「在庫ロス」「売れ残り」に悩むスーパーが“SAPのクラウド化”を選んだ理由:英国Co-opが進めるERPのクラウド化【前編】
鮮度が命の食品小売業において、在庫管理は経営を大きく左右する。英国の小売大手Co-opは、SAPの基幹システムをクラウド化することでその課題を解決しようとしている。システム刷新に至った背景は。
英国の消費者協同組合Co-operative Group(以下、Co-op)はビジネス改革を進めている。同組織がこれまで利用してきたのは、データベースとしてインメモリデータベース「SAP HANA」を採用した、SAPの小売業向けERP(統合基幹業務)システムだ。このERPシステムは、全店舗で在庫の可視性と予測を改善することを目的としている。
2024年6月、Co-opはERPシステムのクラウドサービス移行を支援するサービス群「RISE with SAP」を活用して、現行のERPシステムをクラウドサービスに移行したことを発表した。これはクラウドサービスのERPシステム「SAP S/4HANA Cloud」に移行するための足掛かりとなる取り組みだ。同組織がERPシステムのクラウド化に踏み切った背景とは何か。
“理想の在庫管理”を実現できるERPの要件は?
Co-opはコンビニエンスストアを主力として、大型店舗を含む複数の店舗を運営している。店舗は主に住宅街にあり、生鮮食品やチルド食品の販売を手掛ける。「消費者が求める商品を、適切なタイミングで提供することがとにかく重要だ。その際に、SAP製品は重要な役割を果たす」。Co-opのディレクターで、SAPおよび関連ベンダーの製品を担当するイアン・コックス氏はそう説明する。
天候や欧州サッカー連盟(UEFA)主催の欧州選手権(EURO)など、購買動向を左右する要因はさまざまだ。例えば天気が良く、EUROでイングランドチームが好調だと、Co-opの店舗の営業が好調になる。人々が外に出て、バーベキュー用の食材を購入するからだ。Co-opはそうした要因を考慮しながら、商品の流通に関する判断を下している。「われわれにとって重要なのは、商品を素早く手に入れ、素早く店頭に並べることだ」とコックス氏は語る。
以前のCo-opは、クラウドサービス群「Microsoft Azure」のプライベートクラウドでERPシステムを運用していた。だがサプライチェーンの問題や燃料価格の高騰、ドライバー不足などの外部要因を受けて、ERPシステムをパブリッククラウドに移行し、ビジネスの課題を解決するための武器として活用できるものに刷新する方針を固めた。
コックス氏は「基幹システムの構成がビジネスを阻害していた」と述べる。同氏によると、Co-opは受注管理や取引のために、特注のレガシーシステムを複数保有していた。業績を見ると、SAPのERPシステムが期待通りの働きをしていないのは一目瞭然だったという。その後Co-opは、SAPのERPシステムをビジネスに活用するために再投資することを決定した。「SAPとのつながりを保つことが自分たちの利益になる」というのがCo-opのCEOの判断だ。
Co-opはRISE with SAPを導入するメリットについてSAPと話し合った。Co-opは商品の供給を管理するためのサービス「SAP Forecasting and Replenishment」(SAP F&R)を活用している。コックス氏はSAP F&Rを「日々の商品補充を支えるコアエンジン」と表現する。毎晩のバッチ処理によって閉店と同時に売上データを収集した後、全店舗のデータを処理し、店舗と倉庫の在庫状況に関するデータを出力するといった一連の処理において、SAP F&Rが役立っているという。「生鮮食品を扱うビジネスということもあり、SAP F&Rは廃棄ロスの削減に役立っている」とコックス氏は述べる。予測を活用し、店舗ごとに各商品の補充量を決定できるからだ。
需要予測の改善は、重要な技術投資の一つだ。既存システムを変革して将来に備え、グローバルサプライチェーンの混乱や消費者心理の変化にも対処できるようにした。
次回は、Co-opが滞りなくERPシステムを移行できた理由を探る。
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