製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用【第4回】
医薬品マーケターが利益に貢献したプロモーションを見抜く“すごいデータ分析”とは
製薬企業のマーケティング担当者が活用しやすく、「次のプロモーション施策では何が最適な打ち手となるのか」を考えるのに有効な、データ分析の代表的手法を解説します。
連載について
製薬企業のプロモーションの在り方や行動基準を示した「医療用医薬品プロモーションコード」の厳しい規制の下で、製薬企業のMR(医薬情報担当者)やマーケティング担当者は適切な情報提供の在り方を模索している。eディテーリング(電子的な情報提供活動)ツールやメールマガジン、オウンドメディアなど、さまざまな情報提供の効果を判定するためには各活動の中で得られたログの分析が必要だ。だが十分な分析ができており、かつ分析結果を十分に活用できている製薬企業は多くない。
本連載では、製薬企業の医療用医薬品ビジネスにおけるB2Bマーケティングの現状と課題を整理し、ITツールやデータの活用によってマーケティングの投資効果を高める解決策を探る。
本シリーズでは、主に製薬企業のマーケティングやシステム担当者向けに、
- 第1回 製薬企業のマーケティング調査が「市場規模把握」で終わってしまうのはなぜか
- 第2回 製薬企業のMRが、ITツールを使いたがらない“残念な”理由
- 第3回 医療従事者向け情報提供ツールの膨大な選択肢から効果的な手段を選ぶコツ
というテーマについて述べてきました。最終回では、各種情報のデジタル化による恩恵を最大化させるための「ログデータ分析」について解説します。
製薬企業による医療従事者に対するプロモーションや患者への疾患啓発などは、紙を使ったアナログな手法からデジタルツールを活用する方向へとシフトしています。デジタルプロモーションの特徴は、デジタルツールのアクセスログデータを計測できる点にあります。つまりデジタルプロモーションならば、これまで曖昧になりがちだったプロモーション施策の費用対効果を測ることが可能なのです。さらに、デジタルツールのアクセスログデータを蓄積することで「どこに、どのくらいの予算を投下すると、自社薬剤の処方がどの程度増加するのか」といった、施策の影響度を予測できるようになります。
費用対効果の把握や重点施策の検討が可能になるなど、デジタルプロモーションによって得られるメリットは、どの製薬企業も十分に認識しているものと考えられます。しかし筆者は、ログデータが実際に効率的に活用されているケースはまだまだ多くないと感じています。
ログデータを活用するために重要なのは、正しい分析手法を選択することです。しかし分析手法は多岐にわたり、必要な条件を満たしていなければ正しく分析できません。この複雑さがログデータ活用を困難にしている一因とも考えられます。製薬企業のマーケティング、システム担当者が活用しやすい、代表的な分析手法にはどのようなものがあるのでしょうか。
利益貢献度分析
プロモーション施策が、ゴールである「利益」にどう影響しているのかを分析する手法が「利益貢献度分析」です。
過去に実施したプロモーション施策や、自社が保有するログデータなどを活用し、「次のプロモーション施策で最適な打ち手は何か」を考える分析の進め方は次のようなものです。
製薬企業のプロモーションの場合、医療従事者を対象としたB2B施策と、一般生活者を対象としたB2C施策を同時進行するケースが少なくありません。このように「医療従事者」と「一般生活者」という大きく異なる2つの対象を持つことは、プロモーション施策の利益貢献度を分析する際の影響要素が大幅に増えることを意味し、分析が非常に複雑になります。従って、分析では影響要因が多岐にわたることを理解した上で、プロモーションの効果測定のやり方を精緻化し、適正な投資利益率(ROI:Return on Investment)を算出する必要があります。
具体的な分析手法を見ていきましょう。
1:共分散構造解析
まずは、各施策の利益貢献度と、施策間の関係性を解き明かす「共分散構造解析」を実施します。共分散構造解析とは、ある事象とそれに影響するさまざまな要素との因果関係に関する仮説を立て、それが正しいかどうかを検証していく手法です。利益貢献度を測る場合、「ある事象」はゴールである“利益”となり、「何が利益獲得に影響を与えたのか」を割り出す分析といえます。
製薬企業に限らず、企業のプロモーション活動はさまざまなツールやメディアを介しています。それぞれが利益に対する影響要因となるため、シンプルなロジックだけで施策の効果を測ることはできません。そのため図1のようなパス図を使って、各種の影響要因および事象間の複雑な関係性を統計的に分析し、ゴールポイントである利益に対する因果関係を可視化していきます。
例えば、薬剤Aの処方増加について仮説を立て、共分散構造解析をしたとすると、前述のような因果関係とその関係性の強さが分かります。
- 薬剤Aの処方増加には、MRのディテーリングのコンテンツ提供が強く影響している
- ディテーリングのコンテンツ提供を促進するためには、対象医師の医療関係者向けWebサイトへの来訪が強く影響している
- 医療関係者向けWebサイトへの来訪は、薬剤Aの処方への直接的な影響度よりも、ディテーリング効率を高めることへの影響度の方が高い
つまり、共分散構造解析をすることにより、ゴールである利益獲得にひも付く効果的な要素が判明し、実施すべきプロモーションの方向性を見いだせるのです。
2:重回帰分析
次は「利益を獲得するために、どのような施策を、どの程度実行する必要があるのか」を把握するために重回帰分析を実施します。重回帰分析は、「1つの成果(目的変数)」に対して「複数の要因(説明変数)」がある場合に、影響度を可視化する分析のことです。
具体的には、共分散構造解析により、ゴールとの関係性が強いと判明した要素に対して重回帰分析をします。例えば製薬企業は、一般的に「薬剤Aの売り上げを1000万円増加させる」などの目標を設定しているので、その数値を達成するために「どんな施策を、どの程度実行すべきか」を重回帰分析で割り出します。図2の例では、「薬剤Aの売り上げを1000万円増加させる」ためには、「MRのディテーリングコンテンツ伝達を20%増加させる」ことが必要で、なおかつ「医療関係者向けWebサイトの来訪」を10%増加させる必要がある、といった具合に導き出されています(図2)。
重回帰分析をすることで、利益を達成するために投下すべきプロモーション施策のコストや量といった具体的な数値が見えてくるわけです。
3:飽和点予測
最後に、各施策の飽和点(サチュレーションポイント)を可視化します。マーケティングの理論上、どれだけすばらしい企画でも、施策効果の飽和点は必ず存在します(図3)。
例えば、薬剤の売り上げに対してMRの訪問頻度が貢献する飽和点(これ以上訪問頻度を高めても売り上げに貢献しなくなる)は、過去の売り上げ実績と訪問データを掛け合わせることである程度割り出すことが可能です。
前述の例では「薬剤Aの売り上げを1000万円増加したい」場合、「MRのディテーリングコンテンツ伝達をどの程度増加させる」ことが必要なのか、また「その飽和点はどこか」という風に考えていくことになります。
ただし「MRの訪問頻度」だけを考慮したのではゴールとなる利益が達成できない場合もあるでしょう。その場合には再び、共分散構造解析で割り出した、ゴールと因果関係の強いその他の要素にも目を向けます。これらの要素に対して同じく重回帰分析、飽和度予測を並行し、さまざまな施策を組み合わせることでゴール達成への最適解を導き出していきます。
分析に必要となるデータ
言うまでもないことですが、これらの分析をするためには、分析対象となるデータが欠かせません。
例えば、製薬企業のプロモーションについて今回のような分析をする場合、最低限必要となるデータは次のようなものです。
- 製薬企業が運営するWebサイトのアクセスデータ
- 薬剤の売り上げデータ
- MRの営業活動のログデータ(eディテーリングツールなどを活用)
- 広告費データ
デジタルプロモーションであれば、データを収集することはごく簡単です。集めた情報を有機的に活用することで、データ分析に基づいた効果的な施策を目指しましょう。本連載がメディカルマーケティングに携わる皆さまのお役に少しでも立てれば幸いです。
比屋定 航(ひやじょう・わたる)
WHITE メディカルマーケティングチーム
大手映像系制作会社(プロデューサー)を経て2010年よりスパイスボックスへ入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月にスパイスボックスでメディカルマーケティング事業部を立ち上げる。その後、DTC(医療用医薬品の患者向け広告)パッケージ、企業と患者のコミュニケーションサービス「LINEビジネスコネクト」のメディカルパッケージなど、メディカル業界向け商品をリリース。2016年10月にVeeva Japanとも戦略的なパートナーとして業務提携を締結。患者向け、医療従事者向けともにメディカル業界向けの情報フレームワーク設計や疾患別態度変容率調査データなどをベースとしたコンサルティング、戦略設計、企画、制作までワンストップ対応ができる体制を確立。
大須賀 智哉(おおすか・ともや)
WHITE ストラテジック・プランナー
国内大手システムインテグレーターにて大規模システム構築やITコンサルに従事し、2015年にスパイスボックス入社。その後、親会社である博報堂に常駐し、大手製薬企業の患者・医科向けのデジタル施策に広く関わる。2015年12月からスパイスボックスのメディカルマーケティング事業部。主に製薬企業のデジタルマーケティングにおける戦略策定部分を中心に、患者・医師向け調査、ターゲットセグメンテーション、KPI策定、効果検証スキーム構築などに強みを持つ。2016年には、一般生活者6万サンプルを対象とした疾患別態度変容調査を企画・運営し、定量的データを基に、患者向け施策のプランニングを行う。
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製薬企業のマーケティングを変えるデータ活用
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