川田大輔のクラウド解体新書【第1回:サマリー版】
AWS圧勝とは限らない、クラウドシェア争いの現場で起きている“異次元成長”(1/2 ページ)
「クラウドといえばAWS」と言う人がいるほど、AWSは実績・知名度ともに現在トップのクラウドプレイヤーだ。しかし、AWSよりも高い成長速度を見せるクラウドがある。それは――。
本稿は、連載「川田大輔のクラウド解体新書」第1回のサマリーを掲載したものです。完全版は以下からダウンロードしてご覧ください(会員限定/無料)。
クラウドファーストからクラウドノーマルへ
クラウド市場の成長
IDCの調査(※)によると世界のクラウド向けIT投資はパブリックとプライベートを合わせ、2015年時点で総IT投資の32.7%を占めるに至ったという。IDCの予測を信じるならば、2020年前後には、世界のIT設備投資において、総IT投資に占める従来型設備投資とクラウド向け設備投資のシェアは逆転する。ITサービスの基底となる設備層では、クラウドを標準として考える“クラウドノーマル”が一足早く常態になりそうだ。
ちなみにIDCによるとIT設備投資全体はCAGR(年平均成長率)4.4%と、世界銀行が予測する世界GDP(国内総生産)のCAGR2.9%を上回っている。だが、従来型IT投資はシェアだけでなく実投資額も年平均1.7%のペースで減少している。1.7%の変化など誤差のように感じられるかもしれないが、これは40年後には投資額が半減するペースだ。継続的に小幅に縮小する市場変化に、さしたる影響はないと高をくくっていると、気が付けば「ゆでガエル」化することになる。もちろん、40年かけてゆっくりと投資額が減っていくなどといった楽観的なシナリオは、字義通り楽観的に過ぎる。課題先送りの習慣が染みついている組織にはつらい時代だ。
2016年上半期「クラウド」記事ランキング(2016年1月1日~2016年6月20日)
1位 Appleの「iCloud」がGoogleクラウドを選んだ理由
2位 メールからチャットへ――「Slack」「LINE」が変える情報共有と開発手法
3位 やはり強いクラウド“ビッグスリー”、次のサービス停止はどこ?
ビッグ4への集中の始まり
2015年第一四半期から開示されるようになったAmazon Web Services(AWS)の売り上げと利益の推移を見ても明らかなように、活発に設備投資をしているクラウドは、投資額の成長率以上の売上成長率によって潤っているようだ。調査会社Synergy Research Groupの調査(同社Webページ「Big Four Still Dominate in Q1 as Cloud Market Growth Exceeds 50%」を基に筆者が試算したところ、世界のIaaS(Infrastructure as a Service)市場は年率61.4%のペースで成長している。これは四半期ごとに売り上げが約10%増加するという大変な速度だ。事業者別に見ていくとAWSのマーケットシェアが31%と頭1つ抜けており、以下Microsoft、IBM、Googleと日本でもおなじみの各社がトップグループを形成している。
売り上げを眺めるとAWSの大きさばかりが目立つが、成長速度で比較してみるとまた違った景色が現れてくる。AWSは市場の平均成長速度とほぼ同じペースで成長を続けており、不動のトップシェア31%をキープする。IBM、Googleも成長速度が市場平均に収束しつつあるように見える。一方Microsoftは1社だけ異次元の成長速度を見せ、AWSを猛追している(図2)。
ビッグ4の成長率は総じて市場平均より高く、ビッグ4(AWS、Microsoft、IBM、Google)の市場シェアは2012年第二四半期当時の36%から2016年第一四半期には53%を占めるまでに伸びている。市場平均を下回る成長速度にとどまる下位事業者は、じりじりとシェアを失っている。ちなみにSynergyは従来AWS、Microsoft、IBM、GoogleにSalesforce.comを加えてトップ5としていたが、2016年第一四半期調査結果ではSalesforceを「ネクスト20」に格下げしている。本稿で掲載しているチャートでは失速がまだ明確に見えていないが、ネクスト20の動向についての詳細が判明したら、格下げ理由も判明するだろう。
2014年1月にAWSが「Amazon EBS(Elastic Block Store)」と「Amazon S3(Simple Storage Service)」の値下げを発表するやいなや、MicrosoftとGoogleが相次いで対抗値下げを発表し、AWSがさらなる値下げで対抗。これを見ていたIBMが同年4月にMicrosoftに対抗して値下げ宣言をするなど、ビッグ4による市場揺さぶりが記憶に新しい。この値下げ合戦は上位事業者間のシェア争いにはさしたる影響を与えなかったようだが、下位事業者の変調を招くには十分な効果があったようだ。
図2は、Synergyが四半期ごとに発表している資料を基に推定したものだ。資料から推定の足掛かりが得られなかった部分は線形補間してグラフを描き起こしているので偶然の一致なのかもしれないが、筆者にはビッグ4の値下げ競争が起きた2015年第一四半期の前後でトレンドが変化しているように見える。なお、直接の因果関係は不明だが、Hewlett-Packard(HP)は2015年10月に「HP Helion Public Cloud」のサービス提供終了を発表し、Verizonも2016年2月に撤退、Joyentも同6月にSumsungへの身売りが報道されるなど下位事業者の淘汰もじわじわと始まっている。
筆者はクラウドのシェア分布も、べき乗則(いわゆる80:20の法則やロングテールとして知られているスケール不変性を持った分布)に従うと仮定できるなら、もうしばらくMicrosoftのシェアの成長が続くのではないかと予想している。ただしMicrosoftがAWSとのトップ争いを演じるまでに成長するには、現在の競争領域とは違うレイヤーで大きなプレゼンスが必要になるはずだ。
同じくIBM、Googleについても、べき乗則に従うなら、ほぼシェア5%(シェアと市場推移の関係性を示した「クープマンの目標値」でいう、市場でなんとか存在できる「市場存在シェア」の6.8%にも近い)を確保しているので大きなミスをしない限り、生き残りの切符を手に入れているように見える。ネクスト20(Alibaba、CenturyLink、富士通、Hewlett Packard Enterprise、NTT、Oracle、Orange、Rackspace、Salesforce、VMwareなど)については、前四半期で5位につけていたSalesforceのシェアが5%を切っていた点と、20社でシェア27%、平均1.35%(もちろんシェア分布はべき乗則に従うだろうからネクスト20下位の各社のシェアは1%を切っている恐れもある)という点から察するに、生きるか死ぬかの当落線すれすれといったところだろう。ただし、2009年から中国国内でサービス提供していたとはいえ後発ローカルプレイヤーに過ぎなかったAlibaba(Aliyun)が2015年に米国進出を果たし、ネクスト20に食い込んできたケース(少々条件が特殊ではあるが)などもあるので、グローバルプレイヤーの顔ぶれが安定するまで、まだいくらか時間がかかりそうだ。
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