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「エッジAI」を成功させるには? Dell、AWS、HPE、主要製品で探る実践のこつエッジ×クラウド時代の新たな選択肢【後編】

生成AIの活用などの新たな動向を背景に、注目を集めるエッジコンピューティング。主要ベンダーの製品やサービスの特徴、活用事例、自社に適した導入のための検討ポイントなどを紹介します。

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 生成AI利用などの新たな動きが見られる中、データが生成される現場「エッジ」と、そこでコンピューティング処理を実施する「エッジコンピューティング」の重要性が増しています。

 エッジコンピューティングが注目される理由や、エッジコンピューティングの主要な利用形態、ユースケースを前編「生成AI普及の今、なぜ『エッジ』が注目なのか? 3つの活用パターンから考える」で紹介しました。ではエッジコンピューティングを導入する際の選択肢には、どのような製品やサービスがあるのでしょうか。ハードウェアベンダーが提供する製品や、クラウドベンダーのサービスなど、主要な選択肢とその特徴、選定に当たって着目すべきポイントなどを解説します。

エッジコンピューティングの主要製品、最適な選び方は?

 エッジコンピューティング市場では、多様な企業のニーズに応えるべく、さまざまな製品やサービスが登場しています。ここでは、代表的な製品群を取り上げ、それぞれの特徴や強み、そしてどのようなユースケースに適用できるのかをご紹介します。

Dell Technologiesの「Dell NativeEdge」

 Dell Technologiesの「Dell NativeEdge」は、エッジ環境の展開、管理、オーケストレーションを自動化するソフトウェア群です。多数の拠点に分散したエッジデバイスを効率的に管理し、ゼロタッチプロビジョニングによる導入の簡素化や、運用負荷の軽減を実現します。

 特に、多くの支店や店舗、工場を持つ企業が、エッジデバイスの導入、運用を標準化および自動化したい場合に適しています。例えば、医療機関において、ナースステーション脇のような物理的な制約がある場所にエッジ環境を構築し、電子カルテシステムへのアクセス応答時間を短縮することで、医療従事者の業務効率向上に貢献するといった活用の可能性が考えられます。

Microsoftの「Azure Stack Edge」「Azure IoT Edge」

 Microsoftの「Azure Stack Edge」は、クラウドサービス群「Microsoft Azure」のコンピューティングやストレージ、機械学習などのAI機能などを物理デバイスとしてエッジに提供します。一方、「Azure IoT Edge」は、クラウド上で開発した機械学習モデルやデータ分析ロジックをエッジデバイス上で実行するためのソフトウェアです。

 Azure Stack EdgeとAzure IoT Edgeは、Microsoft Azureの各種サービスと強力に連携できることが特長であり、クラウドで培った技術や管理ノウハウをそのままエッジに拡張したい企業に適しています。

 小売業のWalmartは、Microsoft Azureを活用して店舗内のエッジ環境でリアルタイムのデータ分析を実施し、在庫最適化や顧客動線分析を通じて運用効率向上に取り組んでいます。工場での画像認識による不良品検出や、エネルギー施設でのセンサーデータ分析による予知保全など、クラウド連携が重要なエッジAIやデータ処理のユースケースで広く採用されています。

AWSの「AWS Snowball」「AWS Wavelength」

 Amazon Web Services(AWS)の「AWS Snowball」は、コンピューティングとストレージ機能を備えた堅牢(けんろう)な物理デバイスです。ネットワーク接続が不安定な場所や、大容量データをデータセンターに転送するのに時間やコストがかかる環境での利用に適しています。具体的には、建設現場や船舶など、遠隔地でのデータ収集や、限定的なオフライン環境でのデータ処理やデータ分析に活用されています。

 一方、「AWS Wavelength」は、AWSのサービスを通信事業者の5Gネットワークのエッジに組み込むことで、モバイルユーザーに極めて近い場所でアプリケーションを実行し、超低遅延を実現します。自動運転におけるリアルタイム制御や、遠隔からのロボット操作など、ミリ秒単位の応答速度が求められるユースケースに最適です。通信事業者のVerizon Communicationsは、AWS Wavelengthを活用し、5Gネットワークを介してゴルフ体験サービスを提供しています。

HPEの「HPE Edgeline」

 Hewlett Packard Enterprise(HPE)の「HPE Edgeline」は、データセンターから離れた工場や屋外、インフラ施設など、温度、湿度、振動といった環境条件が厳しい場所での設置を想定したエッジコンピューティングシステムです。そのコンピューティング能力は、産業オートメーション、製造現場でのリアルタイム制御や監視、交通インフラの監視、石油・ガス掘削現場でのデータ処理など、過酷な環境下で高度なエッジ処理を実行する必要がある場合に強みを発揮します。

Lenovoの「ThinkEdge SE」

 Lenovoの「ThinkEdge SE」シリーズは、設置スペースに制約がある場所や、AI技術を活用した画像認識や分析を現場で実施した場合に適した、コンパクトで堅牢性の高いサーバです。小売店舗におけるAIカメラによる顧客行動分析や、スマートシティーでの映像監視システム、スマートファクトリーでの品質検査におけるAI推論など、さまざまなエッジAIアプリケーションの実行基盤としての活用が考えられます。

自社に最適なエッジ環境を選定するための検討ステップ

 エッジコンピューティングの導入を成功させるためには、自社の具体的なニーズに基づいた慎重な選定が必要です。以下のステップを参考に検討を進めましょう。

  • 目的と課題の明確化
    • どのようなビジネス課題を解決したいのか、具体的な目的を明確にする。
  • 処理要件の定義
    • どのようなデータに対して、どの程度の頻度で、どれくらいのリアルタイム性(レイテンシ)で処理を行う必要があるかを定義する。
  • 設置環境の評価
    • エッジデバイスを設置する場所の物理的な環境(温度、湿度、振動、設置スペース、電源、ネットワーク接続性)を確認する。
  • 既存インフラとの連携
    • 現在利用しているクラウドサービスやオンプレミス環境との連携方法、データの連携頻度やフォーマットを検討する。
  • 運用管理体制と必要な機能
    • 分散したエッジ環境をどのように管理・運用するか検討し、必要な管理機能を洗い出す。
  • セキュリティポリシーへの適合
    • 自社のセキュリティポリシーを満たすための要件(認証、暗号化、アクセス制御など)を確認し、製品が対応しているかどうかを確認する。
  • ベンダーと製品の比較検討
    • 機能、性能、価格、堅牢性、管理性、サポート体制などを総合的に評価する。

エッジの特性を生かして柔軟なデータ活用を

 エッジコンピューティングは、単なる技術トレンドではなく、ビジネス現場での課題解決や新たな価値創造に不可欠な要素となりつつあります。IT製品選定担当者やシステム運用担当者にとって、エッジコンピューティングを正しく理解し、自社のビジネス戦略とIT戦略に基づいた最適な導入計画を立てることが、企業の競争力強化につながる重要な一歩となるでしょう。

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