医療機器メーカーが人工呼吸器の歩留まり改善のために使った“切り札”とは?:コロナ禍の人工呼吸器増産を支えた「データ品質管理」【後編】
Vyaire Medicalがコロナ禍で人工呼吸器の増産を決断するに当たって、データの信頼性は重要な課題だった。製造工程を正しく把握し、収集するデータの品質を維持するために同社はどのようなシステムを構築したか。
組織が意思決定を下すための「信頼できるデータ」を手に入れるためには、データの品質と健全性を保つことが不可欠だ。世界的な医療機器メーカーのVyaire Medicalにとってデータの品質向上は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の最中に人命を救うために重要な事柄だった。前編「人工呼吸器1日600台製造の医療機器メーカーが語る「信頼できないデータ」の害悪」に続いて後編となる本稿は、同社の経営を支えるデータの信頼性や品質を維持するための仕組みを解説する。
歩留まり改善の“切り札”はこれだ
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2020年前半にVyaire Medicalが人工呼吸器を増産するに当たって、改善する必要のあった重要業績評価指標(KPI)の一つが「歩留まり」だった。これは1回の生産工程で製造できる、欠陥のない製品の数を指す。
Vyaire Medicalでデータ品質管理の取り組みをリードしたCIO(最高情報責任者)のエド・リビツキ氏によると、同社の人工呼吸器の製造においては完成までに約21カ所の「製造ステーション」を通過しなければならない。各製造ステーションでは装置の品質と規制要件に関する検査がある。前工程での検査に合格しなければ次の工程に進めない。
リビツキ氏のチームはデータに基づく調査をし、最終的な歩留まりとして全工程に合格する製品は全体の約20%にとどまることが分かった。「その程度の合格率では増産などとても無理だった。技術チームと製造チームが弱点を特定するのにデータは実に役立った」とリビツキ氏は話す。
データに関する要件を満たすために、Vyaire MedicalはAmazon Web Services(AWS)のクラウドサービス群を中核としたシステムを構築した。データウェアハウス(DWH)として「Amazon Redshift」を使い、これに製造と事業に関するデータを送り込む。ビジネスインテリジェンス(BI)ツールとして「Amazon QuickSight」を使っている。
Vyaire Medicalは、データ品質管理を支えるシステムとして、データ統合ソフトウェアベンダーであるTalendの「Talend Data Fabric」を採用している。Talend Data Fabricは、さまざまなデータソースから流入するデータの精度を確保するためツールだ。Talend Data Fabricの導入は、Vyaire Medicalにおけるマスターデータ管理(MDM)の取り組みの一環であり、重複入力を検出してデータの集約を可能にしている。
「Talend Data Fabricのおかげで、データをクラウドサービスに移行する際にデータ連携がしやすくなった」とリビツキ氏は言う。「企業を運営する基本的な立場から見ると、データソースがあまりにも多く、総合的な視野を得るためにデータソースの統合が必要だった」と同氏は指摘。その面でTalend Data Fabricは「われわれにとって大きな力になっている」という。
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