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AI研修で週14時間の業務時間削減に成功、一方で離職率上昇という新たな課題もEYの働き方調査で従業員の不安や抵抗感が明らかに

コンサルティングなどを手掛けるEYは、最新の働き方に関する調査「EY 2025 Work Reimagined Survey」の結果をまとめたレポートを発表した。

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人工知能 | 人材管理 | スキル | 業務改善


 コンサルティングなどを手掛けるEYは2025年11月10日(米国 時間)、働き方に関する調査「EY 2025 Work Reimagined Survey」(EY働き方再考に関するグローバル意識調査2025年)の結果をまとめたレポートを発表した。

 世界29カ国の従業員1万5000人とビジネスリーダー1500人を対象に実施されたこの調査では、AI(人工知能)の導入状況と人間側の準備態勢に重大な乖離(かいり)があることが明らかになった。一方で、安定した人材基盤の上でAIを適切に活用すれば、企業における生産性向上効果が最大40%上昇することも指摘されている。

AIへの期待とAIが生み出す価値の間にギャップが生じている

 レポートによると、従業員の88%が日常業務でAIを使用しているものの、その用途は主に検索や文書の要約といった基本的なタスクに限られている。AIを高度に活用して業務を変革している従業員は、ごく一部(5%)にとどまる。AIの普及は進んでいるものの、職場ではAIに関する懸念事項が残っており、そのためにAIへの期待とAIが生み出す価値の間にギャップが生じているとEYは分析している。

 調査に参加した従業員の37%が、AIへの過度な依存が自分のスキルや専門性を損なうことを心配しており、64%が、成果を出すプレッシャーから仕事量が増えていると感じている。

 ところが、AIの生産性向上効果を最大限に引き出すのに十分なトレーニングを受けている従業員は、12%にすぎない。さらに、ビジネスリーダーが社内ツールを提供しようとしているにもかかわらず、「シャドーAI」(従業員がIT部門の許可なしに使うAIツール)がまん延している。業種によってばらつきはあるものの、調査に参加した従業員のうち、独自のAIツールを職場に持ち込んでいる割合は20%を超える。

 技術と企業体制の間にも重大なギャップが生じている。それは、AIや関連する新技術が脆弱(ぜいじゃく)な人材基盤(学習機会の不足、報酬体系の不整合)の上に導入された場合、AIの潜在的メリットが大幅に損なわれてしまうというものだ。人材と技術を効果的に統合している企業(レポートでは、「人材優位性」を持つ企業と位置付けている)は、より大きな価値を生み出す。だが、同調査によると、それを順調に達成している組織は28%にとどまる。

 EY GlobalおよびEY Americasピープルコンサルティングリーダーを務めるキム・ビルター氏は、次のように説明している。

 「AIは至る所に存在するが、企業はその潜在能力を十分に活用できていないようだ。導入は進んでいるが、人間側の準備が整っていないからだ。雇用安定、スキルの侵食、仕事量の増加への不安が抵抗感を生んでいる。企業が人材と技術の両方をうまく活用すれば、AIは莫大な成果をもたらす。しかし、人的側面を軽視すれば、そうした利益は損なわれてしまう」

学習と文化の重要性

 レポートによると、世界全体の「人材健全性」のスコア(従業員が自身の勤務先を他者に推薦する可能性を表す)は、100点満点で65点となり、2024年の55点から10点上昇した(18%増)。これは報酬、育成、企業文化に対する満足度が高まったことを反映している。この改善に伴い、転職意向者(今後12カ月以内に転職する可能性があると回答した人)の割合は29%に減少した。過去4年間の調査で最低の水準だ。なお、ピーク時の2021年は、転職意向者の割合は43%まで達していた。

 労働市場が冷え込む中、従業員は現状維持に傾いている。だが、AIに関しては状況が異なる。導入と継続的な学習を支える文化の醸成には、リーダーシップが重要な役割を果たす。こうした文化は、人材健全性の維持に欠かせない。チームを気遣い、信頼し、権限を与えるリーダーが文化の基調を決めるとレポートは指摘している。

 また、従業員のスキルアップへの投資が変革を促進する一方で、人材定着における課題ももたらすことが分かった。年間81時間以上のAI研修を受けた従業員は、週平均14時間分の業務時間削減を報告している。これは中央値の8時間を大きく上回る。

 しかし、こうした従業員は、平均と比較して55%高い確率で離職する傾向がある。AI人材は引く手あまたであり、外部の労働市場には社内での昇進サイクルを上回る機会があるからだ。ビジネスリーダーは、技術へのアクセス、柔軟性、AIスキルを生かせるキャリア機会を含む包括的なトータルリワード(人事制度、福利厚生、働き方)を提供することで、人材定着における課題を軽減できる。

 ビルター氏は、次のように述べている。「AIの普及が進んでいるのは明らかだが、多くの組織はまだ、そこそこの成果しか得ていない。われわれの調査結果は、AI導入における人的側面への対処が急務であることを示している。AIが働き方を大きく変える中、リーダーは、人材健全性と効果的な技術活用の両方を支える文化を築かなければならない。人材基盤を強化しながらAIアプリケーションを進化させていく企業が、変革的な成果を首尾よく達成するだろう。人と技術が共に成功するための最適な環境を整えることが重要だ」

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