AI先行企業でIT人材の増員進む
AIで人を減らした企業がもう心変わり 「AIブーメラン現象」の実態
AIが人間の業務を担うので、人間の雇用は減るはず――。この考えを払拭する調査結果をHarvey Nashが公開した。大規模なAI導入で先行する企業は、IT部門の人員を増やす傾向にあるという。一方、課題もあるようだ。
AIを導入すれば、人間の仕事は減り、企業は人員を削減できる――。生成AIの普及によって、こうした議論が繰り返されている。しかし、AI活用が進んでいる企業の実態を見ると、必ずしも「AI導入=人員削減」とはなっていないようだ。
では、AI導入が進む企業では実際に人間の人員は増えているのか。IT人材紹介企業Harvey Nashの米国・カナダ担当マネージングディレクター、ジェイソン・パイル氏が同社のHarvey Nashなどの調査結果を基に、AI時代の人材戦略を紹介する。
IT人材を増やしている企業は?
Harvey Nashが2025年6月に公開した調査レポート「2025 Digital Leadership Report」によると、大規模なAI導入で先行する企業は、他の企業と比較して、IT部門の人員を増やしている可能性が24%高かった。増員の中心となっているのはAIやデータ関連の人材だという。
同様の傾向を示す別の調査もある。パイル氏によると、米国約2万2000社を対象とするある調査では、AIへの投資額が大きい企業は、AI導入後に雇用を約10%増やしていた。一方、AI導入の規模が小さい企業では、統計的に有意な雇用の変化は確認されなかった。
さらに、巨額のAI投資を実施しているある企業では、エントリーレベルの人員も12%増員していたという。
こうした結果からパイル氏は、AIは人間の仕事を単純に奪う存在というより、人間の能力を補完する存在になるとの見方を示す。AIによって仕事内容や働き方は変わるものの、企業にはAIと人間を適切に組み合わせることが求められるという。
「AIがコードを書く」時代でもエンジニアが必要な理由
例えばソフトウェア開発では、AIがコードを書く場面が増えている。それでもパイル氏は、熟練したエンジニアは引き続き必要だと指摘する。
AIが生成したコードや成果物を監督、確認するだけではない。開発する製品が顧客のニーズを満たしているか、企業の戦略的な優先事項に沿っているかを判断するには、人間の経験や事業に対する理解が必要になるからだ。
実際、米国のテクノロジー人材市場では、AIエンジニアやデータサイエンティスト、DevOps担当者、サイバーセキュリティ専門家などへの需要が高い状態にあるという。
一方で、AI導入を理由に採用を抑制したり、人員を削減したりした企業の一部では、その判断を見直す動きも出ている。パイル氏はこれを「AIブーメラン現象」と呼んでいる。
その背景には、企業がAIをどのような体制で利用すべきか模索している段階であることに加え、投資対効果(ROI)を十分に得られていないことや、AIモデルの利用コストが高いことがある。Harvey Nashの調査では、AI投資から明確なROIを得られた企業は約3分の1だった。
76%がAIを使えるが、「体系的な支援あり」は36%
AI導入後の企業にとって課題になるのが、従業員のスキルだ。
Harvey Nashが2026年5月に公開した調査レポート「Tech Talent & Salary Report」によると、ITエンジニアの76%はAIツールを利用できる環境にある。一方、AIを使いこなすための体系的な支援や学習時間、明確な枠組みが提供されていると回答した割合は36%にとどまった。
AIを試し、学習するための専用時間を与えられていると答えた人も43%いた。さらに、回答者の20%は自力でAIの使い方を学ぶことを求められており、23%は正式な研修の導入を待っている状態だという。
これらの結果からは、単に従業員へAIツールを配布するだけでは、十分とは言えない実態が示唆されている。パイル氏は、研修・人材開発への投資や、従業員がAIを試す時間の確保、コンサルティング会社など外部組織を通じた知識移転が重要だと指摘する。
AIが人間の仕事をどこまで置き換えるのかについて、現時点で単純な答えを出すことは難しい。ただし今回紹介された調査からは、AI活用を進めることと人員を減らすことが必ずしも同義ではないことが分かる。
AIを使って新しい製品やサービスを生み出し、生産性を高めるには、AIそのものへの投資だけでなく、それを使いこなす人材への投資も必要になる。パイル氏は、AIを有効活用できる企業が将来の競争で優位に立つとし、その実現の中心にいるのは人間だと結論付けている。
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