「SAP ERPは月額料金で利用」が当たり前になるか:ERP NOW!【第9回】
オンプレミス、ライセンス課金で利用されてきたSAP ERPを月額料金で利用できるクラウドサービスが増えてきました。ERPに関するユーザーの不満を解消し、普及するのでしょうか。代表的なサービスを紹介します。
SAP ERPをサービスとして利用
SAP ERPを月額料金で利用できるようにしたクラウドサービスが増えてきました。代表的なERPであるSAP ERPはユーザー企業がハードウェアやライセンスを保有し、運用管理を行うオンプレミスで利用されることがこれまでは大半でした。しかし、ERPに関する不満で最も多いコスト問題を避けるために、クラウドを使った“所有しないERP”を目指すユーザー企業が増えてきました。どのようなクラウドサービスが生まれているのでしょうか。紹介しましょう(関連記事:2011年は「クラウドERP」元年になる)。
現在提供されているSAP ERPのクラウドサービスは大きく分けて、SAP ERPそのものも含めて月額料金で提供するSaaS(Software as a Service)型と、SAP ERPのライセンスはユーザー企業が保有し、ハードウェアやその他のソフトウェア、運用管理を月額料金で利用できるIaaS(Infrastructure as a Service)型の2つがあります。前者は主に中堅・中小企業をターゲットにしたサービスです。後者は大企業の利用を想定し、ホスティングサービスを拡充した内容がメインとなります。
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月額1万9800円で利用可能
電通国際情報サービス(ISID)は2010年4月にSAP ERPを月額料金で利用できる「BusinessACXEL for SAP ERP」を開始しました。SaaSといってもユーザー固有の環境をプライベートクラウドとして構築するタイプで、ユーザー企業は自社の業務に合わせたERP環境をアドオンプログラムなどで構築できます。月額料金で利用できるのはハードウェア、データセンター、運用管理の他にSAP ERP 6.0(ユーザー数は150まで)、あらかじめ用意されているワークフローやビジネスインテリジェンス(BI)、帳票などの機能です。
ISIDはまた、SAPソリューションをAmazon Web Services(AWS)上に構築するサービスを展開しています。サービスは、AWS上にSAPソリューションの開発、検証、本番環境を構築する内容で、ユーザー企業はこれによってSAPソリューションにかかわるインフラストラクチャのコストを下げることができます。ISIDはサービスの第1弾として「SAP Business Objects solution」「SAP Rapid Deployment solution」の構築サービスを開始しましたが、近くSAP ERPについてもサービスを開始するとしています。
NTTデータが提供する「INERPIA/イナーピア SaaSサービス」もSAPのSaaSソリューションです。ただこちらは中堅企業向けの「SAP Business All-in-One」を月額課金のSaaSで提供します。2011年2月にサービスを開始しました(参考記事:SAPをSaaSで、NTTデータが中堅・中小企業向けに月額料金で提供)。
ユーザー企業は月額料金でSAP Business All-in-Oneの他、データセンターやサーバ、関連アプリケーション、運用保守、バージョンアップなどを利用できます。月額料金は、1ユーザーライセンスで1万9800円(税別)。初期費用は1460万円(税別)。初期費用はそれなりに掛かるものの、カットオーバー後にユーザー企業の負担となる運用管理コストを大きく抑えることができます。ユーザー数に応じて利用するライセンスを増減させることも容易で、コストの予想が付きやすいというメリットもあります。利用できるのは財務会計、原価/管理会計、購買/在庫管理などの基本的な機能です。クラウド基盤としてNTTデータの「BizXaaS」を利用しています。
海外グループ子会社の利用を想定
TISもSAP Business All-in-Oneを月額料金で利用できる「TIS Ondemand Service for SAP ERP」を提供しています。同社のPaaS/IaaS環境「TIS Enterprise Ondemand Service」を活用。クライアントごとにSAP環境を構築します。ユーザー企業は月額料金で、SAPライセンスとハードウェア、データセンター、セキュリティ、運用・保守などのサービスを利用できます。初期費用は1000万円からで、月額料金は1ユーザー当たり1万8900円からとなっています。最大で100ユーザーまで利用できます。
SaaS型の提供は中堅・中小企業をターゲットにしたサービスが多いのですが、NECはグローバル展開する大企業を対象に、SAP ERPを月額料金で利用できるようにするサービスを始めています。NECが狙っているのは日本に本社がある企業が世界各地に進出し、グループ子会社を現地に設立した際のERP利用です。これまでは現地でERPを構築する手法が取られていましたが、本社と異なるERPを使うことで連携が難しくなるケースがありました。現地でもSAP ERPを利用すればそのような心配はなくなります。SaaSで提供されるSAP ERPは、ハードウェアなどの初期費用を抑えて、短期にERPを利用開始できます。早期に海外進出をしたい企業にとって大きなメリットといえるでしょう。
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仮想化技術でハードウェアリソースを調整
NTTデータはIaaS型のサービスも提供しています。「INERPIA/イナーピア SAPホスティング」の名称で、NTTデータのデータセンターに設置したSAP ERP専用のサーバをユーザー企業が必要なときに、必要な分だけ月額料金で利用できるサービスです。例えば決算期など、SAP ERPを多数のユーザーが使う時期にはハードウェアのリソースを一時的に増大させて、SAP ERPのパフォーマンスをアップさせることが可能です。また、他のクラウドサービスと同様に運用管理はデータセンター側で行うため、ユーザー企業の負荷は少なくなります(参考記事:基幹系クラウドの期待と現実、調査結果で赤裸々に)。
これまでにもSAP ERPのホスティングサービスは数多くありました。それらはハードウェアやソフトウェアの運用管理をサービスプロバイダーが肩代わりすることで、ユーザー企業の運用管理の負担を下げるのが主な目的でした。しかし、INERPIA/イナーピア SAP ホスティングをはじめとするクラウドサービスは、これらホスティングのメリットに加えて、仮想化技術を活用して、サーバなどのハードウェアリソースを柔軟に追加したり、減らしたりできるのが特徴です。ユーザー企業にとっては自らの支出をコントロールしながらも、SAP ERPの高度な機能を使えるといえるでしょう。
クラウド環境でSAP ERPを利用することが普及すれば、ベンダーやサービスプロバイダーだけでなく、ユーザー企業のIT部門も変化が求められるでしょう。これまでIT予算やIT人材の多くがERPに割かれていましたが、クラウドサービスとしてERPを利用するようになるとその予算や人員が不要になる可能性があるからです。SAP ERPの運用管理ではなく、SAP ERPを使っていかに売り上げや利益を向上させるか――IT部門はビジネスへの直接的な貢献が必須となるでしょう。
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