スキルセットというよりも作業精神
テクノロジーに命を吹き込む「ラピッドプロトタイピング」が必要な理由
最先端のUI(ユーザーインタフェース)を築き上げるには、ラピッドプロトタイピングプロセスが欠かせないという。その理由について話を聞いた。
カーネギーメロン大学のコンピュータ科学者で、Future Interfaces Groupのディレクターを務めるクリス・ハリソン氏は、最先端のUI(ユーザーインタフェース)開発に取り組んでいる。同氏が率いるチームが開発している革新的なプロジェクトには、乱数表や人間の皮膚さえも入力面に変える「OmniTouch」や「Skinput」などがある。
費用をかけずにテクノロジーを構築して、ユーザーに操作してもらい、フィードバックを受け取るのが「ラピッドプロトタイピングプロセス」(以下、ラピッドプロトタイピング)だ。これは、ハリソン氏の研究には不可欠な手法だ。本稿では、同氏のチームがラピッドプロトタイピングを重視している理由について聞いた。またラピッドプロトタイピングを「スキルセット」ではなく「作業精神」と見なしている理由も確認した。
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――数年前のプレゼンテーションで、ラピッドプロトタイピングが研究の鍵だと述べられました。今もその考えは変わりませんか。
クリス・ハリソン氏(以下、ハリソン氏) 今も変わらない。「ラピッドプロトタイピング」と「研究」は、少なくとも私の分野ではほぼ同じ言葉だと思っている。この分野では、人間がテクノロジーに触れ、操作し、何らかのエクスペリエンスを得なければならない。そのためデバイスの使い心地やエクスペリエンスの感触が大変重要になる。
例えば2006年に戻って、人々にAppleの「iPhone」に似たインタフェースをノートPCで見せるとする。こうした方法では、iPhoneが非常に特別なデバイスであることは分からない。斬新なモバイルデバイスは、構築しなければその良さが分からない。未来の車のダッシュボードなども実際に組み立てて、人がその前に座って使ってみることが必要になる。とはいえ、これらを毎回ゼロから作っていたのでは出費が膨大になる。従って、テクノロジーの実際の動きや人々のユースケースを何が何でも深く理解したいと思えば、プロトタイプを作成するという考えに行き着く。
だがもちろん、毎年のようにiPhoneのようなデバイスを構築できるわけではない。iPhoneであれば、恐らく数百人体制で取り組む数年がかりの研究プロジェクトになるだろう。従って、ラピッドプロトタイピングの概念とは、実際には「ビジョンを包含し、可能な限り粗削りなエクスペリエンスを作成して、それをユーザーの前に示してフィードバックを得、再びこれを繰り返す」ことになるだろう。
このようにラピッドプロトタイピングは定期的な反復サイクルだ。このサイクルを繰り返せば、非常に忠実度の高いところまで徐々に凝縮できる。だが10個のアイデアがあり、そのうち試作段階に入るのが9個だとする。そして「これはあまり面白くない」「動きが全くスマートではない」「このテクノロジーに備わっているはずの実用性をきちんと表現するものがない」と感じたものは切り捨てていく。可能性はどこまでも広がっているので、素早い行動あるのみだ。
――「ラピッド」(速い)とはどのくらいの速さをいうのですか。
ハリソン氏 速さに関する絶対的なルールはない。それはプロジェクトの規模によって異なるためだ。何かを築き上げるのに数年かかることもあれば、たったの1週間で終わることもある。私たちがたどるのは、アイデアの誕生から完全な実行までの道のりだ。具体的に言うと「ユーザー調査から、査読を受ける成果物の提示まで」になる。これは、ほぼ全ての研究に対して行っていることだ。以前、テクノロジーの構想から、デモビデオなどのあらゆるものと併せて製品を出荷できるようになるまで約2週間しか要さなかったことがあったが、これは今まで恐らく最も短かったケースだろう。つまり、ここまで「ラピッド」になり得る。
いつもは約1セメスター(半年)にわたるプロジェクトを選ぶので、大体3カ月が典型的な反復サイクルだろう。この3カ月の終わりにいったん振り返って「倍掛けをしてサイクルを続けるか、それとも中止してアイデアを見送りにするか」と問い掛けている。
――ラピッドプロトタイピングの他に、活動において欠かせない手法はありますか。
ハリソン氏 私の同僚についていえば、確実にある。彼らは多岐にわたる可能性を活用している。ラピッドプロトタイピングにこだわる理由が分からないと言われることもある。確かにペーパープロトタイピングなどでも、アイデアの是非はかなりの部分までつかめるだろう。ペーパープロトタイピングで行う「構築」は、iPhoneのようなエクスペリエンスを紙上にスケッチするだけだ。そして質的な評価を行い、エクスペリエンスが人々の生活やテクノロジーの展望にどのように入り込むのかを把握する。
私たちはこうした手法はあまり使わない。なぜならテクノロジストとしては、テクノロジーを人々に手に取ってもらってから価値があるかどうかを見極めたいためだ。重要なのは、テクノロジーの利便性だけではない。その可能性も考慮に入れる必要がある。例えばインタフェースを人々の体に投影するというアイデアがあり、非常に素晴らしいと思えても、一体どうやって実現するかという問題が出てくる。実用性の課題に加えて、大きな技術的課題もある。
ラピッドプロトタイピングは、私たちの活動の中心を成すものであり、幅広いスキルを包含する。独自の電子機器やハードウェアを開発することもあれば、外観を良くするために工業デザインを取り入れることもある。また、ソフトウェアやファームウェアも頻繁に開発する。こうしたシステムを動かすハイレベルのアルゴリズムを実行するために、機械学習、人工知能(AI)、コンピュータビジョンなども適用する。そして最終的にフルスタックで動作するデモとアプリケーションを構築し、アイデアが十分面白いかどうかを示すデモを行う。
つまり、非常に多様なスキルが、ラピッドプロトタイピングの精神に包含されている。これらはラピッドプロトタイピングの「スキル」というよりは、開かれた研究分野を探索して関心を持ち、人々の心に訴え掛けるものを知る「精神」だといえる。
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