“3年契約でAWS割引”実は無駄に? 調査が明かすクラウドコストの真実:「オーバーコミットメント」をいかに避けるかが重要に
Amazon Web Services(AWS)のコンピューティングサービスの利用パターンに関する調査からは、割引プランの適切な利用など、クラウドサービスにおけるコスト管理の難しさが浮き彫りになった。その実態とは。
クラウドコンピューティングの急速な進化に伴い、組織はシステムを活用したイノベーションとコスト削減の間でバランスを取ろうと努めている。こうした中で重要になるのがコスト管理だ。
FinOps(クラウドコスト管理)ツールベンダーのProsperOpsが実施した調査報告書からは、組織がクラウドサービスコスト管理の課題にどう対処しているのかが浮き彫りになった。この調査は、Amazon Web Service(AWS)の同名クラウドサービス群のうち、主に計算・処理リソースを提供するコンピューティングサービスについて、約30億ドル分の利用状況およびコストに関するデータを調べた。
「クラウド割引」の微妙な実効性
ProsperOpsの調査報告書「2025 Rate Optimization Insights: AWS Compute」によると、AWSサービス支出(割引前の利用量ベース)の60%以上が、コンピューティングサービスによる支出だ。仮想マシン(VM)サービス「Amazon EC2」が、依然としてAWSコンピューティングサービス支出の約90%を占めている。この比率は2023年から2024年にかけて、ほとんど変わっていない。
業界団体であるFinOps Foundationは、従来型のITコスト管理から、クラウドサービスのコスト変動性を踏まえたコスト管理への切り替えを促している。その象徴的な指標が「Effective Savings Rate」(ESR:実効削減率)だ。
ESRは、オンデマンド課金(従量課金)の通常料金に対して、割引プランの適用によって実際に節約できた金額の割合を指す。利用リソースにおける割引適用の割合を示す「カバー率」や、契約した割引プランのうち実際に利用した割合を示す「利用率」といった、ESRを構成する個別指標よりも、コストの全体像を把握しやすい。
報告書によると、AWSコンピュートサービス全体におけるESRの中央値は、2023年の0%から2024年には15%に増え、FinOpsの成熟度の高まりをうかがわせた。ただし進展度は、クラウドサービスの利用規模によって異なる。ESRの実績値は、AWSコンピューティングサービスの利用量(利用料金ベース)に応じて3つのセグメントに分かれる傾向が見えた。
最小セグメントである、年間利用量が50万ドル未満の組織のESR中央値は、2024年では2023年と同じく0%であり、割引プランの恩恵がほぼ見られなかった。中間セグメントである、年間利用量50万〜1000万ドルの組織のESR中央値は、2023年の20%から2024年には23%にやや改善。最大セグメントである年間利用量1000万ドル以上の組織のESR中央値は、2024年には38%と、2023年の37%に比べて微増だった。
この偏りは、FinOps Foundationが啓発活動を通じて取り組んできた、中核的な課題の一つを浮き彫りにしている。クラウドサービスコスト管理ノウハウを民主化する、つまり誰もが利用できるようにするという課題だ。FinOps Foundationは、あらゆる組織が効果的なクラウドサービスコスト管理手法を導入できるようにする必要があると強調している。今回のデータは、クラウドサービスの利用規模の小さな組織が、依然として不利な状況にあることを見せつけた。
1年契約や3年契約のAWS「コミットメント型割引プラン」の実態
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クラウドサービスのコストをいかに抑えるか
AWSは、1年間または3年間の期間契約(コミットメント)型割引プランを提供している。EC2向けには「リザーブドインスタンス」(Reserved Instances)と「EC2 Instance Savings Plans」を用意する。リザーブドインスタンスはインスタンスタイプ(VMの種類)とOS、テナンシー(実行環境が専有か、共有かの区分)、リージョン(地域データセンター群)の選択肢に制限がある。EC2 Instance Savings Plansは、インスタンスファミリー(インスタンスタイプのグループ)とリージョンの選択肢のみに制限がある。EC2だけではなく、コンテナ実行環境サービス「AWS Fargate」やサーバレス実行環境サービス「AWS Lambda」にも適用できる「Compute Savings Plans」もある。EC2 Instance Savings PlansとCompute Savings Plansの総称を「Savings Plans」と呼ぶ。
報告書によると、リザーブドインスタンスまたはSavings Plansを利用する組織は64%に上っており(2023年の45%から増加)、割引プランの利用は広がっている。内訳を見ると、51%がSavings Plansのみを利用し、34%がリザーブドインスタンスとSavings Plansを併用し、15%がリザーブドインスタンスのみを利用していた。
組織はより長期的な契約を好む傾向があることも、報告書で明らかになった。報告書によると、調査対象全体の50%がCompute Savings Plansの3年契約版を利用していた。これは、組織がクラウドサービスを長期的に利用すると見込んでいる表れだ。FinOps Foundationが推進する「FinOps能力モデル」は、こうした傾向とも合致している。FinOpsに必要な具体的な能力領域(スキルやノウハウ)を体系化したFinOps能力モデルは、クラウドサービスコストを継続的に最適化するため、予測と計画に重きを置いている。
システムの構成や設計を変更せずにクラウドサービスコストを削減するために、FinOps担当者が実践できる手法は幾つかある。コミットメント型割引プランに加えて、大規模契約に基づいて料金を割り引くボリュームディスカウントや、一定額の利用を前提に長期的な割引を受けられるプラン、未利用リソースを安価に利用できるプランなどを活用可能だ。
コミットメント型割引プランの落とし穴
報告書の内容からは、クラウドサービスコスト管理をめぐる逆説的な状況が浮き彫りになった。コミットメント型割引プランの利用は広がっているものの、削減効果は必ずしも高まっていないのだ。クラウドサービス利用量が大規模(前述の最大セグメント)の組織は、コミットメント型割引プランのカバー率が中央値で約90%に達しているにもかかわらず、ESRをほとんど改善できていない。
組織の間では、コミットメント型割引プランの使い方そのものが課題になっている。報告書によると、特にカバー率を高めるほどオーバーコミットメント(契約した割引枠が実際の利用を上回り、未利用分が発生すること)のリスクがあり、ESRが頭打ちになる。クラウドサービスの利用状況が変化し続ける中では、コミットメント型割引プランの適用範囲や契約期間をいかに適切に選択できるかが重要になる。
進むべき道は「自動化」と「継続」
クラウドサービスの利用パターンの変化に迅速に追随し、手作業でできる範囲を超えてESRを最大化し、コミットメント型割引プランのリスクを最小限に抑える――。これを実現しようとする組織が取り得る手段として報告書が示唆するのが、自動化の採用だ。
クラウドサービスの利用量が小規模の組織では、クラウドサービスの利用単価を抑える「レート最適化」の取り組みを自動化することが、そのままコスト削減につながる。利用量が中規模の組織も自動化で、ESRを明確に改善できる可能性がある。利用量が大規模の組織は、段階的なコスト削減を積み上げることが欠かせない。クラウドサービスの利用料金が高額な組織ほど、わずかなESRの改善でも、無視できないほどのコスト削減につながる。
FinOps Foundationは、クラウドサービスコスト管理を継続的に進化させる必要性を、以前から強調してきた。今回の報告書もその主張を裏付けている。ESRの実践は全体的に進展しているものの、依然として初期段階にとどまっている。クラウドサービスコスト管理を広く普及させるというFinOps Foundationのミッションの重要性は、しばらく変わりそうにない。
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