OpenStack for Enterprise座談会【前編】
徹底討論:OpenStackの社内利用が現実的に? 成熟度を議論した(1/2 ページ)
国内大手企業で導入事例が聞こえ始めている「OpenStack」だが、企業利用にはまだ課題が残る。現状の成熟度はどのくらいなのか。OpenStack導入のプロ5人が語った。
オープンソースのクラウド構築ソフトウェア「OpenStack」が、企業内システム基盤で検討、導入されるケースが増えている。世界的にはBMWやVolkswagen(フォルクスワーゲン)などの事例が有名だが、国内でもキリン、JFEスチール、富士通といった大手企業がOpenStackを採用し社内システムのプライベートクラウド化を実践している。ご存じの通り、OpenStackは発展途上の技術だ。企業利用で必要な機能の拡充、可用性の面ではまだ課題が残る。
TechTargetジャパンは2016年9月、日々OpenStack導入の現場に携わり、コミュニティーでも活躍する有識者とともに、OpenStackの現状と今後について議論する座談会を開催した。モデレーターは、OpenStack導入のコンサルティングや技術検証を行う日本仮想化技術の玉置伸行氏が担当。パネリストには、ハードウェアベンダーおよびシステムインテグレーター(SIer)として国内で多数のOpenStack導入実績を持つNECから鳥居隆史氏、マルチベンダーを強みに、ユーザー企業がOpenStackを活用するための組織改革を含めたコンサルテーションを得意とする伊藤忠テクノソリューションズから中島倫明氏、自社のクラウド基盤にOpenStackを採用し、企業向けのクラウドサービスを提供するNTTコミュニケーションズから林 雅之氏、日本OpenStackユーザー会の会長としてユーザー会や運用コミュニティーを支援する水野 伸太郎氏の4人。前編では、現在のOpenStackが企業利用にどのくらい適しているのか、その成熟度について語った。
モデレーター
玉置伸行氏(日本仮想化技術)
パネリスト(50音順)
鳥居隆史氏(NEC)
中島倫明氏(伊藤忠テクノソリューションズ)
林 雅之氏(NTTコミュニケーションズ)
水野 伸太郎氏(日本OpenStackユーザー会)
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OpenStack導入のコツ
OpenStackのメリット
OpenStackディストリビューション選定
企業で使える? OpenStackの成熟度
――2016年4月にOpenStackの「Mitaka」がリリースされました。このMitakaでOpenStackはどこまで成熟してきたとお考えですか。
水野氏 OpenStackの成熟度を一言でいうのは難しい状況です。例えば、ビッグテント(注1)では1テント当たり50件以上ものプロジェクトが動いていますので、それぞれのプロジェクトごとに成熟度を判断する必要があります。その中でMitakaは、Canonicalが提供する長期サポート(LTS)版で5年間のサポートを提供し、またユーザーインタフェース改善による運用性向上など、企業での長期運用ニーズに応える機能を拡張しています。しかし、仮想マシン管理機能の「Nova」におけるスケーラビリティを向上する機能「Cells v2」が未完成となるなど、より大規模な環境で本格的に導入・運用するには、まだまだ足りない機能があるのが実情です。
注1: OpenStack機能のうち、多くの人が利用するコア機能以外の周辺機能のこと。
中島氏 米国で開催されたOpenStackのイベント「OpenStack Summit Austin 2016」のキーノートでは、ある企業で44日かかっていたデプロイメントプロセスが、OpenStackの導入によって42日に短縮したという事例が紹介されていました。OpenStack自体は着実に進化していて、多くの企業で使われるようになりましたが、単にツールとして導入するだけでは導入効果はわずかしか得られないということです。
そもそもOpenStackは「優れた機能を持っていて、ただ利用するだけで魔法のように効率化が実現できる」というツールではありません。実はこの事例では、OpenStackを導入した後、それに合わせて会社のルールや業務フロー全体を見直したことで、最終的にはデプロイメントプロセスを2時間まで短縮することに成功しています。本当にOpenStackの導入効果を出したいなら、単純な機能やそれらの成熟度だけを見るのではなく、従来の業務のやり方や企業文化にも手を入れていく必要があると思います。
鳥居氏 Mitakaのリリースは期待していた機能が追加されなかったという声もありますが、もともとOpenStackのリリースは他のソフトウェアとは意味合いが異なります。一般的なソフトウェアは、新機能が追加されて、一定のマイルストーンに達したタイミングで最新版がリリースされます。一方OpenStackの場合は、リリースのタイミングで提供可能な機能が単に追加されるだけです。最新版だからといって、期待していた機能が予定通り追加されるわけではないことを、使う側も理解することが必要だと感じています。
水野氏 OpenStackの成熟度はコンポーネントによってバラバラなので、ユーザー企業が自社のユースケースに合わせて最適なものを見極めることも重要です。場合によっては、無理をしてまでバージョンを上げなくてもいいケースもあります。
林氏 OpenStackを導入したいけれど、成熟度が判断できず、どのコンポーネントを使ったらいいのか分からないと悩んでいるユーザー企業が増えています。この部分をSIerがいかにサポートできるかが、OpenStack導入拡大のカギになります。成熟度が足りないコンポーネントについては、SIerが自社開発をして成熟度を高め、それをコミュニティーにフィードバックするような流れもあります。
――ここ数年でユーザー企業のOpenStackへの注目度は、どのように変化してきたのでしょうか。
水野氏 大手のユーザー企業からは、仮想マシンのHA(高可用性)機能を求める声が高まっています。通常、ハイパーバイザーが故障すると、その上に乗っている仮想マシンも落ちてしまいます。Web系のアプリケーションであれば、仮想マシンが1つ落ちても大きな問題にはなりませんが、業務系アプリケーションやデータベースの場合はそうはいきません。仮想マシンが止まると、ビジネスにも大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、コミュニティーでも企業利用を意識して、OpenStackのアプリケーション側で仮想マシンのHA機能を提供するべきではないかと議論され始めています。
中島氏 クラウドサービス事業者からは、仮想マシン単位ではなく、物理サーバ(ベアメタル)単位でアプリケーションにサーバ資源を割り当てる「ベアメタルプロビジョニング」のニーズも出てきています。ただ、用途が大規模でプレーヤーの数も少ないので、なかなか機能が整わないのが実情です。
林氏 OpenStackのベアメタルプロビジョニング機能には「Ironic」がありますが、成熟度はかなり低いといわざるを得ません。ベアメタルを使いたい場合は現状、Ironicを使わず自社開発で対応するのが得策です。
鳥居氏 仮想マシン管理機能のNovaを前提に、ネットワーク機能の「Neutron」やストレージ機能の「Cinder」が作られていったことを考慮すると、やはりベアメタルは異質です。ベアメタルプロビジョニングを実現する場合、NeutronやCinderにも影響が出てくるので、コンポーネントをまたがったクロスプロジェクトが必要になってきます。しかしこれを進めるのは、コミュニティーにとっては大きな負担であり、Ironicの成熟度もなかなか高まらないというのが実際のところです。ただ2016年10月にリリースされた最新版「Newton」では、Ironicの機能がかなり強化されました。商用レベルに達する日も近いと思います。
中島氏 大規模ユーザー企業の間では、オーケストレーション(自動設定・制御)サービスの「Heat」への注目度も上昇しています。通常、OpenStackのシステム環境は、Neutronでネットワークを構築して、Novaのbootコマンドをたたいて仮想マシンを起動し、Cinderを使ってストレージを接続するといった具合に、手順を踏んで構築していく必要があります。これに対してHeatは、OpenStackの各種機能を上の層から束ねる管理機能を提供します。例えばWeb3階層のシステム構造(ネットワークの数やサーバとの接続の関係など)をHeatで定義しておけば、次からは個別の設定手順を踏むことなく、一度の操作で何回でも同じ環境が再現できるようになります。
水野氏 ただしHeatはテンプレート(システム構成の定義)を作るのが大変なので、ユーザー企業が使いこなすのは難しいという話も聞きます。この点はSIerにとって、Heatの導入サービスが新たなビジネスにつながるという期待感も出てくると思います。
――最近では、個別にツールを使うのではなく、複数のツールを組み合わせてOpenStackを活用する動きも出てきているようです。
中島氏 Heatだけでなく、構成管理ツールの「Ansible」や周辺のテストツールなどを含めて、さまざまなツールを連係させることで、OpenStackを含めたシステム全体を動かしていくというアプローチです。ここでのポイントは、OpenStackもツールチェーン(連鎖的につながる複数ツールの集合体)を構成するインフラの一部であり、決して特別なものではないということです。ツールチェーンでは、全てのアプリケーションがOpenStackに向かう必要はなく、用途に応じてオンプレミスやパブリッククラウドと連係するなど、柔軟に活用できるようにしておくことが重要です。
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