川田大輔のクラウド解体新書【第3回:サマリー版】
“じり貧”へ向かう日本市場を復活へと導く オープンイノベーションの可能性(1/2 ページ)
IT業界においても、高度成長期にある国々を日本がまねすることはできない。日本企業の成長には、クラウドをはじめとするITを駆使したオープンイノベーションが必要だ。
本稿は、連載「川田大輔のクラウド解体新書」第3回のサマリーを掲載したものです。完全版は以下からダウンロードしてご覧ください(会員限定/無料)。
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日本ではバズワードとして次々と消費され忘れ去られていった概念が世界ではきちんと積み上げられ、新しい競争モデル作りに活用されている。今回取り扱うのは、これらのうち「ビジネスエコシステム」「オープンイノベーション」など多くの人にとって聞き覚えのある概念だ。
日本ではGeneral Electric(GE)の「Predix」を取り上げると、「ああ、IoT(モノのインターネット)の」といった反応が多く、さらにGEを中心とした米国発の「インダストリアルインターネット」とドイツ発の「インダストリー4.0」をひとくくりに扱う向きもある。だが今回扱う用語を原義に忠実にたどってから見直してみると、ひとくくりに扱うのがはばかられるようになる。同じ理由で「標準化に参加して覇権を」といった主張がピントのずれた目標設定であることも見えてくるはずだ。
変化し続ける世界
第1回「AWS圧勝とは限らない、クラウドシェア争いの現場で起きている“異次元成長”」でも見てきたように、インターネット普及が全地球規模に広がりつつある現代において、特定の一国がインターネット管理を独占し続けるのには無理がある。インターネット統治の国際共同規制体制への移行は時代の要請だ。とはいえ国際共同規制体制――マルチステークホルダーガバナンスモデル(注1)において、無謬(むびゅう)の選択など存在し得ない。著名なIT企業が名を連ねるインターネット関連の業界団体Internet Governance Coalitionがその声明で指摘したように、継続的に説明責任(Accountability)を果たし、透明性(Transparency)の確保、進路の修正、共同規制への参加をし続けるしかないのだ。
注1:多様な利害関係者が参加した社会的合意形成の仕組み。
高度成長期を謳歌するインド市場で起きている変化
世界経済成長の中心である新興7カ国(E7:ブラジル、ロシア、インド、中国、インドネシア、メキシコ、トルコ)の雄、インドは人口増加の中心でもある。国際連合(国連)が発表している世界人口推計「World Population Prospects」によると、2022年までにインドの人口は現在トップの中国に並ぶ。以後、中国は人口減少に転じるが、インドは人口増加が続き2050年までに17億人に達すると、国連は予測している。
現在勃興しつつある「次なる40億人」(注2)市場(その中でも特に注目されているのは上位10億人で、インドはその一角でもある)において、筆者は新たに登場しつつある「Cat.M」や「NB-IoT」といったIoT(モノのインターネット)向けの安価な無線通信規格が、M2M向けのみならず人に向けても利用されることで市場成長の加速するシナリオを想定したが、現実は常に想定を上回る。これら新技術の市場投入を待たず、既存技術をベースとしたサービス価格の低廉化が実現しつつある。インドの例を見てみよう。
注2:年間所得3000ドル以下で暮らす人の数。世界経済における「ピラミッドの底辺」(BOP: Base of the economic Pyramid)ともいう(世界資源研究所と国際金融公社の報告書から)。
Facebookが非営利団体のInternet.orgを通して提供している、ニュースや地域情報といった基本的なWebサイトへ無料でアクセスできるゼロレーティングサービス「Free Basics」は、インド市場の既存事業者と競合したこともあってつまずいた。だがインド国内の鉄道網に沿って光ファイバー網を構築・保有するRailTel Corporation of IndiaとGoogleが提携して2016年9月27日に発表した無料高速無線LANサービス「Google Station」は、発表時点においてインド国内52駅でサービス提供を開始しており、2016年内に100駅まで提供駅を拡張するという。またFree Basicsと異なり、現時点で筆者の調査した範囲ではGoogle Stationを問題視する報道は見当たらない。
この違いは、両者のサービスモデルの違いに起因すると考えられる。Facebook(Internet.org)のFree Basicsは、既存事業者にとって機会損失を生み出す競合サービスとして登場(自社のサービスと同種サービスが無償提供されるわけだから事態は深刻だ)。対してGoogle Stationは、既存事業者から足回り回線(通信事業者と契約者とを結ぶ回線)や無線基地局設置場所の提供を受ける互恵的なサービスモデルを提示している。
インドにおける既存技術をベースとしたサービス価格低廉化の担い手は、外資系企業だけではない。「Jio」というブランドで事業展開するインドの携帯電話事業者Reliance Jio Infocomm(経営者のムケシュ・アンバニ氏は、インド有数の企業コングロマリット、Reliance Industries会長でもある)は、2016年9月に最小契約プラン(プリペイド)が1日当たり19ルピー(注3)、28日単位の契約でも149ルピー(注4)と極めて安価なサービスをインド国内向けに発表した。発表時点ではインド国内人口カバー率80%で提供し、2017年3月には人口カバー率90%まで改善していくという。
注3:約30円。音声・SMS無料、携帯電話回線によるデータ通信0.1GB(夜間無料)、公衆無線LAN(JioNet)によるデータ通信0.2GB。
注4:約240円。音声無料、SMS100通込、携帯電話回線によるデータ通信0.3GB(夜間無料)、公衆無線LAN(JioNet)によるデータ通信0.7GB。
インドの1人当たりGDP(国内総生産)は2013年時点で1498.87ドルではあるが、国際電気通信連合(ITU)が発行した「World Telecommunication/ICT Indicators database 2015」によると、携帯電話普及率は74.5%(2014年)に達している。従来は1人当たりのGDPは1万5000ドルを越える辺りが、携帯電話普及率100%達成の目安だったが、Jioの新サービスが起爆剤となってインド市場の携帯電話普及率が100%を超える日もそう遠くないかもしれない。いったん持続的に実現可能と判明したサービスの普及は早い。今後は携帯電話普及率100%達成に必要な1人当たりGDPが従来水準の10分の1、1500ドルに向かっていく可能性が見えてきた。高度成長期にある市場ではHarvard Business School(ハーバードビジネススクール)のクレイトン・クリステンセン教授の言う、既存製品/サービスの改良を進める「持続的イノベーション」の成果を未開拓市場に素直に適用するだけでも大きな変化を起こし得るのだ。しかし、とある技術世代の爛熟(らんじゅく)期を迎え、需要が飽和してしまっている先進国市場では、この方法はなかなかうまくいかない。流動性が不足しているからだ。
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