高度なプログラミングスキルは不要になる
「ルンバ」をスマートホームの“指揮官”に育てるクラウドロボット工学の可能性
いま家庭で最も普及しているロボットの1つといえば「ルンバ」だろう。そのベンダーであるiRobotがスマートホームへの進出を図るために最先端の技術を利用している。
現代のスマートホームには不都合な現実がある。インテリジェントデバイスは、確かに住人の時間や手作業の労力、そしてコストを節約するかもしれないが、それを実現するためには情報処理の専門教育に相当する技術スキルを必要とする。iRobotの技術担当副社長を務めるクリス・ジョーンズ氏も同じ意見だ。
「スマートホームの課題として、そうした使い勝手や利便性を実現するためには基本的に、個人ユーザーがその家に設置した多数のセンサーやデバイスをプログラミングする必要がある。それは平均的な個人ユーザーがやりたいと思う範囲を越えている」(ジョーンズ氏)。
iRobotは個人向け市場の主力製品「ルンバ」によって、その障壁の解消を目指している。ロボット掃除機のルンバは、2002年の登場以来、多くの変革を遂げてきた。無線LAN接続、センサー、自律演算処理といった現代の“ロボット”に必要な機能は、全て床清掃の効率を高めるために使う。だがジョーンズ氏によると、そうした機能のおかげで単純なマシンが自律型モバイルセンサープラットフォームへと姿を変え、スマートホームの潜在的な指揮官になる立場に立つという、クラウドロボット工学の応用例を示している。
ポストIoT
ルンバは2015年に登場した900シリーズモデルで、フル機能を備えたIoT(モノのインターネット)デバイスになった。ルンバが無線LANに対応したことで、ユーザーはモバイルアプリケーションからルンバを操作できるようになった。同年デビューした「ルンバ 980」は、センサーと内蔵する演算処理エンジンを使って住宅の2次元地図を作成し、自分がいた場所と、ドッキングステーションからの距離を把握し続ける。ジョーンズ氏によれば、このマッピング能力のおかげで、ソフトウェア開発の現場には「スマートホームのためのプログラミング」という新しい仕事が登場したという。
ルンバがスマートホームで役に立つ場面の一例として、照明を起動する動作を考えてみよう。部屋に入ると電気が付いて、退出すると消える設定にしたい場合、個人ユーザーがそのロジックをプログラミングするのは難しい。この処理においてどの動作センサーがどの照明を付けるかというルールのプログラミングも必要なことは言うまでもない。
地図作成機能を備えたルンバは、部屋の位置をスマートデバイスと組み合わせて特定することにより、そうしたプログラミングの一部を自動化できる。「そうすればルールの自動化が簡単になり、『私はこの家の物理的なレイアウトを持っているので、あの動作センサー1番は照明5番、6番、7番と同じ部屋にあるのが分かる。これで私はそのプロセスを自動化できる』ということができる」(ジョーンズ氏)
鍵を握るクラウドロボット工学
自立型掃除機からスマートホーム指揮官への転換を実現する技術の1つがクラウドロボット工学だ。「クラウドロボット工学では、接続型サービスを通して利用できるリソースがある場合、そのリソースを活用することでどのようにロボットを強化あるいは向上するかがの検討が重要だ」とジョーンズ氏は言う。
ルンバの地図をクラウドに送り、クラウド上でユーザーに示す状態に補正する。ジョーンズ氏によると、クラウドで処理能力を増強できるルンバは、実践的なクラウドロボット工学の実例といえるという。
他の応用例として、追加的なデータのためにクラウドにアクセスできる。例えば自動運転車は「weather.com」にアクセスして、気象データを運転操作や経路検索の判断に取り込むことができる。クラウド工学を利用してロボットネットワークを実現すれば、あるロボットが収集したデータをクラウドサービス経由で他のロボットが利用できるという。こうしたクラウドロボット工学の実例は、クラウドに接続するロボットのグループが自動的に他のロボットを介して新しい情報を入手できることから、「フリートラーニング」(集団を横断する高速学習)と呼ぶこともある。例えば自動運転車が予想外の交通渋滞に遭遇した場合、近くににいる他の自動運転車にその情報を共有して、交通の流れを変えることができる。また、ロボットの集団では機械学習アルゴリズムの性能向上に必要なデータセットを、1台のロボットに比べてはるかに多く収集できる。
一方、ジョーンズ氏によると、フリートラーニングもクラウドロボット工学も、全般的にはまだ大部分が研究途上の領域にある。ルンバは、iRobotの新しい収入源を開拓するため、最先端の技術を活用して早くから個人向け市場にあった価格を設定した製品の実例だ。「ロボットのプラットフォーム自体には、それほど大量のプロセッサやメモリを搭載していない。従って、ロボットのハードウェアそのものを離れた追加リソースをいかに活用できるか理解することは、ロボット家電開発者とって理にかなっている」とジョーンズ氏は説明している。
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