大手銀行が1万人に「Copilot」導入 銀行業務のAIへの置き換えは進むのか?:効率化か、雇用の危機か
従業員1万人に「Microsoft 365 Copilot」を導入し、業務効率化を見込んでいる金融機関がある。効果が期待される一方、雇用への影響に対する懸念もある。人とAIの共存は可能なのか。
アイルランドの銀行Allied Irish Banks(AIB)は、従業員1万人が重要な業務に集中できるよう、銀行全体の業務ツールでAI(人工知能)アシスタント「Microsoft 365 Copilot」を活用する。同国は中央銀行や政府機関もAI技術の動向を注視しており、金融業界全体がAI技術による変革の渦中にある。AIBもその効果に期待を寄せる一方、雇用への影響を踏まえて労働組合との協議に入ったことを明らかにした。
AIBのAI活用“本気度”と懸念
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金融分野でのAI技術活用
AIBは、「Microsoft Outlook」「Microsoft Word」「Microsoft Excel」「Microsoft Teams」「Microsoft PowerPoint」といった、Microsoftの業務アプリケーションにMicrosoft 365 Copilotを組み込んで利用中だ。同行のAI専門組織「AI Centre of Excellence」(AI CoE)が、AIアプリケーション開発ツール「Copilot Studio」を活用して、従業員のニーズに応えるツールの開発にも取り組む。例としては、従業員が複雑なデータから迅速に知見を得て、意思決定プロセスを改善するツールが考えられる。
「Microsoft 365 Copilotや独自開発したAIアプリケーションが、定型作業にかかる時間を削減することで、従業員はより付加価値の高い業務に集中できるようになる」とAIBは展望する。
AIBのCTO(最高技術責任者)であるグラハム・フェイガン氏は、同行の全従業員にMicrosoft 365 Copilotを提供し、業務にAI技術を組み込むことによって、作業の効率化を図るとともに、顧客体験を向上させることに期待を寄せる。
「われわれは従業員との協業やテストを通じてAI技術の可能性を探ってきた。今後は全社に展開し、顧客と従業員の双方がAI技術の恩恵を受けられるようにする」とフェイガン氏は述べる。この取り組みの中でAI CoEは、AI技術が安全で、目的に沿っていることを確認し、変革を進めてきたという。
金融分野でのAI技術活用が加速する中、労働者は働き方の大きな変化に直面しており、従来の職務の大半は不要になるとの意見がある。
英国の銀行Bank of Englandと金融行為監督機構(FCA:Financial Conduct Authority)は、国内の金融サービス企業におけるAI技術の利用状況を継続的に調査している。118社を対象とした2024年調査「Artificial intelligence in UK financial services - 2024」では、75%の企業が既に何らかの形でAI技術を業務に利用しているという結果になった。
この調査によると、AI技術活用の初期段階でよくある利用例は、金融システムを不安定にするリスクが低いものだった。回答企業の41%が内部プロセスの最適化に、26%が顧客サポートの強化にAI技術を利用していると答えた。
AIベンダーOpenAIとペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の研究によれば、会計士、法律アシスタント、金融アナリスト、ジャーナリスト、翻訳者、広報担当者などの職務がAI技術の恩恵を受ける。金融機関Goldman Sachsは2023年3月に発表した統計において、全世界で3億人分の常勤雇用がAI技術による自動化の可能性にさらされると推定した。
こうした影響を踏まえてAIBは、AI技術の導入に当たり、アイルランドの金融分野の労働連合Financial Services Union(FSU)と協議していることを明らかにしている。
金融分野以外でも、英国政府は2万人の公務員を対象にAIツールの試用を実施した。その結果、AIツールを利用することで、1人当たり年間約2週間分の業務時間を節約できる可能性が示された。この試用では、Microsoft 365 Copilotなどの生成AIを活用したツールが、文書の起草、長文メールの要約、記録の更新、報告書の作成といった日常業務の支援に使われた。この検証の結果は、AI技術に関する国立研究所Alan Turing Instituteが、「AI技術は公共分野での業務の最大41%を最適化し、大幅に時間を削減する可能性がある」と報告した傾向と一致する。
AIBは期待される経済への恩恵についても言及し、Microsoftとアイルランドの大学Trinity College Dublinが発表したレポート「The AI Economy in Ireland 2025」を引用した。同レポートは、アイルランドにおけるAI技術の導入率が2024年の49%から2025年には91%へとほぼ倍増しており、2035年までに同国経済に2500億ユーロの価値をもたらすと予測している。
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