Amazon Web ServicesやMicrosoftに差をつけられるか
Googleの機械学習用プロセッサ「Cloud TPU」の長所と短所
Googleは「TensorFlow」のパフォーマンスを向上させるため、Cloud TPUというマイクロプロセッサを提供している。クラウド機械学習市場で有力な立場を築いているかのように見えるGoogle Cloud Platformだが、TPUには課題も見られる。
クラウドで機械学習のワークロードが増加を続けている。これをサポートするため、Googleは同社の「Compute Engine」プラットフォームの一環として、特殊な用途向けのマイクロプロセッサを展開している。同社は大手クラウドプロバイダーの一員として、人工知能(AI)技術を用いたアプリケーションを自社インフラでサポートする能力を競っている。このマイクロプロセッサは、その取り組みの最新例の1つだ。
「市場と技術という両方の要因の相乗効果として、Googleのようなベンダーは、パフォーマンスの高いクラウドサービスを新たに開発せざるを得なくなっている」と話すのは、Moor Insights & Strategyのハイパフォーマンスコンピューティングとディープラーニング部門のコンサルティングリードを務めるカール・フロイント氏だ。
Googleは、オープンソースの「TensorFlow」フレームワークを用いる機械学習アプリケーションのパフォーマンスを向上させるため、「Cloud Tensor Processing Unit」(Cloud TPU)というチップを設計した。Cloud TPUが全ての企業のニーズを満たすことはないとしても、機械学習モデルのトレーニングや導入には、CPUやGPU以上に数多くのメリットをもたらす。
設計上の変化
ここ数十年、IntelのCPUが、データセンターのほとんどのワークロードを支えてきた。IT部門がEコマースシステムなど、パフォーマンスの高いアプリケーションの導入を迫られた場合、新たなワークロードの対応に必要な数だけIntelのプロセッサを追加するという、非常に簡単でコスト効率性も高い手法を採用できた。
機械学習アプリケーションがこうした状況を変えた。従来のエンタープライズアプリケーションが主に扱ってきたのは構造化されたデータだ。こうしたデータにはCPUの追加で十分対応できた。しかし従来とは異なり、機械学習アプリケーションは構造化されていないデータセットを大量に利用する。こうしたデータセットはワークロードのパターンを散発にして、処理サイクルを滞らせる可能性がある。
「機械学習アプリケーション、特に深層学習は、数十億ビットから数兆ビットに及ぶ膨大な量のデータを処理する」(フロイント氏)
機械学習システム処理の最終結果が従来のアプリケーションとは異なると指摘するのは、Gartnerで調査ディレクターを務めるアラン・プリーストリー氏だ。
「従来のアプリケーションは規則に基づき、結果は『はい』か『いいえ』になる。機械学習は確率に基づく結果を導き出す。例えばある対象物がギターである確率は94%、犬である確率は3%、それら以外のものである確率は3%という結果になる」(プリーストリー氏)
機械学習アプリケーションにはこのように独特の要件があるため、従来のCPUやGPUでさえ、常にこうした要件を効率良くサポートできるわけではない。GPUは最近、計算処理を集中的に実行する大規模ワークロードによく使われるようになっている。その結果、多くのITチームが、特別に設計された高価なスーパーコンピュータで機械学習アプリケーションを実行している。しかしクラウドの普及がこうした状況を変えつつある。企業はIaaSプロバイダーがAIと機械学習アプリケーション用に特別に設計したテクノロジーに、必要に応じてアクセスできるようになった。
GoogleのCloud TPUは、同社が他に提供する機械学習サービスと合わせて、同社の壮大な構想に大きな役割を果たし、クラウド市場で有力な地位を築く手助けになっている。
「Googleは、今後も自社を人工知能と機械学習ベンダーとして見据えている」(フロイント氏)
TensorFlowとGoogle Cloud TPUの制限事項
GoogleはオープンソースのTensorFlowフレームワークを念頭に置いてTPUチップを設計した。このチップは同社の社内で用いられていたもので、今は「Google Cloud Platform」のサービスとして利用できる。機械学習を後押しする業界は、自動車から製造まで多岐にわたる。そのため今後はTensorFlowを中心として、目的に特化したアプリケーションが大量に開発されると予想される。
しかしこうしたテクノロジーを扱う開発者やITチームは、幾つかの課題に直面する。例えばGoogle Cloud TPUとTensorFlowが利用できる開発、監視、管理のツールの数はまだそれほど多くない。場合によっては、機械学習アプリケーションを既存のシステムに統合する必要が生じることがある。こうしたツールセットの成熟度が足りないと、かなりの労力が必要になる。
コストが問題になる企業もある。GoogleはCloud TPUの料金を、米国で利用する場合1TPUにつき1時間あたり当たり6.5ドルに設定している。これはTPUを接続する必要のあるCompute EngineのVMのコストとしては最も高額だ。同社は、1TPUにつき1時間あたり当たり1.95ドルとコストを抑えた「プリエンプティブTPU」も用意しているが、このTPUはコストの安さと引き換えに、Google側がリソースの需要に応じていつでも処理を終了できる。
これに対し、Googleが提供する最低価格のGPUモデル(NVIDIAの「Tesla K80」)は、米国で利用する場合のオンデマンド価格は最低価格1ダイにつき1時間あたり当たり0.49ドル、プリエンプティブオプションでは最低価格1ダイにつき1時間あたり当たり0.135ドルの料金設定になっている。TPUと同じく、ユーザーはGPUに接続するVMインスタンスごとに個別に課金される。
Googleはクラウド機械学習市場で大きく前進しているが、この市場に参加するのはGoogleだけではない。同社はAmazon Web ServicesやMicrosoftなどの大手パブリッククラウドベンダーだけでなく、IBMのような企業やこの新興市場をターゲットにする多数のスタートアップ企業を相手に激しい競争を繰り広げている。最終的に企業ユーザーの支持を受けるのがどのベンダーなのかは、これから先の動き次第だ。
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