「CRMは死んだ」はもはや遠い過去
もうCRMに失敗しない、データ活用成功3つの秘訣
ビッグデータ活用の成功事例が多いマーケティング分野。だが分析のテクノロジーを使いこなせず具体的な成果につなげられないという企業も多い。米SASに、分析を有効に社業の発展に生かすポイントを聞いた。
昨今、国内でもビッグデータ活用事例が着実に増えつつある。特にマーケティング分野での進展が顕著だ。これを受けて、顧客との継続的な関係作りであるCRMの在り方も変わりつつあるようだ。
SAS Institute Japanは2013年6月18日、顧客分析/マーケティングに特化した製品群「SAS Customer Intelligence」最新版を発表した。合わせて来日した、米SAS Institute グローバルカスタマーインテリジェンス担当ディレクター ウイルソン・ラジ(Wilson Raji)氏と、北アジア地域担当 カスタマーインテリジェンス プラクティスリードのエリック・サンドシャム(Eric Sandosham)氏に、ビッグデータがマーケティング施策に及ぼすインパクトと、分析のテクノロジーをアクションにつなげるためのポイントを聞いた。
本来の意味でのCRMが、ようやく実現可能に
「近年、欧米でもビッグデータ活用に関心が集まっている。特にマーケティング分野では進展が著しく、CRMは予測を生かしたよりプロアクティブなものに変わってきている。従来型のCRMは顧客に関する過去のデータから洞察を得て施策を改善していく取り組みだったが、ビッグデータ時代の今、リアルタイムで自社に入ってくる多種多様なデータを生かすことが大きなポイントになっている」
ラジ氏はまずこのように述べ、マーケティング分野のビッグデータ活用の具体例を挙げる。例えば女性向けリテーラー、Chicoでは、SASを活用することでブログやTwitterなどソーシャルメディアのデータから、今どのような話題が上っているかを抽出、分析し、「色」「デザイン」「流行」などに関するデータを実店舗に伝えている。実店舗はこれを受けて店舗の品ぞろえを顧客の声に応じたものに変え、効果的に顧客体験と収益の向上につなげているという。
「つまり購買データ、顧客の属性データなど、既存の構造化データに加え、ソーシャルメディアデータやコールセンターに寄せられる声など、非構造化データを組み合わせて分析する。これにより、顧客体験を効果的・効率的に向上させることができる」
バックオフィス業務の改善にもつながる。例えばコールセンター業務で、顧客の属性データや問題解決に至るまでにかかった時間などのデータに、会話内容などの非構造化データを組み合わせて分析することで対応の品質・効率向上を図れる。販売実績などのデータと、ブログ、Twitterなどの非構造化データから得た価格や製品、自社に対するコメントを分析することにより、製品・サービスの改善にも生かせるという。
「従来、CRMはバックオフィスに近い取り組みだったが、昨今は顧客体験の向上をはじめ、より前面に出る取り組みに変わりつつある。またリアルタイムでのデータ収集・分析によって、予測的なアプローチを採るものに変化している。既存の構造化データと今のマーケットデータを組み合わせて、より合理的なキャンペーン計画を立案する動きも増えた。これに伴い、システムとしてのCRMも単にデータを並べたり、一定条件で抽出できたりするだけではなく、構造化データに加え、PCやスマートフォン、ソーシャルメディアなど複数のチャネルで生成される非構造化データとの組み合わせから、従来見えなかった傾向が見え、次に取るべきアクションを迅速にリコメンドできるものでなくてはならない」
実際、従来のCRMシステムは本社機能を持つ拠点が分析に用いるケースが主流であり、顧客ロイヤルティ、収益向上のための具体的なアクションにはつながりにくい側面があった。例えばEコマースのように、購買行動に至る手掛かりがWeb上にある程度限定されている場合、従来型CRMシステムも効果を上げやすかったが、実店舗を持つ場合、顧客層、店舗の立地、店内の品ぞろえ、スタッフの顧客対応など、購買行動に影響する要因は数多くある。これらが複雑に絡み合って販売実績を形成しているため、購買データや顧客の属性データなど限られたデータだけを分析しても、売れた/売れなかった原因を正確に特定しにくく、有効な施策につなげることが難しかった。
従って、本社が現場から各種データを集めてCRMシステムで分析し、優良顧客リストなどマーケティング施策に役立つ情報を現場にフィードバックすることで、本社と現場が一体となってPDCAを回すことがポイントとなってきたが、これにもデータ収集から施策の反映までにタイムラグが生じやすいという問題があった。だが、あらゆるデータをリアルタイムに取得・分析し、現場に迅速に反映できるビッグデータ活用のテクノロジーが、今、顧客一人ひとりとの継続的かつ良好な関係構築を狙う“本来のCRM”実現に光を投げ掛けているというわけだ。
今回発表した「SAS Customer Intelligence」もこうした考えに基づいた製品だ。これまで個別に提供してきた「SAS Marketing Automation」「SAS Marketing Optimization」「SAS Real-Time Decision Manager」、「SAS Digital Marketing」をWebベースの単一プラットフォームに統合し、Eコマースやソーシャルメディアデータなど、オンライン上のユーザー行動データをリアルタイムに取得。既存の購買履歴データなどオフラインデータと組み合わせて分析することにより、より包括的な顧客理解を実現し、迅速な施策立案・展開を支援する。
新製品「SAS Adaptive Customer Experience」を追加した点もトピックの1つ。これにより、顧客の行動履歴を分析して、パーソナライズされたWebページを表示させたり、顧客に関連性の高いオファーを提案するなど、いわゆるOne To Oneマーケティングを支援する。また、Webサイト、実店舗、電話、電子メールといったマルチチャネルでの顧客データ、コンタクト履歴なども統合的に管理、分析可能とした。顧客とのコンタクトチャネルごとに対応が異なることはブランディングや信頼関係構築に悪影響を及ぼすが、これによりマルチチャネルに横串を刺した“1つの企業としての一貫性あるコンタクト”の実現をサポートできるという。
分析専門チームは特別なものではなく、企業の“必需品”
なお、SAS Customer Intelligenceは過去と現在のデータから予測モデルを作り、「なぜその事象が起きたのか」「この傾向が続くと今後どうなるか」「最善・最適な施策は何か」といった将来予測を支援するBA(Business Analytics)の製品シリーズ「SAS Business Analytics Framework」の1つとして位置付けられている。
ただ昨今は、分析スキル、知識がなくてもデータをあらゆる角度から可視化できるBI(ビジネスインテリジェンス)製品の人気が高い。SAS自身も大量データをインメモリで高速処理し、目的に応じて表組み、棒グラフ、バブル、ヒストグラムなど、多彩なビジュアルで表現できるBI製品「SAS Visual Analytics」を用意している。この点について、サンドシャム氏は「特別な分析スキルを求めないBIの市場規模が大きくなる傾向は欧米でも同じ」と解説する。
「BIを使える人の方が圧倒的に多いため、常にBIの市場規模が大きくなるのは自然なこと。両者の違いをシンプルに説明すれば、BIは過去のデータを基に『何が起こったか』を教えてくれるもの。BAは『Xという事象が起きたら、Yという事象が起きるだろう。では、より良いZという結果を得るためにはどうすれば良いのか』といった具合に将来を予測し、探索的に使うものだ。すなわち、既知の問題を解決する上でBIは有益だが、BAは解決したことのないものに答えを見つけていくことによって、新たなビジネス機会を創出するものといえる。業務改善に生かす上ではBIが有効だが、次のステップに前進するイノベーションをもたらすのは、やはりBAだ」
ただ、BAツールを使って分析から解決策を導き出す上では、一定の分析スキルやビジネス知識が求められる。そこで昨今、社会的にも分析の重要性が認知されていることから、分析専門のカリキュラムを設置する大学が増えつつあるなど、いわゆるデータサイエンティストの育成が各国で進んでいるわけだが、サンドシャム氏は、「BA(Business Analyst)=データサイエンティストではない」と指摘する。
「一般に、データサイエンティストと呼ばれる人材は、フォーカスがビジネスよりもデータ自体にあり、収益に貢献する施策を論理的に導き出す半面、現実の顧客を見ていない傾向が強い。BA=データサイエンティストといった捉え方もあるが、それは誤解だと考える」
“ビジネスアナリスト”はデータとともに常に顧客に興味を持ち続け、質問を出し続けることが重要だという。例えば「なぜ顧客はこうした反応を示しているのか」「今自社で考えていることはその反応に対する解決策となるのか」といった具合に考えながらサービスを継続的に改善する。サンドシャム氏は「データの中だけに答えを見つけるのではなく、顧客を見る視点を大切にしながら、より良い答えをよりシンプルに見つけるためのツールとしてデータを使うのがビジネスアナリストだ」と強調する。
ただ、分析スキルやビジネス知識、ITスキルを1人の人材が全て併せ持つことは現実的に見て難しい。そこで「ビジネスアナリストやビジネスサイドの人材、マーケティング部門の人材を同じチームとして組織し、それぞれ異なる知見、スキルを持つ人材同士が1つのゴールを共有して連携することが求められる」と解説する。実際、従来のCRMでも本社と現場が近いこと、連携することが実現のポイントとなってきた。これと同様に、ビジネス知識、IT知識、分析スキルを持つ人材が1つのチームを作ることで、必要なデータの収集や分析結果の施策への反映、そのフィードバックといった分析サイクルのスピードを加速させる格好だ。分析の取り組みに成功しているSASのユーザー企業もチームを組織している例が多いという。
「マーケティングは市場変化のスピードに追従していかなければならない点で、テクノロジーが特に必要だ。欧米ではCIOとCMOが密に連携をしている例も多い。また、データの多様化に合わせてチームに必要な人材も多様化している。市場経済のデータが絡めばエコノミストが必要だし、財務に明るい人間も求められる。ソーシャルメディアのデータを扱う場合は広告分野に明るい人材も必要だ。欧米ではそうした組織作りが多くの企業で進んでいるし、その重要性への理解も浸透している。今、企業にとってこうしたチームは特別なものではなく、成功のための必需品だと考える」
データでものを考える習慣が大切
ではそうした高度な分析を行える組織を設置し、分析活動を社内に定着させる上では、具体的に何に留意すれば良いのだろうか? ラジ氏は3つのポイントを挙げる。
「1つは各部門と連携して業務プロセスを調整し、データ収集・分析、分析結果の施策への反映、実施結果のフィードバックといった分析サイクルを業務プロセスに埋め込むこと。2つ目は、アナリティクスを社内の共通言語とする文化の醸成。3つ目は部門横断的な考え方。自身の部門やミッションのことだけではなく、分析という共通言語を使ってビジネスを考え合い、共通のゴールに向かって進んでいくことが大切だ」
このうち、分析を生かす第一歩として特に重要なのは2つ目、アナリティクスを社内の共通言語とすることだろう。具体的には、施策などを考える際に、データの裏付けを使って論理的に考える習慣を定着させることを指している。サンドシャム氏は「その点、BIはデータを情報に変える上で基礎となるツール。データウェアハウスやサーバなどにあるデータを関係者間で共有するためのツールでもある。現場の人たちが自身の持つ直感について、どうしてそうなるのか、データを使って論理的に説明してみる、というのもよいスタートになるだろう」とアドバイスする。
その上で、より有効なアクションにつながる“洞察”を得るものとしてBAを使う。それぞれ異なる知識、スキルを持つ人材が集まり、「なぜそうなるのか」「なぜ顧客はこうした反応を示すのか」と質問を続けながら、より可能性のある未来のシナリオを考え、評価する。サンドシャム氏は、「企業の意思決定では経験や勘も重要といわれているが、直感的な意思決定を支える根拠として、どのような要素があるのかをデータとして可視化し、その正当性を担保してくれる点もBAのメリットだ。これがより確実な意思決定に寄与する」と解説する。
「従って、最終的にはBIとBAを両方使うことが必要になってくると思う。過去から得た知見だけではなく、将来のシナリオをBAでテストすることによって、自社の将来のポジショニングにつなげてほしい」
サンドシャムは最後にこのように述べ、BIからBAへの発展的な活用を促すとともに、「マーケティングの役割はブランディングやキャンペーンなど、顧客とのコミュニケーションが中心だったが、今はBAによって社のビジネスを推進する役割に変わりつつある」とも強調。テクノロジーの進展がCRMの実現を後押しするとともに、マーケティングの在り方そのものも変容させていることを強く示唆した。
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