モバイルアプリ開発を成功に導く組織編成のヒント:Computer Weekly製品ガイド
大企業はどうすれば、モバイルアプリ開発のための効率的な組織を創設できるのか。
大企業は、同時に複数のアプリを開発し、複数の部署を横断して管理できるモバイルアプリ開発組織を設置する必要がある。ビジネス事業部、販売、宣伝、業務などの部門はいずれも、顧客や従業員、ビジネスパートナーのためにさまざまなレベルのサポートを要求する。
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既にモバイルへの切り替えが進んでいる企業は、うまく機能し、需要に合わせて拡張できる反復的組織パターンを明かしている。その組織は、さまざまな地位や技術スキルを持つ3〜4チームで構成される。
機能横断チーム
最初に来るのはモバイル運営委員会だ。モバイルは単独の事業部や単独の技術システムにとどまらず、社内の多くの部分に関わる。顧客を獲得してサービスを展開し、つなぎ留めるための優先事項を決定するプロセスは、最高マーケティング責任者に任せるのが賢明だ。
モバイル運営委員会は機能横断チームであり、主な地域、製品、機能グループの代表者で構成される。参加者は、顧客と従業員の両方のサービスを担う担当者の間で均衡を保つ。だがモバイル運営委員会を設けている企業は、わずか20%にとどまっているようだ。
2番目にはモバイルセンターオブエクセレンスが来る。モバイル運営委員会は執行意思決定機関であることから、同委員会が定めた戦略を実行に移すための執行部隊を必要とする。それがモバイルセンターオブエクセレンスだ(デジタルセンターオブエクセレンス、またはデジタルトランスフォーメーション部門と呼ばれることもある)。モバイルセンターオブエクセレンスでは、モバイルモーメントを提供するのに必要なスキルや投資、パートナー関係を調整する。一般的にこの部門では、エンタープライズアーキテクチャ部門、プロジェクト管理事業部、電子商取引、カスタマーエクスペリエンス、アプリケーション開発幹部、そして場合によっては調達に関わる人材を組み合わせる。
3番目はモバイルアイデアチームだ。このチームは複数になることもある。こうしたチームではモバイルモーメントを見極め、関わり方を設計し、モバイルアプリとサービスを開発し、結果を分析する。チームは開発者、デザイナー、品質保証のプロフェッショナル、運用のプロフェッショナルおよびビジネスオーナーで構成される。アイデアチームは一般的に、1年以上の間、単一のアプリの専従となる。ただ、一部のチームメンバーはパートタイムだったり、手早く貢献するために加わったりすることもある。
チームメンバーは機能部門の直属にとどまることもあるが、部分的にはアイデアチームのプロジェクトオーナーに対する責任を負い、日常業務についての指示はプロダクトオーナーやそのアプリの責任者から受ける。
最後に来るのがモバイルインフラサービス実現チームだ。多くの企業は、第1世代のモバイルアプリを、既存の記録および自動化システムからの情報と連携させようとして苦戦している。
この状況は特に、宣伝や販売部門が、技術部門から直接的なサポートを受けることなく、自分たち独自のプロジェクトを進めている場合に著しい。
こうした状況では、インテグレーションが会社のポリシーや技術能力に関わる課題になることもある。そうした理由から、一部の組織では専用のモバイルインフラサービス実現チームを設置している。このチームは技術部門の一部だが、中核的な記録および自動化システムへの安全なアクセスの確立を担う。
モバイル開発部門が満たさなければならない基準は、アプリ配信スピードだけではない。アプリの欠陥やパフォーマンスの悪さほど、モバイルアプリをたちまち落ち込ませるものはない。モバイル端末とOSの全般的な新しさや変化のペースを考えると、たとえ最高のアイデアチームであっても進みながら学習していて、その他大勢に比べて進んでいるのはわずか数歩にすぎないといえるだろう。
評価が高いアプリのチームは、ミスをしたり、時にはレグレッションを発生させたりすることを進んで許容する。開発に関する少しばかりの事実を利用しているのはこうした場面だ。すなわち、一層強硬に完璧を追求するのではなく、学習を促して復旧時間を向上させる仕組みを設計することによって、最初はある程度の失敗を見越して許容する。アジャイル技術は出発点として優れている。だが成功を収めるモバイルアイデアチームはさらに先を行き、従来のようなアジャイルチームには必ずしもないチームの役職を付け加えている。
モバイルアイデアチームには、プロジェクトマネジャーに加えて、正式なプロダクトマネジャーがいることが多い。プロダクトマネジャーは事業部(マーケティングや販売)の直属で、プロダクトオーナーのスクラムの役割を果たす。また、モバイルアプリの金銭面や使用面に関する成功を担い、アプリのパフォーマンスについてのフィードバックを収集する。これにはβリリース版の評価やバグ報告、さらには公共フォーラム上で顧客や従業員と直接的にやりとりすることも含まれる。アプリを販売する場合やアプリ内購入機能を持たせる場合は、プロダクトマネジャーが売り上げ目標を定め、顧客がアクセスする内容の構成を調整する責任も持つ。
プロジェクトマネジャーがスケジュールに責任を持つのに対し、モバイルプロジェクトマネジャーは設計、開発、テスト、リリースについて一定のペースを保つ責任を担い、最大限の効率でそれが運用されていることを確認する。もしモバイルアイデアチームが手法基盤としてスクラムを使っている場合、プロダクトマネジャーがスクラムマスターの役職を担うこともある。
チーム内の緊張
プロダクトマネジャーとプロジェクトマネジャーの組み合わせは、チーム内において、できるだけ多くの機能を送り出す(プロダクトマネジャーの目標)ことと、質の高いコードを予定通りに送り出す(プロジェクトマネジャーの目標)こととの間で緊張を生みだす。
だがいずれの目標も、出来のいい高品質のアプリが指標となることから、両者とも、定期的な質の高いリリースが目標となる。フローは最大化される。
モバイルチームは、デザイン関係者の間でよく知られていながら従来の開発部門ではほとんど使われなかった、ペルソナ手法、ジャーニーマップ、ワイヤーフレームといった手法の恩恵を受ける。ほとんどの企業では、デザインの人材は薄く広く分散している。従って、できる限りデザイナーから学び、ペルソナを使ってアプリをどう機能させるべきか、改善の機会を見極めるために顧客のフィードバックをどう募るべきかについて答えを出せるところまで顧客重視の姿勢を強める責任は、開発者にある。
アジャイルモバイル開発のために必要とされるもう1つの要素にDevOpsが挙げられる。アジャイル技術はチームがアップストリームを加速させる助けになるのに対し、DevOpsは出来のいいリリース候補の構築と構成管理において、チームのダウンストリームを加速させる助けになる。複数のプラットフォームを横断する複数バージョンのクライアントをサポートし、手早く容量を調整してクライアントの利用パターンに追い付く必要があるモバイルインフラを整えるため、構成管理の自動化は欠かせない。
全般的には、適切なモバイル開発ツールを入手して、適切な技術パートナーを得るだけでは不十分かもしれない。速さを実現し、高い品質に報い、失敗を受け入れながら、過ちを正すための素早い反応でそれに応える文化がなければ、企業は簡単に失敗に陥りかねない。
本稿はForresterの主席アナリスト、ジェフリー・S・ハモンド氏の「Organise For Mobile Development Success」より抜粋。
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