Windows Server 2003の移行、“はじめの一歩”はどこから?:中堅・中小企業が直面する「Windows Server 2003」の2015年問題(2)
2015年7月に全ての製品サポートが終了する「Windows Server 2003」。人も予算も限られた中で移行を進めるにはどうすればいいのだろうか。まずは対象システムを仕分け、移行の可否や難度、移行に要する時間を把握することが重要だ。
2015年7月に全ての製品サポートが終了する「Windows Server 2003」。限られた人員や予算の中、カウントダウンが始まったこのサポート終了問題に最小限のコストで対処するには、どうしたらいいのだろうか。まずは、対象のシステムを仕分けし、移行の可否や難度、移行に要する時間を把握することが重要である。
Windows Serverベースのインフラ環境は、汎用的に利用できる移行手順や移行ツールが充実しており、移行が容易な部分からすぐに作業を開始すべきだ。手順が簡単だとしても、データや設定の移行に時間がかかる可能性があるからである。
全面的なシステム移行となると、社内のITサービスを完全停止するために連休を利用するケースが多い。だが、そのために充当できる連休は残り少ない。システムインテグレーター(SIer)に委託するにしても、限られた連休に作業が集中し、既に人員不足の状況になっているのではないだろうか。
システム規模が小さい中小企業では、現在の環境を無理して移行するよりも、全く新しく作り直した方が、時間とコストを大幅に節約できる場合がある。既存システムの運用と並行して、新規システムを構築し、準備ができた時点で切り替えるのである。
ただ、基幹業務アプリケーションやパッケージ製品のように、旧OS環境やハードウェア環境に大きく依存したシステムはどうしても残ってしまう。この点については、次回に触れる。
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Windows Server 2012 R2ベースの最新サーバに移行
Windows Server 2003/2003 R2と最新の「Windows Server 2012 R2」では、テクノロジーが大きく変わっている。まず、Windows Server 2003 R2までは「NT5カーネル」、Windows Server 2008以降は「Longhornカーネル」と、OSのコア部分であるカーネルが違う。下位互換性は多くの部分で考慮されているが、後継OSにおける度重なるセキュリティ強化が互換性に影響する場合がある。
また、Windows Server 2003 R2までは32ビット環境が主流であり、64ビット版は登場したばかりだった。現在、Windows Server 2012 R2は64ビット(x64)版のみで提供されている。Windows Server 2012 R2のアップグレードパスには、Windows Server 2003/2003 R2は入っていない。中間バージョンを経由した段階的なアップグレードもできない。Windowsは、32ビットOSから64ビットOSへのプロセッサアーキテクチャをまたがったアップグレードをサポートしていない。
Windows Server 2003/2003 R2からWindows Server 2012 R2への間接的、直接的なアップグレードは事実上不可能であるが、日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)は、Windows Serverの役割サービスやデータを旧サーバから新サーバに移行するための「Windows Server移行ツール」(Windows Server 2012 R2の標準の機能)やドキュメント、「ファイルサーバー移行ツールキット(FSMT)」「Active Directory移行ツール(ADMT)」といった無償の移行ユーティリティ、日本語で記述されたホワイトペーパーを提供している。
そのため、Active Directory、DNSサーバ、DHCPサーバ、ファイルサーバ、Windows Server Update Services(WSUS)、リモートデスクトップサービスなどの主要な基盤サービスは、決められた手順に基づいて、比較的容易に最新サーバ環境に移行することが可能だ。
・Migrating Roles and Features in Windows Server(英語)
・ホワイトペーパー『Windows Server 2012 R2 マイグレーション ガイド』
・ホワイトペーパー『Windows Server 2012 R2最新Active Directoryの機能&移行ガイド』
・ホワイトペーパー『Windows Server 2012 R2最新ファイルサーバーの機能&移行ガイド』
なお、Active Directoryの移行に関する上記のドキュメントやホワイトペーパーでは、Active Directoryのオブジェクトの移行や統合を可能にする「Active Directory Migration Tool(ADMT)v3.2」について説明されているが、AMDT v3.2のシステム要件の関係でこれまでは「Windows Server 2008 R2」のメンバーサーバを用意する必要があるなど制約があった。2014年6月に、Windows Server 2003/2003 R2をサポートする修正バージョンのADMT v3.2がリリースされたことで、最新のActive Directoryへの移行や統合がより容易になった。修正版のADMT v3.2(ADMT QFE v3.2)は、以下のWebサイトからダウンロードすることができる。
画面2:ADMTは、異なるフォレスト間、ドメイン間でディレクトリオブジェクトやパスワードを移行できるツール。2014年6月にWindows Server 2012やWindows Server 2012 R2に対応したADMT v3.2の修正版が公開された
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企業インフラとしてのクラウド
社内外との連絡に欠かせない電子メール、社内における情報共有や共同作業のためのイントラネットサイトやグループウェア、ファイル共有サービス、それらの前提となるID管理基盤、こういった企業内のITインフラサービスをWindows Server 2003ベースで構築し、現役で運用しているという場合、後継バージョンのサーバOSやアプリケーションに移行するよりも、SaaS(Software as a Service)型のクラウドサービスを利用する形に移行する方が、少ないコストで移行できるかもしれない。
例えば、現在、マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」や「Microsoft SharePoint」をベースにしたITインフラサービスを運用している際、同社の「Microsoft Office 365」に移行することで、同じ技術ベース、使い勝手のサービスをすぐに導入することができるだろう。もちろん、クラウドサービスを提供するのはマイクロソフトだけではない。グーグルの「Google Apps」やサイボウズの「cybozu.com」など、他社サービスと機能やコストを比較検討して自社にあったものを選択すればよい。
SaaSのメリットは、常に最新のソフトウェアをサービスとして利用できることにある。サーバの保守やパッチ管理、バックアップ、高可用性対策といった運用管理のほとんどはサービスに含まれており、利用者側が考えなくてよいことも大きなメリットである。自社のITインフラの一部でもクラウド化することができれば、その部分は以後、ハードウェアやソフトウェアのライフサイクル(故障やサポート終了)に振り回されなくなる。
画面3:Office 365は、Exchange Online、SharePoint、OneDrive for Business、Lyncなどのサービスを提供。ID管理はクラウドだけで行うか、社内設置のActive Directoryと連係可能
Linuxとオープンソースは解決策になるか?
企業経営者の中には、サポート終了になるWindows Server 2003の代替として、Linuxやオープンソースソフトウェア(OSS)といったテクノロジーを検討するケースもあるだろう。だが、単に「LinuxやOSS=フリー(無償)」というイメージだけで導入を考えているのなら、その移行プロジェクトはきっと失敗するだろう。フリーのソフトウェアでコストを節約したはずが、導入や運用でかえってコスト高になってしまうかもしれない。
主要なネットワークサービスはLinuxやOSSでも構築できるし、サービスによっては最新の標準に対応した、よりセキュアな環境を構築できる場合もある。比較的新しいLinuxディストリビューションなら、Windowsネットワークサービスのオープンソース実装である最新の「Samba 4.x」を簡単に導入することができ、SMB 2/3対応のファイルサーバやActive Directoryドメイン(現状、機能レベルはWindows Server 2008 R2まで対応)を構築することが可能だ。Windows Serverのサーバライセンスやクライアントアクセスライセンス(CAL)なしで、ファイル共有やID管理環境を導入できるのは、非常に魅力的だろう。
しかし、冷静になって考えてほしい。サブスクリプション製品として有償で提供される企業向けLinuxディストリビューションは別として、フリーのLinuxはライフサイクルが一般的に短く、セキュリティパッチを受け続けるには頻繁にアップグレードを繰り返さなければならないだろう。また、全てフリーで構築しようとすれば、ソフトウェアの不具合やセキュリティ問題に自ら対処しなければならないという課題もある。頼りになるのは、ユーザーコミュニティーベースのフォーラムやメーリングリストくらいだ。
LinuxやOSSのスペシャリストがいるというのなら、引き留めはしない。しかし、そんな人材がいるのなら、既にWindows Server 2003ベースのシステムはLinuxベースに入れ替わっていて、Windows Server 2003のサポート終了に頭を悩ますことはないだろう。
キャンペーンを活用して、お得に移行
新しいサーバに、あるいはクラウドに移行するにしても、先立つものはやはり「お金」である。マイクロソフトは2014年7月8日に、Windows Server 2003からの移行を支援する2つのキャンペーンを開始した。1つは、優遇金利による支払支援を行う「サーバー購入支援キャンペーン」、もう1つは、サーバおよびクライアントアクセスライセンス(CAL)の10%割引する「Windows Server 2003移行促進キャンペーン」である。
同社以外からも、Windows Server 2003ユーザーを対象としたキャンペーンが既にあるかもしれないし、今後出てくるかもしれない。これらのキャンペーンをうまく活用して、移行に掛かるコストを少しでも抑制しよう。
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