有事に適応できる企業、できない企業の違い 「レジリエンス」を高める秘策は:混乱の時代を乗り切るためのサプライチェーン改善策【中編】
予測が困難な時代は「いかに状況に適応できるか」が重要な鍵を握る。サプライチェーンのレジリエンスを高め、不慮の事態が生じてもいち早くビジネスを立て直すための考え方について、IDCに聞いた。
前編「『1円でも安く』から『1秒でも早く』へ コロナ禍で変わるサプライチェーン」は、疫病や戦乱など世界的な混乱が続く状況で、サプライチェーン戦略の見直しが必要になる理由について紹介した。中編となる本稿は、企業が社会情勢の変化に適応するためにサプライチェーンを改善する手法について、調査会社IDCのアナリストであるサイモン・エリス氏に聞いた。
有事に適応できた企業と、適応できなかった企業を分けたものは
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―― 企業がサプライチェーンの可視性とレジリエンス(回復力)を高めるには、どうすればいいでしょうか。
エリス氏 レジリエンスは複数の要素で構成されている。企業は、問題が起きたときに何が起きているのかを把握し、具体的な対策に落とし込む分析力と対策を進める実行力を備えなければならない。私は2020年の初めに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)について複数企業の関係者と話をした。だが彼らは取引先との長期契約に縛られて何もできず、次々と起こる悲劇をただ眺めているしかなかった。企業にとってサプライチェーンの可視性は間違いなく重要だが、それだけでは非常事態に対処できない。問題が起き始めていることが分かったら、素早く行動を起こし、その問題を軽減したり、代替策を見つけたりできるアジリティ(俊敏性)が必要だ。とはいえアジリティはお金をかけずに獲得できない。歴史的に見ると、在庫が十分で供給に問題がなく需要を予測できた時代に、企業が問題の軽減やアジリティ獲得に向けて積極的な投資をしなかった理由は、そうした対策にコストをかけたくなかったからだ。
―― サプライチェーンの混乱を軽減するのに、予測分析は役立つでしょうか。
エリス氏 予測できない出来事が起きて不意を突かれる可能性はなくならない。だからこそ、レジリエンスの高いサプライチェーンを構築することは有益だ。
例として、スエズ運河が(2021年3月に起きたコンテナ船「Ever Given」の座礁事故によって)通行不能になった状況を考察してみよう。A社は、衝撃的な事故から数時間後に「そのコンテナ船は何を積んでいるのか」「その後ろで待機を余儀なくされたコンテナ船はどれか」「1週間後の予定はどうなっているのか」を把握できた。そのおかげでA社は代替案を数時間以内に作成し、自社のコンテナ船のルートを変更できた。一方でB社は1週間たってもまだ事態を把握できなかった。
A社は直ちに事故の影響を把握し、その影響を軽減するために実行可能な対策を特定できたが、B社は状況をただ受け入れるしかなかった。つまり予測できない事態が常に起こり得る以上、事前予測よりも起きたことにどのように対処すべきかが重要だ。
後編は、有事に対処するサプライチェーン戦略の一手として、「リショアリング」(拠点を国外から国内に戻すこと)の是非をIDCに聞く。
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