「女子の“IT離れ”」が再燃? なぜ魅力的じゃないのか:IT教育とIT人材の現状(1/2 ページ)
英国のGCSEコンピュータサイエンスで女子受験者が初の減少。成績は向上するも、業界が求める人材確保に暗雲が立ち込める。
IT分野における女性比率を高めようと、教育段階から女子の参加を増やす取り組みが続けられてきた。しかし、その努力に逆行する事態が起きている。英国では、2025年の義務教育後の卒業認定試験「GCSE」(General Certificate of Secondary Education)のコンピュータサイエンスで、女子受験者数が初めて減少したのだ。依然として男女格差が大きい分野で、女子が減ったことは無視できない問題だ。IT分野の教育に何が起きているのか。
STEM分野の文化的課題が浮き彫りに
2025年のGCSEコンピュータサイエンスを受験した女子は2万708人で、2024年から312人減少した。2022年に1万7264人、2023年に1万9061人、2024年に2万1020人と増加を続けてきただけに、この減少は流れの転換点となる。
英国コンピュータ協会(BCS:British Computer Society)の調査では、英国のIT業界に占める女性比率は20%にとどまる。教育から就業まで一貫して女性を増やす努力が続けられてきたが、今回の結果はその流れに逆行するものとなった。
ヘザー・スミス氏は、アイデンティティー(ID)管理サービスを提供するOktaの、英国およびアイルランド担当バイスプレジデントだ。スミス氏は、問題の核心は女子の能力不足ではなく、STEM(科学、技術、工学、数学)分野の文化にあると指摘する。
「女子生徒に才能の不足はない。必要なのはSTEMを取り巻く文化を変えることだ。女子生徒が安心して参加し、歓迎されていると感じられる環境をつくらなければならない」とスミス氏は述べる。
さらに同氏は、業界が取り組むべき方向性を示す。「STEMのキャリアパスを分かりやすく示し、社会にどう役立つかを伝えることが重要だ。教室でも職場でも無意識の偏見と向き合う必要がある。女子生徒がSTEMを『自分がリーダーシップを発揮し、変化を生み出せる場』と捉えられるようになれば、数は自然と付いてくるだろう」
多面的な要因が複合的に作用
IT業界で女性が少ないのは、単純な理由ではなく複数の要因が重なっている。主な要因は次の通りだ。
- コンピュータサイエンスで学ぶ内容や将来の役立ち方が分かりにくい
- 多様な進路を示す身近で具体的なロールモデルが少ない
- 入職後のキャリア形成や昇進の機会が限られている
これらが相互に影響し合い、女子生徒がコンピュータサイエンスを選びにくくなっている可能性がある。
全体的な受験者減少も深刻な問題
女子だけでなく男子の受験者も減少した。男子は約4000人減り、受験者総数は2024年の9万5841人から2025年は9万1619人に縮小した。一方で、受験者が減ったにもかかわらず成績は向上している。全体の29.6%が7以上、69.3%が4以上を取得し、いずれも前年より高くなった。
特に女子の成績は男子を上回っており、優秀層は女子35.7%、男子27.8%、4以上は女子75.3%、男子67.5%だった。これは意欲の高い生徒が残った結果とも考えられるが、全体の母数が減っていることへの懸念は残る。
GCE Aレベルでは異なる傾向
大学入学資格「Advanced Level General Certification of Education」(GCE A Level)では、GCSEとは異なる結果が出ている。コンピュータサイエンスの受験者数は前年比で2.8%減少したが、女子は増加し、減ったのは男子だった。
このことは、より高度な教育段階では女子の関心が維持されていることを示している。GCSEからGCE Aレベルに進む過程で、女子の学習意欲を後押しする何らかの要因が働いている可能性がある。
学校教育と業界現実の乖離
ITサービスプロバイダーNode4の最高執行責任者(COO)イアン・トーマス氏は、受験者減少の背景には複数の理由があると指摘する。子どもたちがIT分野でのキャリアを十分に魅力的だと感じていないことや、新型コロナウイルスの影響で人文系科目への関心が高まっていることなどだ。
トーマス氏は現状に強い驚きを示す。「GCSEでコンピュータサイエンスを学ぶ生徒が今年4.4%減ったのは残念であり、驚きだ。今の生徒はコンピュータとともに育ち、日常的にITを使い、家庭ではITの相談役になることも多い」
さらに氏は根本的な課題を指摘する。「彼らはITに自然に親しみ、深い理解を持っている。学習や就業に理想的な人材だ。しかし今回の結果は、学校で教えている内容と実際のIT業界の進展との間に大きなギャップがあることを示している」
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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