DXが進む保険会社の「生まれ変わった基幹システム」は何がすごいのか: クラウド投資に動く保険会社【第1回】
シンガポールの保険会社Great Easternは、DXに取り組みステークホルダーの利益向上を目指す。同社が多大な労力を費やして刷新したシステムと、それにより実現した効果とは。
シンガポールの生命損害保険会社Great Eastern Holdings(以下、Great Eastern)にとって、デジタルトランスフォーメーション(DX)は単に紙ベースの業務や人の介在が必要なアナログ業務をデジタルに置き換えることではない。「最終的に契約者や代理店といったステークホルダーの利益につながらなければ、DXに取り組む意味はない」というのが同社の考えだ。
この考えを追求するGreat Easternは、多大な労力を費やしてシステムの刷新やアプリケーションの開発を実施した。どのようなシステムを導入し、何を実現したのか。
DXで生まれた新基幹システムのすごさ
Great EasternでITグループのマネージングディレクターを務めるゲイリー・テー氏は次のように話す。「もし社内のとあるチームが何十種類にも上る保険申し込み手続きの全てをオンラインフォームに変えたいと主張しても、私はそれを顧客の利益につながらない、つまり意味のないデジタル化だとして断る」
2018年に、Great Easternは保険契約手続きをオンライン化するためのデジタルツールを代理店に提供した。これが同社のDXの始まりだった。この取り組みにより、同社の代理店は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響によるロックダウン(都市封鎖)の間も、リモートで顧客との取引を継続することができた。
Great Easternは保険契約者向けに、契約や保険料の支払いなどができるモバイルアプリケーションを開発している。テー氏はこのモバイルアプリケーションについて、「ユーザーエクスペリエンス(UX)が優れたものになるよう、多大な努力を費やして構築した」と語る。
具体的には、IBMのOS「IBM i」(旧称:AS/400)の搭載サーバで稼働していた損害保険の基幹システムを刷新した。新システムに取り入れたのは、以下の要素だ。
- クラウドインフラで利用することを前提にシステムを開発する「クラウドネイティブ」のアプローチを採用
- API(アプリケーションプログラミングインタフェース)に適応
これにより、顧客接点となるフロントエンドサービスをバックエンド(サービスを支える、顧客の目には見えないシステム)からサポートできるようにした。
Great Easternは同時に、生命保険の基幹システムをマイクロサービスアーキテクチャ(小規模のサービス群でシステムを構築する設計)で刷新した。これにより、生命保険システムとフロントエンドサービス間の連携が容易になり、特にアクチュアリー(保険数理士)による新しい保険商品のモデリング(保険リスクの評価計算)の業務が効率化した。「Great Easternは、アクチュアリーが開発ツールを用いて新しい保険商品をモデリングし、バックエンドにワンクリックで自動反映できる保険会社だ」(テー氏)
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