95%は「必要なスキルの変化」を実感
IT人材の42%が転職予備軍 辞めさせない組織の4つの共通
AIが人間の仕事を代替するという声がある。一方、人間とAIの共存を提唱する動きもある。調査会社Info-Tech Research Groupの調査レポートは、人間とAIが協働する組織への移行を見据える4つのトレンドを示した。
AIがコードを書き、情報を整理し、意思決定まで支援するようになった。IT人材に求められる能力も変化しつつある。
調査会社Info-Tech Research Groupは2026年6月、IT人材の動向をまとめた「IT Talent Trends 2026」を発表した。同社によると、今後のIT組織は「人間かAIか」という二者択一ではなく、人間とAIが協働するハイブリッド型へと変わる。そのためCIO(最高情報責任者)には、技術導入だけでなく、人材の採用、育成、組織文化まで見直すことが求められるという。
調査では、ITプロフェッショナルの95%が、技術の変化に対応するために必要なスキルが変わっていることを認識していた。また、ITリーダーの89%がIT部門の再編を予定、または想定している。一方、IT管理職の76%はストレスが中程度、あるいは増加傾向にあり、IT人材の42%は積極的または潜在的に転職先を探しているという。
では、AI時代のIT人材戦略では何を変える必要があるのか。Info-Tech Researchが挙げる4つのトレンドを見ていく。
辞めさせない組織がやっていること
1.技術力だけでなく「AIが代替しにくい能力」を評価する
AIによって多くの技術作業を自動化できるようになると、単に特定の技術に詳しいだけでは人材を差別化しにくくなる。そこで重要になるのが、問題解決力、批判的思考、適応力、感情知性、ビジネスへの理解といった、人間ならではの能力だ。
Info-Tech Research Groupのリサーチ開発担当アソシエイトバイスプレジデント、イザベル・エルタント氏は、企業は資格や過去の経験だけではなく、「潜在能力」を重視して採用すべきだと指摘する。好奇心を持ち、異なるバックグラウンドを持つ人材を採用し、AIを使って学習したり、新しい価値を生み出したり、周囲の成長を支援したりする行動を評価することが重要だという。
その背景には、技術スキルの陳腐化の速さがある。Info-Tech Research Groupによると、IT人材の採用には平均3カ月、重要なポジションでは5カ月程度かかる。さらに、新しく採用した人材が十分な生産性を発揮するまでには約12カ月必要だという。一方、技術スキルの「半減期」は3年未満とされる。
つまり、人材を採用した時点で持っていた技術スキルは、その人が組織で本格的に活躍し始める頃には、既に陳腐化が始まっている可能性がある。
エルタント氏は、「採用だけでは、新たなスキルギャップから抜け出せない」と指摘する。企業には、現在のスキルだけを見るのではなく、適性や学習能力を見極めて採用し、その後継続的に育成する発想が必要になる。
2.「学習する力」を人事評価の指標にする
技術が短期間で変化する環境では、一度身に付けた知識だけで長期間働き続けることは難しい。
そこでInfo-Tech Researchは、「学ぶ」「一度学んだことを捨てる」「新しく学び直す」という能力を、IT人材にとって重要な要素として挙げる。
具体的には、採用や育成、昇進の判断で、現在の仕事の成果だけでなく「どれだけ学び、変化に適応できるか」を評価する。また、研修を通常業務から切り離すのではなく、日常業務の中に学習時間を組み込むことを推奨している。
例えば、短時間で利用できるオンデマンド型の教材を提供し、日常的に学習できる環境を整える。
AIそのものを人材育成に活用する方法もある。組織内で必要とされるスキルと従業員が持つスキルをAIで分析し、個人ごとの学習計画を生成する、といった仕組みだ。業務ツールにAIによる学習支援を組み込み、「今が指導すべきタイミングだ」と管理職に知らせるといった使い方も考えられる。
3.人間とAIを1つのチームとして設計する
AI導入というと、既存の業務プロセスにAIツールを追加することを考えがちだ。しかしInfo-Tech Researchは、それだけでは十分ではないとする。
必要なのは、業務そのものを見直し、人間とAIの役割をあらためて設計することだ。
エルタント氏は、現在のDX(デジタルトランスフォーメーション)の目的は「既に役割を終えた古い業務プロセスを最適化することではない」と説明する。より良い仕事を実現し、組織全体への価値を高めることが重要だという。
特にAIは、従来のITツールとは異なり、判断や助言まで実行する。その一方で、ハルシネーションや推論ミスを起こし、結果が不安定になることもある。
そのため、AIを単なるソフトウェアとして扱うのではなく、「チームの一員」のように役割や権限、監督方法を設計する必要がある。
AIに任せる仕事、人間が判断する仕事、人間による確認を必須とする仕事を整理し、それに合わせて新しい職務やキャリアパスを設計する。AIによる効率化を進めながらも、人間が最終的な判断を担う仕組みを残すことが、ハイブリッド型組織では重要になる。
4.「変化に適応できる組織文化」をつくる
AI導入で成果を出せない原因は、必ずしも技術や予算にあるとは限らない。
Info-Tech Researchは、変革が失敗する背景として、従業員の抵抗や疲労、変化への適応不足を挙げる。
そこで注目されているのが「AQ」(Adaptability Quotient:適応力指数)だ。個人やチームが変化や混乱にどれだけ対応できるかを示す考え方だ。適応力が低い人ほど、変化に直面した際にストレスや停滞、不安を感じやすいという。
組織の適応力を高めるため、同社は3つの施策を挙げている。
1つ目は、共感力や変革を主導する能力、コーチング力を重視した管理職育成だ。変化を受け入れる姿勢を経営層や管理職自身が示す必要がある。
2つ目は、意思決定を現場に委ねることだ。本来であれば現場で判断できる内容まで上司に確認を求める組織では、変化への対応速度が落ちる。現場に近い従業員を信頼し、自ら判断できる環境を整える必要がある。
3つ目は、継続的なフィードバックだ。AIを利用して従業員の意見を大規模に分析し、感情や組織内の変化を早期に把握するといった活用も考えられる。
AI時代にIT組織が競争力を維持するには、最新技術を扱える人材を集めるだけでは足りない。AIには任せにくい判断力や適応力を持ち、継続的に学びながらAIと協働できる人材を育てられるかどうかが、IT部門の強さを左右することになりそうだ。
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