混乱の先に見据えるプライベートAI基盤
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
買収の混乱やライセンス再編に揺れたVMwareだが、大手顧客の7割がVCFへ移行した。175台のサーバを8台に集約した企業の事例とともに、Broadcomが描くプライベートAI基盤の全容に迫る。
BroadcomによるVMwareの統合が進み、混乱は収束しつつある。「VMware Cloud Foundation 9」(VCF 9)は顧客環境の本番稼働が始まって1年以上が経過した。これにより、同社が推進するプライベートAIの次の段階である「AI Factory」への道筋が整った。
VMware Cloud Foundation(VCF)は、以前は複数の事業部門に分散していたVMwareの168製品を抜本的に整理した。Broadcomは単体販売していたVMware製品を4つの主要なライセンス層に削減した。一方で永久ライセンスを廃止して価格を引き上げたため一部の大手顧客からの訴訟を招き、競合他社に機会を与える結果となった。さらにVMwareのパートナープログラムも大幅に再編した。
それでもBroadcomの幹部が直近の記者説明会で明らかにしたところによると、2024年の初期提供開始以降、VMwareの上位1万社の顧客のうち70%がVCFへ移行した。2025年にリリースされたVCF 9へは、これまでに3000社が移行を完了している。
本記事では、175台のサーバを8台に集約した企業の事例とともに、Broadcomが描くプライベートAI基盤の全容に迫る。
175台の物理サーバを8台のVMware物理ホストに集約したMedRisk
VCF 9は、Broadcomのホック・タンCEOが2024年に予告していた製品統合を実現した。ハイパーバイザーの「VMware vSphere」、ネットワークおよびストレージ仮想化の「VMware NSX」と「VMware vSAN」を単一のインタフェースに統合した。さらに「vDefend」、Aviロードバランサー、「VMware Live Recovery」などネットワークセキュリティやディザスタリカバリー(災害復旧)向けの拡張サービスも備える。
VCF 9へ移行したある顧客はTechTargetの取材に対し、新たに統合されたソフトウェアが自社のオンプレミスデータセンターの基盤として安定して機能していると語った。
ペンシルベニア州ウエストコンショホッケンに本拠を置く医療サービス企業MedRiskでCISO(最高情報セキュリティ責任者)兼インフラベンダー管理担当シニアバイスプレジデントを務めるジェフリー・エリクソン氏は、「少人数のスタッフで運用しつつ、可用性とスケーラビリティの目標を達成するための安定性をもたらす基盤になっている」と話す。
MedRiskは、Broadcomによる買収後に他の顧客が直面した混乱の一部を回避できた。エリクソン氏によると、同社は2023年に買収が完了する直前に契約を更新しており、主要なチャネルパートナーとの関係も維持していたという。
MedRiskはVCF 9による製品統合と、Broadcomのプロフェッショナルサービスによる支援を活用した。オンプレミスデータセンターを6拠点から2拠点へ集約し、将来的には冗長化のためにオンプレミス1拠点とパブリッククラウド環境への縮小を計画している。
エリクソン氏は「それぞれ仕様が異なっていた175台の物理サーバを、10億ドル規模のビジネスを支える8台のVMware物理ホストへと集約した。VMwareはそのオーケストレーションで重要な役割を果たした」と語る。
VCF 9が支えるPrivate AI Cloud
2026年8月31日から9月3日の日程で開催されている年次カンファレンス「VMware Explore 2026」で、Broadcomは多数の製品アップデートを発表した。VCFの機能強化や、「VMware Private AI Cloud」として提供される追加ソフトウェアサービスなどだ。さらに、自律型エージェントのオーケストレーションやデータ管理に向けた「VMware Tanzu」の新サービスも予告した。
調査会社IDCのアナリストであるスティーブン・エリオット氏はこれらの一連のアップデートについて、Broadcomが2025年に発表したプライベートAI戦略を前進させ、VCFユーザーにプラットフォームの利用拡大を促す狙いがあると分析する。
エリオット氏は「顧客にとっては長い道のりだったが、買収がもたらした開発力や進化を目の当たりにしている。同時にAIの台頭によってプライベートクラウドが再び注目を集めるようになった」と述べる。「これまでは現状維持だった企業が、突然プライベートクラウド戦略やAIとの関わりを問われるようになった」
エリオット氏は「大企業はBroadcomの技術専門家やエンジニアリングチームに直接アクセスでき、連携プロセスも効率化されている。そのため、製品ロードマップで自社の要望を反映させやすい」と付け加える。
Broadcomが2026年5月に「VCF 9.1」の一般提供(GA)開始とともに提供し始めたプライベートAIサービスには、AIアシスタントやAIハードウェア向けに最適化したインフラ管理機能が含まれていた。インフラの最適化では「NVIDIA vGPU」ドライバとの統合が図られ、追加のソフトウェアライセンスなしでVM(仮想マシン)とコンテナの双方がGPUを共有できるようになった。また、「Model Context Protocol」(MCP)のサポート、大規模言語モデル(LLM)のギャラリー機能、LLMのパフォーマンス監視機能も追加された。
今週からは、プライベートAIサービスにマルチテナント型のモデル共有機能が加わる。管理者はLLMを一度デプロイすれば、テナントごとの名前空間でデータのプライバシーと隔離性を維持しながら複数の事業部門やグループ間で共有アクセスを割り当てられる。
予告された今後のアップデートには、プロンプトルーティングやトークン・利用率の制限、LLM向けのアプリケーションレベルの認可を提供する新しい「AIゲートウェイ」や、サンドボックスによる隔離と実行環境を提供する「Secure Agent Framework」などが予定されている。
Private AI Cloudを「AI Factory」へ統合
VMwareのプライベートAI向け追加機能は、新たに発表された包括的な枠組み「VMware AI Factory」の下で提供される予定だ。計画中のツール「AgentMinder」には、エージェントのアイデンティティー管理や最小権限アクセスの適用などオブザーバビリティ(可観測性)とエージェント向けセキュリティ機能が組み込まれる。
BroadcomはVMware AI Factoryの一環として、エージェント型AIのセキュリティに対応する「vDefend」と「Avi」ロードバランサーの機能強化を計画している。vDefendはVCFネットワーク上のエージェントや関連するMCPサーバ、LLM、データ、ツールを自動検出し、セキュリティポリシーを適用してシャドーAIを抑制する。さらにエージェント型AIパイプラインを活用して脅威シグネチャを生成し、開発中の分散型仮想パッチ機能へ情報を提供する。またAviロードバランサーは、エージェント型AIによるトラフィック増加を見越し、最大スループットを88%向上させて12Tbpsへと引き上げた。
MedRiskはオンプレミスインフラ以外のベンダーが提供するAI管理ツールを中心に評価を進めており、Palantir TechnologiesのアプリケーションやMicrosoft Azure上のSnowflakeのデータサービスを検証している。それでもエリクソン氏はvDefendとAviのアップデートがAI活用を支える上で重要になると話す。
エリクソン氏は「オンプレミスインフラを通過するトラフィックのほぼ全てがVMwareを経由する。vDefendを使ってトラフィックやインテリジェンスを捕捉し、可視化やレポート作成ができる点は強みだ」と語る。「ただし、クラウドなどオンプレミス環境外にある要素はVMware経由では把握できない可能性がある」
変化するエンタープライズAIの競争環境
Broadcomがオンプレミスデータセンターでのプライベートクラウドを重視する姿勢は、ハイブリッドクラウド環境でAIワークロードのオーケストレーションを手掛けるIBM(Red Hat)やNutanixなどのベンダーに商機をもたらしている。だがIDCのアナリストであるマシュー・フラグ氏は、これがエンタープライズAI市場のBroadcomの存在感を必ずしも損なうわけではないと指摘する。
フラグ氏は「タンCEOには明確なビジョンがあり、それは決して誤ったものではない。同社が不利な立場に追い込まれるとは考えにくい」と述べる。「このような形でプライベートクラウドを展開しているのは実質的に同社だけだ。今後5年間でどれだけのワークロードがプライベートクラウドに残るかは議論の余地があるが、相当な規模が残ることは間違いない」
一方でフラグ氏は、Broadcomが打ち出したPrivate AI Cloudの新機能の多くは、Google Cloud、Cisco Systems、Dell Technologies、HPEといった大手ベンダーが発表したものとおおむね同等であり、最新機能の多くはまだ一般提供されていないと指摘する。
「過去2カ月間に取材した企業のほぼ全てが、何らかのAIゲートウェイやモデルルーターを発表している」と同氏は語る。「Broadcomは慎重に堅牢(けんろう)な製品を構築しているが、市場への投入という点ではやや出遅れている」
しかし調査会社HyperFrame Researchの創業者兼CEOであるスティーブン・ディケンズ氏は、信頼できる製品を求めるBroadcomの顧客基盤にとって、本番環境でのプライベートAI活用はまだ始まったばかりだと指摘する。
ディケンズ氏は「上位レイヤーで派手なアピールを繰り広げることはできるが、企業が求めているのは堅実で信頼できるパートナーだ。Broadcomは大規模エンタープライズ市場の実務的な現実に即して対応している」と話す。
AI FactoryがAMD製GPUと連携、次はNVIDIAか
Private AI Cloudのソフトウェアアップデートは、事前検証済みのオープンソース、オープンウェイト、クラウドベースのAIモデル150種以上をそろえたカタログと組み合わされ、新しい「VMware AI Factory」のソフトウェア基盤となる。このスタックは「メタルからモデルまで」を網羅し、AIプロセッサ、サーバ、ストレージのパートナー企業による事前検証済みハードウェアやパートナー企業MetalSoftのベアメタルプロビジョニングツールまでカバーする。
VMware AI Factoryの提供開始時点のハードウェアパートナーは、GPUを提供するAMDと、認定サーバノードメーカーのCisco Systems、Dell Technologies、Lenovoだ。Broadcomの幹部は、将来的にNVIDIAや他のハードウェアベンダーをパートナーに追加する可能性を排除していない。AI Factoryの「Model as a Service」機能でサポートされるモデルには、NVIDIAの「Nemotron」も含まれている。
BroadcomのVCF部門でプロダクトマーケティング担当バイスプレジデントを務めるプラシャント・シェノイ氏は、「過去数週間にわたり検証を進め、市場へ自信を持って提示できるサーバ構成とアーキテクチャを確立した最初のパートナー群だ」と語る。「AMDだけでなく、認定したサーバパートナー以外のOEMやODMも含め、エコシステムのパートナーシップを拡大していく方針だ。NVIDIAとの連携も最優先事項として検討している」
調査会社VB Intelligenceのリードアナリストであるロブ・ストレッチャーイ氏によると、世界的なメモリ不足とNVIDIA製品の価格上昇が続く中、AMDのハードウェアは調達が比較的容易でコストも抑えやすいという。
オンプレミスでAI環境を構築する企業の間では、GoogleのTPU、AmazonのInferentia、MicrosoftのMaia 200、ArmのAGI CPUなど多様なAIチップやプロセッサを組み合わせる検討が進んでいると同氏は補足する。
ストレッチャーイ氏は「AMDはこの分野に注力している。NVIDIAほどのソフトウェア資産は持っておらず、率直に言って同等ではないものの、多くの用途で十分な性能を持つ。コスト面で破綻することなく導入できる選択肢として捉えられている」と語った。
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