300人超のデータサイエンティストが活用 大手銀行がGoogle Cloudを選んだ理由:開発速度と費用削減を両立
英国のLloyds Banking GroupはAI技術活用のためのシステムを「Google Cloud」に移行し、全社的な活用を加速させている。同行が考える、全社的なAI技術活用の「成功の鍵」とは。
英国の大手金融機関Lloyds Banking Groupは、クラウドサービス群「Google Cloud」を利用して、AI(人工知能)技術を活用するためのシステム開発・運用基盤を構築するとともに、それを用いたAIツールのデプロイ(展開)と拡張を進めている。これによってAIツールの開発を加速させると同時に、二酸化炭素(CO2)排出量を削減した。同行が構築した新システムの詳細と、その効果を引き出すための戦略を紹介する。
300人が利用する新システムの詳細
Lloyds Banking GroupはGoogle CloudのAIモデル開発ツール「Vertex AI」を活用して、機械学習(ML)モデルと生成AIツールの開発システムを構築した。このシステムは、300人を超えるデータサイエンティストが利用することになっている。生成AIは、画像やテキストを自動生成するAI技術を指す。
Google Cloudへの移行に当たって、Lloyds Banking Groupはオンプレミスシステムから15件のモデリングシステムを移した。これには数百件のAIモデルが含まれており、それらのAIモデルを稼働させるために必要な電力量もかなりのものになる。従来のオンプレミスシステムで運用するよりも電力効率に優れるGoogle Cloudに移行によって、サーバの稼働に伴うCO2排出量を27トン削減できたとLloyds Banking Groupは説明する。
Lloyds Banking Groupのデータおよび分析の担当役員であるラニル・ボテジュ氏は、Vertex AIの導入が大きな変革をもたらしたと考える。この導入によって同行は、AI技術を活用した新しいサービスを安定的に、かつ需要に応じて素早く大規模に拡張できるようになった。こうした変化は、同行の技術革新を加速させるための土台となっている。具体的には、データサイエンティストやAIモデル開発者は、一貫したセキュリティガイドラインの下で生成AIツールを利用できるようになった他、さまざまなLLM(大規模言語モデル)を使えるようにもなった。これはGoogleの「Gemini」だけではなく、サードパーティー製LLMやオープンソースのLLMも対象だ。
Vertex AIの導入後、Lloyds Banking Groupは80件以上の新たなAI技術活用プロジェクトに着手し、事業全体で18件を超える生成AIツールを本番稼働させた。2025年4月時点では、同年6月までに新たに12件の生成AIツールを稼働開始させることも計画していた。
今回構築したシステムを用いて、Lloyds Banking Groupは顧客と同行の対話方法に焦点を当てた「Agentic AI」システムの開発に取り組む。新しいシステムのプロトタイプは、2025年中に公開される見込みだ。
世界中で加速するAI活用
企業のAI技術導入は急速に進んでいる。開発部門やIT部門だけではなく、事業部門もAI技術が業務改善にどう貢献するのかを理解する必要がある。
英国の中央銀行Bank of Englandと、金融監督機関である金融行動監視機構(FCA:Financial Conduct Authority)は、英国内の金融サービス業者によるAI技術の利用動向を調査している。両組織は2024年、金融、保険分野に属する企業118社を対象に、AI技術の活用状況について調査を実施した。その結果によると、調査対象企業のうち75%がすでに何らかの形でAI技術を業務に導入していた。対象企業の41%が社内プロセスの最適化に、26%が顧客サポートの強化にAI技術を活用していることも分かった。
Lloyds Banking GroupでデータとAIカルチャー部門の責任者を務めるジョシュ・カニンガム氏は、企業のAIリテラシー(AI技術を正しく理解して活用する能力)について、次のように語る。「AIリテラシーは、エンジニアだけではなく全従業員にとって不可欠だ。昨今の複雑なデジタル時代を乗り切る上で、AI技術を深く理解することは、イノベーションの推進や顧客体験の向上、競争優位性の維持に欠かせない」
カニンガム氏は、AI技術が「データサイエンティストや技術愛好家向けの専門分野」だという誤解を指摘する。その上で、AI技術の影響は技術部門の枠を超え、顧客サービスからマーケティング、金融に至るまで、あらゆる領域ですでに革命を起こしていると主張する。AI技術は「業務効率を高め、意思決定を促進し、新たな機会を創出する万能ツール」だというのが同氏の見解だ。
活用の具体例としてカニンガム氏はまず顧客サービスを挙げ、「AI技術が対話を分析し、サービス提供を改善するための知見をもたらすことができる」と説明する。マーケティング分野では、顧客の嗜好を理解して効果的なキャンペーンを設計するのに役立ち、金融分野では不正な取引の検出やリスク管理を支援する。
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