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空冷式でも水冷式でもない「水中データセンター」への期待と現実次世代データセンターの究極の形【後編】

小型のデータセンターを海底に沈める「水中データセンター」は、持続可能なデータセンターの一つの形態として期待を集めているが、その普及には幾つかの課題が待ち受けている。6つの視点で考える。

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 一般的なデータセンターに比べて小型のデータセンターを海底を運用する「水中データセンター」に関するプロジェクトが世界各地で進められている。水中データセンターがデータセンターの方式として将来的に一般的になるのかどうかは、陸上のデータセンターに比べた場合のデメリットをいかに乗り越えられるのかに懸かってる。6つの視点で、水中データセンターが普及する上で直面する課題を考える。

「水中データセンター」が乗り越えるべき6つの課題

1.設置、回収時のアクセス性

 特に深海や荒れやすい海域では、海底へのアクセスが困難になることがある。水中のデータセンターが荒海に耐え得るとしても、それを設置するための船は必ずしもそうではない。

2.動力源

 風力といった環境に優しい電力源が常に利用できるわけではない。沖合の風力発電は風の弱い日には機能せず、波力発電も大きな波が必要になる。

3.物理的なセキュリティ

 水中データセンターに物理的にアクセスするには特殊な潜水技術や機材が必要だ。犯罪者や不法侵入者から保護できる利点はあるが、不正なアクセスを完全に防げるわけではない。犯罪者グループに資金力があれば水中データセンターへの物理的なアクセスが可能であり、従来の方法で守られていないことから攻撃はよりしやすくなる可能性がある。

4.スケーラビリティ

 複数の水中データセンターをネットワークで接続したとしても、陸上のデータセンターの規模を再現することは難しい。設置できるハードウェアの数や種類、電源の確保など、陸上とは異なる制限があるためだ。

5.海底の位置と管轄権

 データセンターの立地を決定する際、海底の安定性と水域がどの国の管轄下にあるかは重要な要因となる。選ぶ場所によっては、設置に必要な許可や認可が問題になる。

6.容器構造の耐久性

 水中データセンターには、大きさの制約がある。Microsoftが実験で使用した容器は、長さ40フィート(12.2メートル)、直径9フィート(2.8メートル)だった。Subsea Cloudの容器は約20フィート(6メートル)の長さだ。専門家は、ハードウェアを保護しながらも、より構造物を大規模にできる方法を模索している。

水中データセンターは環境的に持続可能か

 水中データセンターが自然環境に与える影響に関しては、意見が分かれている。一部の専門家は水中データセンターを持続可能だと考えるが、そうでないと考える専門家もいる。

賛成派:水中データセンターは持続可能

 潮力発電機や洋上風力タービンを使用して、水中データセンターに環境に優しい電力を供給できる。潮力発電は100%再生可能であり、炭素排出量の削減に貢献する。既存の海底ケーブルを利用して電力を供給すれば、新たに海底ケーブルを引く必要はない。

 このような水中データセンターは、人間の介入なしで運用できるデータセンター「ライツアウトデータセンター」(ライツアウトは消灯の意味)として設計されている。データセンターは製品寿命が尽きるまで追加の手間を要することなく稼働し続ける。使用済みの構造体や内部のハードウェアは、リサイクルができる。構造物は海洋生物のための人工礁としても機能する。

 水中データセンターは、インフラと設計の転換点だ。水中特有の利点を活用できるため、陸上の施設に代わる有望な選択肢となる。水中データセンターは、データセンターの設計や展開、運用方法を根本から変える可能性を秘めている。

反対派:水中データセンターは持続可能ではない

 水中データセンターは人工物を海に設置するため、大気中のガスが海中に放出され、海洋環境に重大な変化をもたらす可能性がある。容器からガスや非導電性のオイルが漏れると、海洋生物に有害な影響を与える恐れがある。海中には本来存在しない材料で構成された機器が使用されているため、これが水中生物に悪影響を及ぼす可能性もある。

 気候変動による海洋熱波が原因で、海水温が大きく変動している。水温の上昇は、水を使った冷却システムの効果を低下させ、結果としてサーバのオーバーヒートや性能低下を招く可能性がある。性能が低下すると、データセンターを頻繁にメンテナンスする必要が生じ、コストが増加し、地域の海洋環境に与える負荷が大きくなる。

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