RPAによるデジタルトランスフォーメーションの先に見える懸念:Computer Weekly製品ガイド
ロボティックプロセスオートメーションを利用してデジタルトランスフォーメーションを推進する企業が増えている。この市場の進展について解説する。
調査会社のForrester Researchは、ロボティックプロセスオートメーション(RPA)を「人とソフトウェアシステムとのやりとりを模倣できるソフトウェアエージェント(bot)を配置する技術」と定義している。
こうしたbotは予測可能な作業を実行し、人と連携して(アテンド型RPA)、あるいはほぼ自律的に(非アテンド型RPA)行動する。例えば非構造化データを読み込むなど、人工知能(AI)ベースの能力が加わったRPAも増えている。
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システムインテグレーション
RPAは異なるシステムを比較的簡単に連携させる手段を提供する。基盤となるITシステムが直接接続されていなくても、ビジネスプロセスが少なくとも表面上は完全につながっているように見せるため、RPAが導入されることもある。完全なEAI(エンタープライズアプリケーションインテグレーション)ほど緊密な連携はできないものの、Computer Economicsなどが実施した調査では、RPAへの投資は効果があり、従来型のEAIよりずっと早く費用対効果が期待できると報告されている。
市場の成長
調査会社Gartnerの6月の報告によると、2018年のRPAソフトウェア市場は63.1%成長して8億4600万ドル(約905億円)規模となり、グローバルエンタープライズソフトウェア市場で最も急成長した。2019年のRPAソフトウェアの売り上げは13億ドル(約1390億円)に達するとGartnerは予想する。
Forresterのアナリスト、JP・ガウドナー氏は「Forrester tech tide: AI, automation and robotics for customers and employees, Q2 2019」(顧客と従業員のためのAI、自動化、ロボティクス、2019年第2四半期)の報告書の中で、「RPAに投資し損なった企業は自動化のチャンスを逃している。反復的作業を自動化すれば、従業員の生産性を高められる」と指摘した。
一方で同氏は、業界には誇大宣伝も多いと考えている。「技術が次から次へとこの市場に投入されており、この熱狂の中に飛び込みたい誘惑に駆られる。だが、自社の技術ポートフォリオ構築に当たっては慎重さが求められる。自社の具体的なビジネスニーズに応えられるソリューションや戦略に確実に投資しなければならない」とガウドナー氏は言う。
GartnerはRPAの大手としてAutomation Anywhere、Blue Prism、UiPathの3社を挙げる。同社のRPA市場評価で最も興味深いのは、エンタープライズIT大手のIBM、Microsoft、SAP、Oracleが欠落している点だ。こうしたメガサプライヤーは向こう数年のうちにRPA事業を買収するか、既存のビジネスプロセス管理ポートフォリオにRPAを取り入れるとGartnerは予測する。
IDCの調査ディレクター、ジョン・オーブライアン氏の最近のブログによると、Automation AnywhereとUiPathは積極的な顧客開拓プログラムと大規模なパートナーエコシステムの形成、無料版の提供、クラウドデリバリー、製品への無料アクセスに多額を注ぎ込み、プレゼンスの構築と拡大を図っている。
「Blue Prismは間違いなく不意を突かれた。特にUiPathは、9月に時価総額が30億ドル(約3209億円)から70億ドル(約7488億円)に急騰した。対照的に、Blue Prismの時価総額は11億6000万ドル(約1240億円)だった」とオーブライアン氏は指摘する。
Blue Prismは7月にThoughtonomyを8000万ポンド(約105億円)で買収した。これは同社が直近のライバル2社に対する競争力を保つ助けになり得るとIDCは見る。ThoughtonomyはSaaSベースのRPA製品を中堅・中小企業に提供している。
「全体的に見ると、この合併には期待が持てる。両ビジネスを組み合わせれば、双方にメリットがある大きなチャンスが新しく開けるはずだ。当然ながら買収した企業を統合するリスクはある。Blue PrismがUiPathの市場価値まで上り詰めるための山は大きい。だが顧客のための純粋なデリバリー能力に関する限り、この買収は間違いなく同社の飛躍につながる」
公共セクターのbot
RPAは公共セクターにも適しているようだ。2017年、英労働年金省(DWP)はRPAを使って年金申請の未処理分に対応するデモを行った。このプロセスは大部分を手作業で行っていて、未処理分は3万件を超えていた。
DWPの上級製品マネジャー、ショーン・ウィリアムソン氏は当時、これを処理するためには数千人を雇用して、数千時間をかける必要があると推計していた。
代わりにDWPのIntelligent Automation GarageはUiPathのbotを12台導入して週に2500件の申請を処理させた。これで未処理分はわずか2週間で全て解消した。
2019年7月にはチェルシー・アンド・ウェストミンスター病院が会計部門を自動化するため、Automation Anywhereのbotを本番環境に導入した。
同病院はRPAのためのセンター・オブ・エクセレンスを設置し、組織を横断する事業部門の担当者を招いて各事業分野にフォーカスしたワークショップに参加させた。
同病院の最高財務責任者、サンドラ・イーストン氏は、そうしたワークショップの成果を基に、自動化すべき作業分野を見極めていると話す。
「われわれはワークショップを運営してどのプロセスを自動化するかを見極め、開発パイプラインの優先順位を決める。会計ワークショップで38プロセスを特定した。今は2回目の会計ワークショップを行ったところで、さらに30プロセスを自動化ロードマップに追加する」
最初に開発した会計用botの一つは、会計チームが毎月末に行わなければならなかった残高照合の手作業に取り組んだ。
同病院は今後1年で40ほどのプロセスを自動化しようとしているが、計画は自分たちで立てるとイーストン氏は言い、「従業員には必要に応じて必要なときにbotを作成する自由があると感じてもらいたい」と話す。
RPAプロジェクトの開始時、従業員はbotのせいで自分たちが余剰人員になるのではないかと危惧していた。だが「RPAを理解すると目が覚める」とイーストン氏は言う。
「部下には経験豊富な人材がたくさんいる。だがそうした人材は、自動化できる作業に多くの時間を取られ、能力を十分に発揮できない。われわれは効率性を追求し、コストをできる限り抑える必要がある。自分たちのチームが事業の価値を高められるようにしたい」
イーストン氏はRPAの間接的なメリットとして、同病院の資金を解放して臨床サービスに投資することが可能になると指摘。「われわれは第一線の診療に投資でき、それが患者のエクスペリエンスを向上させる」と語った。
一方で、外来部門での活用や手術室のスケジュール調整といった形で、患者のエクスペリエンスの直接的な向上にRPAを導入するチャンスもあるとイーストン氏はみている。
手作業プロセスの削減
さまざまなITシステムを手早く連携させて手作業によるデータの再入力を削減することによって、RPAをビジネスプロセスの合理化に利用できる事例は豊富にある。
例えばCo-operative Bankは、Blue Prismを使ってダイレクトデビットの解約、口座の解約、CHAPS(Clearing House Automated Payment System:英国の銀行間システム)決済、対外支払い、監査報告、インターネット申請、カードや暗証番号の引き出しといった10プロセスを自動化した。
同銀行のビジネスシステムマネジャー、ジョアン・マスターズ氏によると、そうしたビジネスプロセスはかなりの手作業を必要としていたことから、自動化には相当の費用対効果があると判断した。
「われわれはFTE(フルタイム従業員)の解放目標を25%上回った。各プロセスが本番導入されるたびにスタッフを解放できた。このプロジェクトのおかげで相当数のFTEを手作業から解放し、顧客相手の職務に配置した」とマスターズ氏は説明している。
エンタープライズインテグレーションは解決できず
RPAは分断されたビジネスプロセスを結び付ける役割は果たせるものの、会社経営を支える分散したITシステムをモダナイズしようとしてCIO(最高情報責任者)が直面する根本的な問題に対応することはできない。
RPAを使って接続された連携の緩いシステムは、ビジネスプロセスがつながっているような印象を与えるが、根底にあるプロセスは未接続のままだ。それを修正するのは、自動化を使って隙間を埋めるよりもはるかに難しい。
Gartnerによると、事業部門はIT開発者に頼らなくても独自の自動化を開発できると考えるようになっている。「RPAツールの魅力は、手早く価値が引き出せように見える点にある。他の時間がかかる選択肢、例えば効果的なAPIの開発やレガシーアプリケーションの入れ替えといったオプションと比べた場合、特にそれが当てはまる」。GartnerはCIOにそう警告した。
だが、RPAを使ってシステム同士を簡単に接続できるこの手軽さは、適切なガバナンスがなければシャドーITの乱立を招き、解決するのと同じくらい多くの問題を引き起こしかねない。
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