「Oracle AI Data Platform」登場も漂う“後発感” 顧客流出を防ぐ戦略とは?:AI開発競争でOracleはいかに戦うか
OracleはAIアプリケーション開発を効率化する「Oracle AI Data Platform」を始動させた。競合他社が類似サービスを提供する中、OCIやOracle Databaseの機能を集約した新サービスで、Oracleが目指すものとは。
Oracleは2025年10月14日(米国太平洋時間、以下同じ)、AI(人工知能)モデルやAIアプリケーションを安全に開発できるサービス群「Oracle AI Data Platform」の一般提供開始を発表した。これは同社が2025年10月13〜16日に開催した年次ユーザーカンファレンス「Oracle AI World2025」で明かしたものだ。
ついにデータベースとAI開発機能が融合も“周回遅れ”?
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OracleのAI戦略
Oracle AI Data Platformは、クラウドコンピューティングサービス「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)、AI技術によって管理作業を自動化するデータベース「Oracle Autonomous AI Database」、生成AIツール構築サービス「OCI Generative AI」の機能を1つの仕組みにまとめる。これによって、ユーザー企業はデータの管理からAIモデルやAIアプリケーションの開発、運用までを同じ枠組みで扱えるようになる。
加えて、Oracleはデータベース管理システム「Oracle Database 23ai」の後続バージョンとして、AI機能搭載のデータベース「Oracle AI Database 26ai」を公開した。同時に、データレイクとデータウェアハウスの長所を組み合わせた「Oracle Autonomous AI Lakehouse」も発表している。これらはいずれもOracle AI Data Platformの中核機能を担う製品だ。
Oracle AI Database 26aiは、意味の類似度で関連データを発見するベクトル検索機能を強化し、データベース管理、アプリケーション開発、分析作業を支援する。大規模なテーブル形式のオープンデータフォーマット「Apache Iceberg」、AIエージェントとデータソースのやりとりの標準規格「MCP」(Model Context Protocol)、の他、多様な大規模言語モデル(LLM)を扱うことが可能だ。
もう一方のOracle Autonomous AI Lakehouseは、Oracle Autonomous AI DatabaseとApache Icebergを組み合わせたデータ管理システムだ。Amazon Web Services(AWS)、Databricks、Snowflakeといった他ベンダーのデータカタログやシステムからデータを集約する「Autonomous AI Database Catalog」を備えている。
その他にも、企業が保有するデータ資産を一覧できるデータカタログとガバナンス(統制)機能、特定用途に合うAIエージェントを探して利用できる「Agent Hub」といった機能をOracle AI Data Platformは提供する。AIエージェントがデータソースや他のAIエージェントとデータをやりとりする方法を標準化する方式として、MCPと「Agent2Agent Protocol」を採用している。
Oracle AI Data Platformについて、調査会社BARC USのリサーチ担当バイスプレジデントであるケビン・ペトリー氏が評価しているのは、これまで分散していた機能をまとめ、ユーザー企業がAIモデルやAIアプリケーションを開発しやすくした点だ。同氏は特に、企業が利用中のOracle製品を土台として、AIエージェントを構築しやすくなった点を強調する。
ペトリー氏は「データ、AIモデル、AIエージェントの各段階で、データエンジニア、データサイエンティスト、開発者が同じ枠組みで協働できるようになった」と述べ、断片的な要素が集約されたことで、企業はサードパーティー製ツールを導入する必要性が薄くなるとみる。
Oracleはデータ管理や分析の製品群を幅広く提供しており、今回の発表に加えて、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール群「Oracle Fusion Data Intelligence」へのAIアシスタント搭載、クラウド型基幹業務ツール群「Oracle Fusion Cloud Applications」への分析機能の追加も発表した。
OracleがAI市場で目指すもの
Oracle AI Data Platformによって、Oracleは、AIエージェントを含むAIアプリケーションの構築、管理を集約したツール群を提供するベンダーの一社になった。2022年11月にOpenAIがAIチャットbot「ChatGPT」を発表して以降、ベンダー各社はAIアプリケーション開発機能の拡充を進めてきた。
最近では、AIエージェントに関する取り組みの重要性が増している。従来のAIチャットbotは人間の指示(プロンプト)が必要である一方、AIエージェントは状況に応じて判断し、特定のタスクを自律的に実行できる。
DatabricksとSnowflakeは、2025年夏にMCPの利用を含むAIエージェントの開発機能を発表した。MicrosoftやTeradataなどのベンダーも、AIエージェントの開発の強化を目的とした機能を公開している。
今回、OracleもOracle AI Data Platformの投入で同様の動きを見せた。同社によれば、Oracle AI Data Platformは以下の実現を目指すものだ。
- データレイクハウスとAI機能を集約することで、データから洞察を生み出すアプリケーションの開発を簡素化する
- データエンジニア、データサイエンティスト、開発者が同じ作業環境で協業できるようにし、AIアプリケーションの開発を加速させる
- ワークフローの自動実行やアラートの送信によって業務効率を高めるAIエージェントを構築する
- 企業がAIエージェントを開発するだけではなく、それを実運用に乗せるために必要な拡張性、性能、信頼性を保証する
Oracleは、汎用(はんよう)版のOracle AI Data Platformに加え、医療、金融、建設、消費財分野の企業向けに事前構築された機能を盛り込んだ、業界別バージョンのOracle AI Data Platformを提供する計画だ。Oracle Fusion Cloud ApplicationsやERP(統合基幹業務システム)「NetSuite」向けのバージョンも計画している。
TechTarget(Informa TechTargetとして事業展開)の調査ブランドOmdiaの一部であるEnterprise Strategy Group(ESG)で、シニアアナリストを務めるスティーブン・カタンザーノ氏は、Oracle AI Data Platformを評価する。特にAIエージェントを作成するための一連の機能を提供している点を評価しており、「これまで別々だった機能を1つにまとめ、AIエージェントのライフサイクル全体を扱いやすくする点が大きい」と述べる。
カタンザーノ氏は、Oracle AI Data Platformで最も重要な機能としてAgent Hubを挙げる。複数のAIエージェントを選定して連携させる煩雑さを隠し、リクエストを解釈して適切なAIエージェントを呼び出し、推奨を提示して即座に処理へとつなげられるためだ。これによって、事業部門の現場担当者はITに関する専門知識がなくても業務フローを自動化しやすくなり、IT部門はAIエージェント運用の負担を軽減できる。
一方でペトリー氏は、Oracle AI Data PlatformはOracle製品ユーザーにとっては価値がある半面、新規機能の投入というよりも既存機能の集約の意味合いが強いことを指摘する。ベクトル検索機能の精度を高め、非構造化データと構造化データを組み合わせてAIモデルの学習に利用できるOracle AI Database 26aiのように、既存機能の範囲内での強化点はあるものの、最大の意義は機能を集約したことにあると同氏は考える。
「技術的には改良に過ぎないが、AI分野におけるOracleの存在感を強めている。同社は自社の強みを足掛かりに機能を追加しており、これはAIモデルに対する入力データの種類を増やし、出力の質を高めることに貢献している」(ペトリー氏)
競合他社に対する強み
Oracle AI Data PlatformはOracleにとって重要な製品ではあるが、競合他社と比べて優位に立てるほど決定的なものではないというのがペトリー氏の見解だ。OracleはAWS、Google、Microsoftといった他の大手ITベンダーと競合関係にあり続けている。近年ではDatabricksやSnowflakeも強力なライバルとして台頭してきた。これらの競合企業は、データ管理機能に加えてAIアプリケーション開発機能を既に提供している。一例として、AI機能を組み込んだデータ分析ツール群「Microsoft Fabric」は、データ管理、データ発見、データとAIアプリケーションのガバナンス、AIアプリケーション開発といった機能をデータレイク「OneLake」に集約している。
それでもOracle AI Data Platformの投入は、Oracleの既存顧客が競合他社に乗り換えるのを抑制する効果があるとペトリー氏はみる。「Databricks、Snowflake、大手ITベンダーと比較しても、大きな差異化要素は見当たらないが、競合他社がOracleからシェアを奪いづらくなる要因にはなる」
カタンザーノ氏も、Oracle AI Data PlatformがOracleの既存顧客に大きなメリットをもたらすと主張する。とりわけOracle Fusion Cloud ApplicationsやNetSuiteといったOracleの基幹業務支援ツールと深く連携している点、主要なOracleアプリケーション向けに調整された機能が登場する見込みである点が、明確な利点になるという。「Oracle Fusion Cloud Applicationsのサービス群にわたって、Oracle AI Data Platformとデータをスムーズに連携できる点は、既存のOracle製品ユーザーに独自の価値をもたらす」と同氏は語る。
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