「第6回 教育ITソリューションEXPO」リポート
“ひ弱”な学生を鍛え直す――小樽商科大が「アクティブラーニング」に取り組む理由
学生の能動的な学習を促す「アクティブラーニング」に取り組む小樽商科大学。担当者の話を基に、同大学のアクティブラーニング導入の背景や効果を整理する。
教員の話をじっくり聞くだけの一方通行型の講義ではなく、学習者の能動的な参加を促す学習スタイルである「アクティブラーニング」に取り組む教育機関は少なくない。北海道小樽市に本拠を置く国立大学、小樽商科大学もその1つだ(写真1)。同大学は、学生のキャリア教育の一環としてアクティブラーニングに注目。IT製品を生かし、効果的かつ効率的なアクティブラーニングを実現すべく知恵を絞っている。
教育関係者向けのIT総合イベント「教育ITソリューションEXPO 2015」では、小樽商科大学でアクティブラーニングを推進する、商学部 社会情報学科 准教授/学長特別補佐の大津 晶氏が講演した。同大学は、どのような経緯でアクティブラーニングを導入したのか。アクティブラーニングに生かしているIT製品とは何か。アクティブラーニングの効果とは。大津氏の講演内容を基に紹介する。
小樽商科大のアクティブラーニング
国内で唯一の国立商科系単科大学である小樽商科大学。学生数は約2300人と、「国立大学としては、規模や予算的に全国でも最小の部類に入る」(大津氏)という小規模な大学だ。学生のうち、北海道内の高等学校の卒業生が95%以上を占め、内定者のうち51.1%と半数以上の学生が北海道内に本社を置く企業に就職するなど、非常に地域志向の強い大学でもある。
小樽商科大学がアクティブラーニングで取る手法は、ディスカッションやグループワーク、問題解決型学習(PBL)といった従来手法に限らない。「アクティブラーニングにはいろいろな形態があってもよいのではないか」(大津氏)という考え方に基づき、ITの積極的な活用による効果的かつ効率的なアクティブラーニングの実践に力を入れる。その1つが、大規模講義での実践を見据えた「コミュニケーションラーニング」の開発、実践だ。
ディスカッションをはじめ学生が積極的に講義に参加するアクティブラーニングは、数十名規模の学生数で機能したとしても、数百名以上の大規模講義では、そのままの形では実践が難しくなる可能性がある。とはいえ、大学の講義では大人数講義は珍しくなく、大規模講義でもアクティブラーニングの要素を盛り込みたいと考える教員も多いだろう。
コミュニケーションラーニングでは、こうした課題に学習管理システム(LMS)の活用で対処する。大規模講義で多くの学生がディスカッションをするには時間がかかる。そこで、朝日ネットのLMS「manaba」を利用して学生に予習、復習を徹底してもらい、捻出した時間をグループワークやプレゼンテーションの時間に当てることで、「学習の質と量双方の向上を狙った」と大津氏は語る(写真2)。講義と予習の役割を一部逆転させる「反転授業」の要素を盛り込んだ形だ。
スマートフォンやタブレットといったスマートデバイスの活用も試行している。教員の質問に対して学生がリアルタイムに回答できるクリッカーやコミュニケーション支援機能を持つ、朝日ネットのiOS/Androidアプリケーション「respon」を活用。「面白い意見があれば、他の学生の前でプレゼンテーションをしてもらう」(大津氏)といった用途で活用している。さらに、manabaと連係して機能する出席確認機能などを生かし、動的な学生のグループ化を実現しているという。その他、無線LAN環境や可動式テーブル、壁面ホワイトボードなどを備えたアクティブラーニング用講義室も整備している。
“自ら考える学生”の育成にアクティブラーニングを採用
小樽商科大学がアクティブラーニングに取り組むきっかけとなったのは、キャリア教育における問題意識だったと大津氏は明かす。
好調な就職状況から“就職に強い大学”との根強い評価もある小樽商科大学。直近の2014年度卒業者の就職状況を見ると、内定率は男女合計で96.7%と比較的高い。「私が着年して10年以上がたつが、これくらいの数字が維持できている」(大津氏)
このように、もともと比較的好調な就職実績を持つ同大学では、「就職実績の数値を上げて志願者獲得につなげるようなキャリア教育は、幸いなことに必要なかった」(大津氏)という。むしろ同大学が注目したのは、学生の意識だ。
上述の通り、同大学は地元の学生が多い。「『実家から通える国立大学だから』という理由で選択していた部分も往々にしてある」と大津氏は明かす。一方、就職活動においても「『自分がどういう仕事をすればよいのか』といった答えを求めたがるなど、やや“ひ弱”になってきたと感じ始めた」(同氏)という。
学生には明確な目的を持って入学してきてほしいし、卒業時にも自らキャリアを開拓する力を身に付けてほしい――。自ら考える学生を育成したいという思いの基、「キャリア教育の位置付けを抜本的に見直し、学生をしっかり鍛える方針を固めた」と大津氏は説明する。時を同じくして、大学間でアクティブラーニングの機運が高まってきたことを受け、キャリア教育を見据えたアクティブラーニングの実践を始めるに至ったという。
学習時間向上にアクティブラーニングが効果
「講義をいたずらにエンターテインメント化するのがアクティブラーニングではない」と大津氏は強調する。こうした考えの下、同氏がアクティブラーニングの実践と並行して継続するのが、アクティブラーニングがもたらす教育効果の検証だ。
2012年度には、初年次キャリア教育科目である「社会科学と職業」という科目で、アクティブラーニングの効果検証を実施した。検証では、2クラスが通常の指導法で、もう1クラスがグループワークやディスカッション、LMSを使った予習復習を含むアクティブラーニング手法で学習。アンケートで講義外学習時間や満足度などを調査した。
その結果、講義外学習時間を比べると、通常の指導法で学んだ2クラスと比べて、アクティブラーニングで学んだクラスは3倍弱にまで増えたという(図)。講義外の学習は、学生の能動的な学習意欲の表れだという考え方を踏まえると、講義外学習の増加が見られたことは、アクティブラーニングに一定の効果があったと考えられる。その他、進路選択における自己効力感、社会性の獲得・向上といった講義目標を達成したと回答する割合もアクティブラーニング実践クラスの方が優位に高まり、学生の満足度も高まったという。
課題を見据えたアクティブラーニング推進が鍵
キャリア教育関連の講義を中心にアクティブラーニングの実践を進める小樽商科大学。ただし、現状では全ての講義でアクティブラーニングを実践できているわけではない。アクティブラーニングを実践した結果、「黙々と集中して話を聞く従来の聴講スタイルを損ねはしないかなど、本当にアクティブラーニングの実践が本当によいものなのかどうかといった議論もある」と大津氏は明かす。
学生の時間確保という課題もある。上述の通り、予習や復習を交えたアクティブラーニングを実践すれば、学生の講義外学習の時間は増える。大津氏は「少なくとも現状では、学生の講義外学習の量は絶対的に少ない」と前置きしつつ、「何時間勉強したのかを追い求めることは、必ずしも正しい姿勢ではない」と考えている。「とにかくたくさん課題を与えて、学生を“課題漬け”にすればよいわけではない。リアルな講義室の中での講義設計を工夫し、学習の量と室の双方の底上げを図る必要がある」(同)
学習内容が定着しやすいなどメリットが多いアクティブラーニングだが、考慮すべき課題があるのも事実だ。メリットと課題の双方を見据えた上で、効果を検証しつつ、無理のない形でアクティブラーニングを進めていく。小樽商科大学のこうした姿勢は、教育機関がアクティブラーニングのメリットを引き出す上で重要になるはずだ。
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