の重要なシステムについては、今後可能性がある停電に向けて対応を考える必要があります。東京には国内のデータセンターの70%以上が集中しているといわれています。停電のリスクを避けるためにデータセンターを東京電力の管轄外に移転させるという議論があります。しかし、中部電力の原子力発電所が政府の要請で停止するなど、単純に東京電力の管轄外に移せばよいという話ではなくなっています。
企業が考えるべきは抜本的なITシステムの節電です。基幹システムでも一時的にしか利用しないものや、ある時期しか利用しないものについては使用を止めることができるはずです。まずはこれを検討すべきでしょう。次にどうしても止めることができないサーバについては、仮想化技術を使ってサーバ統合し、その数を減らすことができます。われわれが行ったケースでは、約1200台のサーバを仮想化し、25分の1となる48台の物理サーバに集約したこともありました。サーバ台数が減ることで、大きな節電効果が見込めます。
――震災を機に自社でシステムを運用管理するのではなく、クラウドコンピューティング上でシステムを運用することに企業の関心が集まっています。
沼畑氏 クラウドコンピューティングについては、データ保全という使い方ができます。今回の震災では自治体のシステムが被災し、住民のデータを失ったケースがありました。今はセールスフォース・ドットコムやマイクロソフト、Amazon Web Servicesなど主要なクラウドのプレーヤーが日本国内のデータセンターを利用し、信頼できるサービスを提供しています。システム全体をクラウドに移転するのは多大なコストが掛かりますが、データだけならそれほどは掛かりません。そのような使い方ができると考えています。
クライアントPC環境におけるデータ保全も再検討すべきです。デスクトップPCは停電時にそのままダウンしてしまいますが、バッテリーがあるノートPCなら使い続けることができます。クライアントPCのデータ保全でもクラウドが有用で、従来のデスクトップアプリケーションをマイクロソフトのOffice 365やGoogle Appsなどに置き換えることで、データ保全のレベルを上げることができるでしょう。
企業のCIOは今後の停電、将来の災害に向けて即効性のあるソリューションを採用することが求められています。その中で、仮想化やクラウドという、今すぐ使える選択肢があることに気付くCIOが増えてきました。
――今回の震災では業務を行う従業員の安全確保にも課題があったと思われます。
沼畑氏 多くの企業では災害時の安否確認のために、何らかのコミュニケーション手段を用意していました。しかし、それは電話が中心で、今回の震災では機能しなかったケースが多かったようです。電子メールを安否確認に利用した企業もありましたが、そのメールシステムを社内運用していたか、アウトソーシングしていたか、サービスとして利用していたかなどの違いによって、震災時の利用の可否は異なりました。
一方でTwitterやFacebookなどのソーシャルネットワークは機能していました。スマートフォンを活用すれば、緊急時に従業員の位置情報も確認できます。震災当日、私の家族はアップルの「MobileMe」を使って私がどこにいるのかを確認しました。モバイルワーカーが増える中で、企業は緊急時に社外で働く人の状況が分かるソリューションの利用が求められるかもしれません。Twitterなどのソーシャルネットワークも、位置情報も、企業システムの外側で調達できます。つまり企業は社外のシステムを第2、第3のコミュニケーションインフラとして使えるということです。これを利用しない手はありません。
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